海外でエネルギーや産業インフラ向けのプラント事業を手掛ける日揮グローバルの中で、宇宙領域に特化した「宇宙エンジニア™」。皆さんご寄稿のもと、日本が宇宙領域において抱えている課題や挑戦を発信する当連載。
今回は、2023年10月にアゼルバイジャン・バクーで開催された世界最大級の宇宙国際会議「IAC(International Astronautical Congress)2023」に注目。日揮グローバルはブースを出展し、英語化した月面プラントの「Lumarnity® VR」を初披露。国際会議の現場で何が語られ、宇宙ビジネスはどこへ向かおうとしているのか。IAC2023への参加を通して見えた、世界の宇宙開発の潮流と次の商機についてお話いただきます。(リード=SpaceStep編集部、本文=日揮グローバル 宮下俊一さん)
今回の宇宙エンジニアは

日揮グローバル株式会社 Engineering DX推進室
宮下 俊一さん
1998年入社。サウジアラビア・オマーン・マレーシア・ベトナムなど多くの海外プロジェクトにてOil & GasプラントのEngineeringに従事。2018年よりIT Grand Plan2030策定・推進メンバー、2020年から月面プラント開発責任者を務め、2024年からEngineering DX推進室の室長。Engineering DXを実現した未来の姿として、Lunar Smart Community® (Lumarnity®)を提唱し、宇宙エンジニアTMとして開発管掌・プロジェクトディレクターを務める。
IAC(International Astronautical Congress)は、政府機関・宇宙機関、産業界、大学、宇宙関連団体などが参加する世界最大級の宇宙国際会議です。2023年に第74回を迎え、アゼルバイジャンの首都バクーで開かれました。同国での開催は第24回大会以来、50年ぶりとなります。
宇宙エンジニア™の参加は、IAC2021(UAE・ドバイ)、IAC2022(フランス・パリ)に続いて3回目です。本稿では、今回の参加報告書から公開可能な内容を抜粋し、加筆して紹介します。
第2回レポート:宇宙の知が集まる「国際宇宙会議IAC」に初参加!~【連載】月へ挑む、宇宙エンジニアたち(第2回)
第3回レポート:IAC出展で見えた、現場のリアル【連載】月へ挑む、宇宙エンジニアたち (第7回)
普段はなかなか触れる機会のない国際宇宙会議の一端を垣間見る追体験を通じて、皆さまにも学び・希望・勇気が少しでも届くと幸いです。
IAC (International Astronautical Congress) 2023
開催期間: 2023年10月2日―10月6日
開催場所:(アゼルバイジャン・バクー)
参加目的:
1)ブース出展(ブロンズスポンサー特典)による日揮グローバルのプレゼンス向上
2)最新の国際宇宙計画・各国の動向の把握、及びニーズの探索
3)月面推薬プラント、月面基地等に関わる最新技術・情報の入手

Heydar Aliyev Centre(ヘイダル・アリエフ・センター)は、アゼルバイジャンの首都、バクーにある複合施設
●オープニングセレモニー
開始早々、中国宇宙ステーションからのビデオメッセージが放映され、会場は驚きに包まれました。続いて国際宇宙ステーションからのメッセージが流れ、国際宇宙ステーション(ISSに)へ2度長期滞在した、古川聡宇宙飛行士も登場。この順番からも、いつものIACとは異なる空気を感じます。
続いて登壇したアゼルバイジャン大統領は、聞き取りやすい英語で同国の概要や近年の経済成長、宇宙開発の成果を強調しました。IAC Awardでは、個人部門をイーロン・マスク氏、チーム部門をNASA・ESA・CSAの望遠鏡チームが受賞。一方、同年8月に月面着陸を成功させたインドのチャンドラヤーン3は紹介されませんでした。最後はユヴァル・ノア・ハラリ氏のスピーチで締めくくられています。
イルハム・アリエフ大統領のスピーチ
●スポンサー&ブース展示
前年に続き、日揮グローバルはプレゼンス向上を目的にスポンサーとして参加しました。日本から名を連ねたのは、JAXA、ispace、Astroscale、日揮グローバルの4団体でした。

スポンサーの一覧
日揮グローバルのブース出展は2年目。ポスターや会社案内、チラシといった前年の展示に加え、英語化した月面プラントのLumarnity® VRを初めて披露しました。このVRが呼び水となり、ブースは多くの来場者でにぎわいます。「IAC展示場で最も面白かった」「これまで体験したVRの中でベストだ」との声も寄せられ、総じて高い評価を得ました。
※Lumarnity® VRについてはMetaStepの記事「「想定外」から人気コンテンツが誕生!異業界を繋いだVR活用とは」を参照
VRを待つ列は途切れず、スタッフがほぼつきっきりで対応するほどの反響となりました。同時にVRChat上でLumarnity® VRを公開したところ、1週間で約1,500人のアクセスがありました。展示会初日に体験した来場者が、後半に友人や知人を連れて再訪するケースも少なくありません。偶然立ち寄った東京大学の学生からは、「お台場の日本科学未来館で開催された『月でくらす展』で体験した」との声もあり、認知度の高まりを実感する機会になりました。

Lumarnity® VR体験
前年は当社ブースを撮影する人がほとんどいませんでしたが、今回はVR体験者の動きの面白さもあり、写真や動画を撮る来場者が目立ちました。アゼルバイジャンのメディアから取材を受け、カメラマンはLumarnity® VRの様子を繰り返し撮影。その映像の一部はIAC公式ビデオにも収められています。

日揮グローバル展示ブース
●Technical Session
今回のテクニカルセッションでは、直前のアゼルバイジャンとアルメニアの軍事衝突の影響により、発表の取りやめが相次ぎました。一方、セッションタイトルの傾向を見ると、前年までの「基地(Base)<衛星(Satellite)」が、本年は「基地(Base)>衛星(Satellite)」へと逆転。月面を含む居住基地への関心が年々高まっていることがうかがえます。
参加した日揮グローバルの所感から、ハイライト形式にした抜粋を以下に示します。
前回のパリに比べれば規模も小さく、展示会場もおよそ半分、直前のアゼルバイジャン・アルメニアの軍事衝突の影響もあり、参加者もおそらく前回の6割程度でした。一方で、空港や送迎タクシー、街中の大型ディスプレイにもIACの広告が溢れ、開催国として国をあげて盛り上げようという雰囲気は伝わってきました。
バクーでの開催は2回目でしたが、初回はソビエト連邦としての参加のため、独立後は初の開催でした。オープニングセレモニーでは、イルハム・アリエフ大統領が50年前の写真を横に、アゼルバイジャンはヨーロッパ、イスラム、アジアが重なるマルチカルチャーな中継点であり、橋渡しができる重要な国であると強調していました。また同国は19世紀に世界の石油需要の半分を産出していた国であり、私も知りませんでしたが世界初のオフショア開発(カスピ海)を行ったのも同国であると述べていました。
展示会場・日揮グローバル展示ブースについて、渡航3日前に急遽ブースの場所が変更となる連絡があるなどバタバタした感がありました。しかし、展示会場に着いてみると綺麗にブースも出来ており、また移動先となったブースの場所もサブエントランスの横で人通りも多く、不安は杞憂に終わりました。
メタバース(VR/AR/XR)について特別セッションとして組まれるなど、宇宙におけるメタバースの利用(宇宙飛行士の訓練やシミュレーション等)について活発な議論が行われ、今後は独立したトピックとして論文の発表もありそうだと感じました。もし次回のIACで機会があれば、我々の取組みも発表したいと思います。
ESA(European Space Agency)の月面プラントに対する動きが発信されていました。これまでは殆ど報告がありませんでしたが、レゴリス(月の砂≒酸化金属)からの酸素抽出、氷からの水抽出と電気分解、液化など数多くのISRUに対する動きが発表されていました。
また、アメリカにおいてもブルーオリジン社が推進薬のうち「液体酸素だけ」を製造するプラントの開発に100億円を投じたという情報も得ました。推進薬は液体水素と液体酸素から成りますが、8~9割の質量は液体酸素であるため、液体酸素に的を絞って生産を実施して輸送量を減らすという試みは合理的であると感じました。
「サピエンス全史」のユヴァル・ノア・ハラリ氏のスピーチが聞けたことは非常に有意義であった。ハラリ氏は、人類による惑星支配はもうすぐ終わるかもしれないと述べ、もしかしたら700年後、いや50年後でさえ、AI (Alien intelligenceとArtificial Intelligenceにかけてる)に支配されている惑星を見るかもしれない、と。
我々はいまAlien Intelligenceに遭遇した段階で、数十年後にはAIはこの惑星を覆うだろう、と断言していた。エイリアンは宇宙から来るのではなく、我々のラボラトリーから生み出されたのだ、とも。数千年続いた有機生物の時代は終わり、無機物(デジタル)であるAIが台頭する未来を予言していた。
アゼルバイジャンでは、日本に対するイメージがとても良く親日国でした。街を歩いていても、ロンドンやパリで時折感じるような危険な雰囲気もなく、夜中も女性が普通に歩いており、また一度タクシーに携帯電話を忘れましたが無事に戻ってくるなど、非常に治安の良い国であることが印象に残りました。また郊外には大量の油井が並んでおり、産油国ならではの風景が広がっていました。
ヤナル・ダグ(永遠の火)と呼ばれる、自噴した天然ガスが燃え続けている観光地もありました。その周辺ではコンデンスウォーターとオイルサンドを伴って天然ガスが自噴している沼も多数存在しており、オイル&ガス分野出身の我々は、年甲斐もなくテンションを上げて楽しんでしまいました。

ヤナル・ダグ(永遠の火) 地中から噴き出る天然ガスによって、雨や雪の日でも何百年〜数千年にわたり絶えず燃え続けている
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