1. SpaceStep TOP
  2. 宇宙ビジネスを身近にする
  3. 宇宙で日本酒をつくる! 獺祭と三菱重工、そしてオールジャパンで挑んだ軌跡

2026.08.19

宇宙で日本酒をつくる! 獺祭と三菱重工、そしてオールジャパンで挑んだ軌跡

人類が月面や宇宙空間へと活動領域を広げる中で、重要なのは生き延びるためのインフラ構築だけではない。いかにして「生活の質(QOL)」、豊かな食文化を維持するか。極限環境下において心身の豊かさを保つ手段の確立は、将来の宇宙長期滞在における不可欠なテーマだ。ここに挑み、日本の技術力を結集した画期的なプロジェクトが実を結んだ。

2026年4月、株式会社獺祭と三菱重工業株式会社は、国際宇宙ステーション(ISS)での清酒醸造試験を終え、「獺祭MOONプロジェクト」第一弾ミッションを完遂した。ISS「きぼう」船内で発酵を終え、地上へ帰還したもろみから、アルコール度数12%の清酒を仕上げることに成功。宇宙空間でのアルコール発酵プロセスを確立したこの試みは、月面での生活を見据えた文化インフラの構築に向けた、大きな第一歩となる。(文=SpaceStep編集部)

月面重力下で清酒の醸造を確認。新たな研究の呼び水にも


(引用元:PR TIMES

2026年4月28日。獺祭と三菱重工は、共同開発した専用の醸造装置を用いて国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟で実施した清酒醸造試験を終え、「獺祭MOON-宇宙醸造-」が仕上がったことを公開した。

本ミッションでは、月面の重力環境(地球上の約6分の1)を模した状態で2週間にわたる発酵試験が行われた。宇宙飛行士の油井 亀美也 氏が現地での作業を担当。地球へ帰還した約260gのもろみを獺祭の本社蔵で搾った結果、アルコール度数12%の清酒116mlを抽出することに成功した。これにより、月面重力下でも地上と同様の製造プロセスで清酒を醸造できることが実証されたのだ。

一方で、地球上に比べて発酵動態が緩慢になる現象も確認され、重力条件が発酵速度に影響を与えるという、貴重な科学的示唆も得られている。今後、さらなる研究が予定されている。

この挑戦を支えたのが、日本の宇宙開発エコシステムだ。国産のH3ロケット7号機および新型宇宙ステーション補給機「HTV-X1号機」による輸送をはじめ、JAXAや民間宇宙企業、多数の製造・物流企業が連携した、オールジャパンの体制で遂行された。完成した清酒のうち100mlは、挑戦の証として1億1,000万円(税込)で販売され、その売上金は今後の日本の宇宙開発へ寄付される予定だという。


(引用元:PR TIMES

宇宙で豊かな生活を。空の上で食文化の未来を紡ぐ

「獺祭MOONプロジェクト」の成果が示唆するのは、宇宙空間における産業や開発の目的が、「生存するための最低限のインフラ維持」から「人間らしく豊かに暮らすための生活基盤の創出」へと拡大し始めたという事実である。


(引用元:PR TIMES

これまでの宇宙ビジネスは、ロケットによる輸送や人工衛星を用いた通信・観測といった物理的なインフラが主役であった。しかし、人々が長期間にわたって宇宙や月面で暮らす未来においては、食文化や嗜好品、発酵食品といった「心の豊かさを支えるコンテンツ」が重要な意味を持つようになる。月面重力下でアルコール発酵を成功させた実績は、将来の宇宙基地における自給型の食品加工やバイオ技術の適用に向けた確かな土台となるだろう。

さらに、醸造装置の開発から軌道上での実験、地上への回収、そして分析に至るまでのプロセスを日本の技術基盤を中心に完遂した点は、グローバルな宇宙産業における日本のプレゼンスを高める上でも価値が高い。日本が持つ精密な製造技術と伝統的な発酵ノウハウの融合は、他国にはない独自の強みとなり得るはずだ。

日本の宇宙開発は、宇宙における人類の豊かな暮らしを設計するフェーズに入った。獺祭と三菱重工、そしてオールジャパンのチームが示した成果は、未来の月面社会を支える不可欠な基盤となりえよう。