
皆さん、こんにちは。JMP(JapanStep Media Project)プロデューサーの長谷川浩和です。宇宙に関心を持つ学生が業界のキーパーソンに率直な疑問をぶつける連載「学生が聞く、宇宙のリアル」。第1回では、Space BD株式会社 代表取締役社長の永崎将利さんに、「宇宙商社®」の役割や、宇宙が日常の前提になっていく未来について伺いました。
第2回のテーマは、宇宙産業で働くことのリアルです。宇宙産業は、理系の専門人材だけが関わる領域なのでしょうか。それとも、理系・文系の枠を越えて、多様な人が力を発揮できる産業なのでしょうか。技術と事業の関係、Space BDの組織づくり、さらには宇宙と茶道・哲学のつながりまで、学生ならではの問いから対話が広がっていきます。ぜひお楽しみください。(文=JMPプロデューサー 長谷川浩和)
今回のインタビューを担当したのは

宇宙広報団体「TELSTAR」元代表/東京都立大学 システムデザイン学部 航空宇宙システム工学科
高瀬 知音 さん
宇宙広報団体「TELSTAR(テルスター)」とは
宇宙に関心を持つ学生たちが中心となり、同世代や次世代に向けて宇宙の魅力と可能性を発信する宇宙広報団体。マガジン制作やイベント活動などを通じて、宇宙をより身近に感じる機会を届けている。JMP(JapanStep Media Project)の後援パートナーとしても参画している。https://spacemgz-telstar.com/

Space BD株式会社 代表取締役社長 永崎 将利さん(写真右)
1980年、福岡県北九州市生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、三井物産に入社し、人事、鉄鋼貿易、鉄鉱石資源開発などを担当。2013年に独立し、教育事業の立ち上げを経て、2017年に宇宙ビジネス領域でSpace BDを創業。衛星打上げサービスやISS利用サービスなどを通じて、宇宙の商業利用を切り拓く。「宇宙産業を、日本を代表する一大産業にする」という志のもと、国内外の企業・研究機関をつなぎ、宇宙産業の事業開発に取り組んでいる。永崎さんの原点に迫るインタビューは、『JapanStep』の連載「社長の原点」でも掲載している。
高瀬 宇宙産業というと、どうしても理系の人が活躍するイメージがあります。私自身も航空宇宙を学んでいるので、宇宙に関わるには高度な専門知識が必要なのだろうと感じる場面があります。一方で、宇宙ビジネスを広げていくには、技術だけでなく、事業をつくる力、社会に伝える力、制度を設計する力も必要なのではないかと感じています。
永崎 その問いは、宇宙産業を考えるうえでとても重要だと思います。私自身は、理系・文系という分け方に、必要以上にとらわれない方がよいと考えています。もちろん、専門性は大切です。ただ、「自分は理系だから」「自分は文系だから」と最初から線を引いてしまうと、思考の幅が狭くなってしまうことがあります。
高瀬 理系・文系という言葉そのものが、可能性を狭めてしまうこともあるということでしょうか。
永崎 そうです。人は、自分が浴びている言葉によって考え方がつくられていきます。「文系だから技術は分からない」「理系だからビジネスは苦手」と言い続けていると、本当にそういう前提で考えるようになってしまう。宇宙産業はまだ新しい産業です。だからこそ、既存の枠組みにとらわれず、多様な人が関われる余地があります。
高瀬 たしかに、宇宙産業が広がっていくほど、関わり方も増えていきそうです。

永崎 宇宙産業は、技術だけで完結するものではありません。技術がなければ成り立ちませんが、技術だけでも社会には届きません。どのような価値をつくるのか。誰に届けるのか。どのように事業として成立させるのか。そこには、技術者だけでなく、事業開発や営業、制度設計、社会との接点を担う人など、多様な役割が必要になります。
高瀬 宇宙というと、どうしてもロケットや衛星のイメージが強いですが、その周りにたくさんの仕事があるのですね。
永崎 そうですね。宇宙産業を本当に大きな産業にしていくためには、技術を社会につなぐ人が必要です。その意味では、理系・文系を分けて考えるよりも、自分がどのような価値を発揮したいのかを考えることの方が大切だと思います。
高瀬 Space BDさんは「宇宙商社®」として紹介されることもありますが、先ほどのお話を聞いていると、技術への理解が、事業の根幹にある会社なのだと感じました。
永崎 その通りです。Space BDは商社という言葉を掲げていますが、一般的な商社のイメージだけでは捉えきれません。宇宙産業では、技術への理解がなければ事業を前に進めることができないからです。
高瀬 具体的には、どのような場面で技術への理解が必要になるのでしょうか。
永崎 例えば、衛星を打ち上げるといっても、ただロケットに載せればよいわけではありません。衛星の形、大きさ、重さ、担うミッション、ロケット側の条件、打ち上げ環境など、調整しなければならないことが数多くあります。ロケットによって振動環境も違いますし、衛星ごとに求められる条件も違います。そこを理解し、技術的に調整できなければ、お客様が目指すミッションを成立させることはできません。
高瀬 宇宙にものを運ぶだけでも、高度な調整が必要なのですね。
永崎 はい。地上の成熟した産業であれば、規格化されているものも多い。しかし、宇宙産業には、まだ標準化されていない領域が多く残っています。だからこそ、技術と事業の間に立ち、双方を理解しながら進めていく役割が必要になります。
高瀬 Space BDさんの中には、技術者の方も多いのでしょうか。
永崎 現在のSpace BDは、技術者や技術バックグラウンドを持つメンバーの割合が高くなっています。創業当初から今のような体制だったわけではありませんが、宇宙産業で本当に価値を出そうとすれば、技術を理解し、技術者と一体で動く体制が不可欠だと考えるようになりました。
高瀬 永崎さんご自身は、早稲田大学の教育学部ご出身ですよね。技術者の方々と一緒に組織をつくるうえで、難しさを感じることはありますか。
永崎 あります。私はエンジニアではありません。だからこそ、技術者の価値を本当に理解できているのか、きちんと評価できているのかという問いは常に持っています。技術者にとって何が面白い仕事なのか、何に不安を感じるのか、どのようなキャリアを描きたいのか。そこを理解しないままでは、技術者が力を発揮できる組織はつくれません。
高瀬 技術者を採用するだけでなく、安心してキャリアを描ける環境をつくる必要があるということですね。
永崎 そうです。技術者が事業の中心で力を発揮できる会社にしたい。そのためには、人事制度やキャリアパスも含めて考える必要があります。営業や事業開発のメンバーと技術者が一体となって成果を出す。これは簡単なことではありませんが、Space BDとして非常に大事にしているところです。
高瀬 技術と事業をつなぐというお話は、とても印象的でした。一方で、宇宙産業はまだ新しい産業だからこそ、事業をつくる難しさも大きいのではないかと思います。
永崎 まさにそこが難しさであり、面白さでもあります。成熟した市場であれば、お客様の課題や価格感、競合環境がある程度見えています。いわゆるマーケットインの発想もしやすい。しかし宇宙産業には、そもそも市場がまだ十分に形成されていない領域が多い。
高瀬 市場がないところで、どう事業をつくるかを考えなければならないのですね。
永崎 そうです。だからこそ、技術的な発想が必要になります。マーケットが成熟していれば、お客様の声を聞いて改善していくことができます。しかし、まだお客様自身も、宇宙を使って何ができるのかを明確に描き切れていない場合があります。そのときに、「この技術を使えば、こういうことができるのではないか」「宇宙を使えば、こういう課題にアプローチできるのではないか」と考える力が必要になる。

高瀬 技術が分かっているからこそ、まだ見えていない市場を想像できるということですね。
永崎 そうです。宇宙産業では、技術を理解しないまま事業だけを描いても、現実には進みません。一方で、技術だけを磨いても、社会に届かなければ産業にはならない。技術と事業の両方を行き来する力が必要です。
高瀬 その意味では、宇宙産業は理系と文系の境界を越えざるを得ない領域なのかもしれません。
永崎 そう思います。むしろ、宇宙産業が広がっていく過程で、理系・文系という固定観念そのものが少しずつ変わっていくかもしれません。技術者がビジネスを考えることもあるでしょうし、文系出身の人が技術を学びながら事業をつくることもある。大事なのは、自分の専門の外側に関心を持てるかどうかです。
高瀬 自分の専門だけに閉じないことが大切なのですね。
永崎 はい。宇宙産業は、技術、事業、制度、国際関係、社会受容など、多くの変数が絡む産業です。だからこそ、一人の専門性だけでは解ききれない課題が数多くあります。その複雑さを面白いと思える人にとっては、とても魅力的な産業だと思います。
高瀬 複雑だからこそ、多様な人が関われる余地があるのですね。
永崎 その通りです。まだ成熟しきっていない産業だからこそ、自分たちでつくっていける。そこに、宇宙産業の面白さがあります。
高瀬 ここまで、宇宙産業を技術や事業の視点から伺ってきました。ここで少し視点を変えたいのですが、私は以前、茶道に取り組んでいたことがあります。茶室の中には独特の静けさがあって、その空間が、宇宙の静寂のようなものと重なる感覚があります。
永崎 その視点は、とても興味深いですね。
高瀬 茶室は、ただお茶を飲む場所ではなく、人と人が向き合い、対話する場でもありますよね。歴史的にも、交流や思索の場としての側面を持っていたと思います。もし宇宙に関わる研究者や経営者が、茶室のような空間で対話したら、普段とは違うアイデアが生まれるのではないかと思いました。宇宙と茶道を掛け合わせるような企画も、いつかできたら面白いのではないかと感じています。
永崎 とても良い視点だと思います。宇宙というと、どうしてもロケットや衛星のイメージが強いですが、それはロケットで到達する空間であり、衛星を打ち上げ、技術を活用する物理的空間としての宇宙です。ただ、宇宙の捉え方はそれだけではない広がりがあってよいと思います 。
高瀬 物理的な場所としての宇宙だけではない、ということでしょうか。
永崎 はい。例えば、仏教には小宇宙や大宇宙という考え方があります。人間の内側にある宇宙、自然の中にある秩序、そして私たちを取り巻く大きな流れ。そうしたものも、広い意味では宇宙とつながっていると思います。私は、宇宙を技術や産業の対象としてだけでなく、人間や社会を考えるための視点としても捉えたいと考えています。
高瀬 宇宙を考えることが、人間や社会を考えることにもつながるのですね。

永崎 そうです。経営にも近いところがあります。企業を経営していると、人間とは何か、組織とは何か、社会にどのような価値を出すのかを考え続けることになります。そのとき、短期的な経済合理性だけでは答えが出ないこともあります。自然や宇宙を大きな視点で捉え、そこから学ぶ感覚は、経営にも必要だと思っています。
高瀬 宇宙ビジネスというと、技術や市場の話が中心だと思っていましたが、哲学や文化ともつながるのですね。
永崎 むしろ、そこが宇宙の面白さだと思います。宇宙は、産業や科学の対象であると同時に、文化や哲学とも深く結びついている。だからこそ、多様な人が関われる余地があります。茶道と宇宙という発想にも、大きな可能性を感じます。技術者や経営者が茶室のような空間で宇宙について語り合う。そこから新しい発想が生まれる可能性は十分にあるのではないでしょうか。
高瀬 宇宙は理系の専門領域だと思われがちですが、今日のお話を聞いて、実はもっと広いものなのだと感じました。
永崎 そうですね。宇宙をどう使うかだけでなく、宇宙をどう捉えるか。その問い自体が大切だと思います。宇宙産業を広げていくには、技術者だけでなく、事業をつくる人、社会に伝える人、文化や思想の視点を持つ人も必要です。そうした多様な人たちが関わることで、宇宙産業の可能性はさらに広がっていくはずです。
高瀬 宇宙産業で働くということは、単に専門知識を活かすだけではなく、自分の関心や経験をどう宇宙と結びつけるかを考えることでもあるのですね。
永崎 そうだと思います。自分の中にある関心や違和感、面白いと思う感覚を大事にしてほしいですね。次回は、自分自身の進路やキャリアをどう考えるかについて、さらに掘り下げていければと思います。
【第3回(若い世代がキャリアで考えるべきこと)に続く】