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2026.07.17

福井発、老舗ものづくり企業が宇宙へ。セーレンが挑む超小型衛星事業【連載】宇宙をみんなの遊び場に

皆さん、こんにちは。宇宙ビジネスナビゲーターの高山久信です。宇宙ビジネスというと、ロケットや人工衛星を専門に手掛ける企業だけの世界だと思われるかもしれません。しかし実際には、地上のさまざまな産業で磨かれてきた技術やものづくりの力が、宇宙産業の広がりを支えています。

今回お話を伺ったのは、セーレン株式会社 宇宙システム事業部 事業部長の中村博一さんです。セーレンは、1889年に福井で創業した総合繊維メーカーです。繊維の精練・染色から始まり、自動車内装材やエアバッグなどへ事業領域を広げてきた同社が、いま超小型人工衛星の開発・製造に取り組んでいます。なぜ、130年以上の歴史を持つものづくり企業が、宇宙に挑むのか。その歩みをたどると、宇宙ビジネスを自分たちの仕事とつなげて考えるためのヒントが見えてきました。(ナビゲーター=高山久信/文=JMPプロデューサー 長谷川浩和)

今回のゲスト

セーレン株式会社 宇宙システム事業部 事業部長
中村 博一さん
(写真右)

総合電機メーカーにて複合機の開発や新規事業開発を経て、2017年に総合繊維メーカーのセーレンに入社。超小型人工衛星プロジェクトをはじめとする宇宙関連事業開発に従事し、技術検討から事業化まで幅広く携わる。現在は、衛星事業者などとの連携を通じて、衛星コンステレーションの構築を支える超小型衛星の量産化に取り組む。あわせて、宇宙分野における新規事業開発や、福井県内の産学官連携による宇宙産業創出にも注力している。

ナビゲーター

宇宙ビジネスナビゲーター / 株式会社minsora 代表取締役社長
高山 久信さん
(写真左)

1954年、大分県豊後大野市生まれ。高校卒業後、三菱電機に入社し、約40年にわたり人工衛星、ロケット、国際宇宙ステーション関連事業などに携わる。その後、三菱プレシジョンや宇宙システム開発利用推進機構などで宇宙関連事業に従事。2019年に株式会社minsoraを創業し、地域発の宇宙ビジネス、衛星データ利活用、教育・研修事業を展開。宇宙を一部の専門家だけの領域に閉じず、地域や異業種の企業が参加できる産業へ広げる活動を続けている。日本ロケット協会理事としても産業振興に取り組む。

繊維から自動車、そして宇宙へ。セーレンの変革の系譜

高山 中村さん、本日はよろしくお願いいたします。前回の対談でお話を伺ったシナノケンシさんからご紹介いただき、今回、福井の地に来ることができました。まずは、このような機会をいただけたことを大変うれしく思います。

中村 福井までお越しいただき、ありがとうございます。本日はよろしくお願いいたします。

高山 まずは、セーレンさんという会社の歩みについて、あらためて伺わせてください。130年以上の歴史を持つものづくり企業として、どのように時代の変化と向き合い、事業領域を広げてこられたのか。そこからお聞かせいただけますでしょうか。

中村 セーレンは1889年、明治22年に創業した会社です。繊維の会社で、社名のセーレンは、絹の「精練(せいれん)」という工程に由来しています。当時の繊維業界は分業制で、蚕の繭から引き出した生糸(きいと)に含まれる天然の不純物を落とす工程がありました。生糸には動物性のタンパク質が付着しているため、それを洗い落とす必要があります。その工程が「精練」です。「精錬」と、その後の工程の「染色」、つまり色をつける工程が当社の祖業です。

繊維産業は、かつて日本を代表する産業の一つでした。ただ、時代の変化とともに、厳しい局面も迎えました。30年ほど前には、会社として大きな危機感を持つ時期もありました。そのときに、現在の代表取締役会長/最高経営責任者である川田達男が成長産業に挑戦するという方向に舵を切りました。

高山 繊維の会社として長い歴史と技術をベースに、時代に合わせて事業を変えてこられたのですね。

中村 そうですね。繊維の技術を大切にしながら、それを成長産業へ展開していくという考え方です。現在では、自動車産業向けの内装材、たとえばカーシートやエアバッグなどが大きな事業になっています。繊維の技術を、衣料だけではなく、自動車、エレクトロニクスやメディカルなど新しい産業領域へ広げてきた会社だと言えると思います。

その意味で、宇宙事業も決して突然始まったものではありません。会社として、常に次の成長分野に挑戦していく文化がありました。その延長線上に、宇宙への挑戦があります。

高山 宇宙というと、まったく別世界のように感じる方も多いと思います。ただ、セーレンさんの歴史を伺うと、繊維から自動車やエレクトロニクス、そして宇宙へと、技術を時代や社会のニーズに合わせて、事業領域を広げてきた取組みの中にあるのですね。

中村 はい。もちろん宇宙には宇宙ならではの難しさがあります。ただ、自分たちが長年培ってきた技術やものづくりの考え方を、少しずつ新しい領域へ広げていく。そういう考え方で取り組んできました。

「いま世界へ、やがて宇宙へ。」未来を見据えた言葉があった

高山 セーレンさんの挑戦の歴史の中に宇宙事業があることがわかりました。その宇宙に関わり始めたきっかけについて、お聞かせください。

中村 2000年代に入って、会社としてグローバル化を進めていこうという流れがありました。自動車業界でも海外でのものづくりが広がっていた時期で、私たちも海外拠点を広げていきました。その中で、当時から「いま世界へ」という言葉を掲げていました。

ただ、その隣に「やがて宇宙へ。」という言葉もあったのです。2006年頃のことです。まだ宇宙事業を手掛けていませんでした。それでも、当時から宇宙という言葉が掲げられていました。

高山 それは印象的ですね。まだ宇宙の事業が具体化していない段階から、その言葉があったのですね。

中村 はい。会長に何かしら思いがあったのだと思います。その後、実際に宇宙分野との接点が生まれていきました。2009年頃から、ロケット用部材を作り始めています。ロケットのフェアリングの内側で、人工衛星に伝わる衝撃や振動を緩和するための部材です。

私たちが培ってきた繊維や素材の技術は、ロケットという宇宙分野に活かせることを実感しました。それが、セーレンにとって宇宙への最初の入り口でした。

高山 いきなり人工衛星をつくり始めたのではなく、まずは自社の技術が活きる部材から宇宙に入っていったのですね。

中村 そうです。その後、2015年頃に、福井県の産業創出の流れの中で、宇宙が新しいテーマとして掲げられました。福井県としても、人口減少や新産業の創出という課題を抱える中で、宇宙産業に取り組もうという動きが生まれていきました。

セーレンも福井県を代表する企業の一社として、その動きに参画しました。もしかすると、2006年頃からあった「やがて宇宙へ。」という言葉とも、社内でどこかつながっていたのかもしれません。

 

4人のチームから始まった、超小型衛星への挑戦

高山 2015年に、最初は4人ほどの人工衛星チームから始まったと伺っています。そこから、どのように超小型人工衛星の開発へ進んでいったのでしょうか。

中村 大きなきっかけの一つが、当時東京大学の中須賀真一先生(現・立命館大学総合科学技術研究機構 教授/立命館大学学長特別補佐)との出会いでした。2015年の年始に中須賀先生が福井に来られ、宇宙に関する講義をしてくださいました。福井県内の企業のエンジニアが集まり、宇宙や人工衛星について学ぶ機会になりました。そこから、勉強会のような形で研究会が始まりました。最初は学ぶところからです。ただ、1年ほど経つと、「自分たちでも手を動かして作ってみよう」という流れになっていきました。

高山 勉強会で終わらせず、実際につくる方向へ進んだのですね。

中村 はい。2016年頃からは、東京大学の中須賀研究室にエンジニアを派遣して、研究現場で小型人工衛星の実地学習を始めました。当時は、キューブサット(CubeSat)のような超小型衛星でビジネスが成立するとは、まだ多くの人が考えていなかった時期だったと思います。

ただ、ちょうどその頃、米国では民間の地球観測会社「Planet」のように、超小型衛星を多数運用して、毎日、衛星観測画像を提供するビジネスに取り組む企業が現れ始めていました。世界的に宇宙を利用するという新たな潮流が起き始めていたのです。

私たちは中須賀研究室で学びながら、エンジニアが実際に手を動かす機会もいただきました。その中で、先生方からも「一緒にやれるかもしれない」と見ていただけたのだと思います。2017年には東京大学と共同研究を結び、2機の人工衛星を共同開発しました。そして2019年に、国際宇宙ステーション(ISS)から放出し軌道投入しました。

高山 2015年に学び始め、2017年に共同研究へ進み、2019年にはISSから放出された。学びから始まった取り組みが、実際の宇宙での実績へと進んでいったわけですね。

中村 そうですね。その頃には、日本でも小型人工衛星を産業として広げていく動きも、徐々に生まれていました。大型人工衛星に携わっていた方々が小型人工衛星の領域に入ってきたり、大学発のスタートアップが生まれたりしていました。

私たちも、研究開発を一緒にしていた方々と、宇宙の産業化に向けて、セーレンとして何ができるのかを考え始めました。

セーレン株式会社が開発・運用している超小型人工衛星「TIRSAT」。この衛星には、JAXAや東京大学と共同開発された高精度な「AOCS(姿勢・軌道制御ユニット)」が搭載されている

高山 私が宇宙ビジネスに関心を持つ企業の方々と話していて感じるのは、宇宙という言葉だけで、必要以上に遠い世界だと受け止められてしまうことです。宇宙と聞くと、いきなり太陽系や宇宙空間の話になってしまう。しかし、人工衛星は、基本的に地球上での「ものづくり」です。

もちろん宇宙空間の環境に耐えるための試験や考え方は必要です。ただ、「ものづくり」のプロセスそのものは、地上の産業で培われてきた技術と重なる部分が多いのです。そのことを知ってもらうことが、最初の壁を越える上で大切だと考えています。

中村 まさにそうだと思います。私自身、学生時代は機械系のシステムエンジニアリング系の学科で学びました。隣が航空宇宙工学科でしたが、当時は、航空宇宙はどこか敷居が高いと感じていました。その後、電機業界でシステムエンジニアリングに携わり、セーレンに入って宇宙の仕事をやるとなったときに、改めて人工衛星の技術を見てみると、「これはできるな」と思いました。違うのは、人工衛星が動く環境だけだと感じたのです。

高山 宇宙について知ることで、見え方が変わったわけですね。

中村 はい。知らないから遠く見える。壁が高いと考えてしまう。けれども、技術の中身を見ていくと、自分たちがこれまでやってきたことを活かせる部分がある。そこに気づけるかどうかは大きいと思います。

超小型衛星の量産に、地上のものづくりを持ち込む

高山 セーレンさんの強みは、繊維や自動車部材で培ってきた生産プロセスにあると感じています。材料を調達し、工程を組み、品質を保証して、製品として出す。この一貫したものづくりの力は、これから量産化が進む小型人工衛星の製造では、非常に重要です。

中村 はい。私たちだけが特別ということではありませんが、ものを作り、事業として成立させるために必要な基盤は、長年の中で蓄積してきました。工程を作る、調達をする、品質を保証する、生産を管理する。そういったことです。

いま小型人工衛星をたくさん作ろうという動きがあります。ただ、実際に多数機を作るとなると、品質やコスト、納期を管理しながら、安定して製造する力が必要になります。そこは、これまでの宇宙業界、特に人工衛星の製造では、十分に整備されてこなかった部分でもあるのではないかと思います。

高山 従来の宇宙開発では、研究開発として一品ものを作ることがほとんどでした。同じ品質で複数機を安定的に作ることには、求められる技術力が異なります。いま求められているのは、性能、品質、信頼性を担保する技術力です。

セーレンさんは、自動車部材の製造で多品種少量のものづくりを経験されています。車種ごとに部材が変わりますし、品質保証も求められる。その経験は、超小型人工衛星の多数機製造にもつながるはずです。

中村 そうですね。私たちのパートナーの方々からも、そこを評価していただいているのだと思います。私たちは「こういう技術がありますが、どうですか」と売り込むというより、「一緒にやらせてください」と現場に入り、課題を一緒に考えてきました。

何ができるのかを相手に委ねるだけではなく、自分たちも一緒に考える。その姿勢は、自然にやってきたことですが、そのような私たちの姿勢を評価していただけているのかもしれません。

高山 注文を待つのではなく、一緒に現場に入り、何ができるかを考える。これは、宇宙に限らず、新規事業に挑むうえで大切な姿勢ですね。

宇宙を“事業”にするための体制をつくる

高山 現在は「宇宙システム事業部」として、より本格的な事業体制を整えられていますね。ここまでの組織の変遷についても教えてください。

中村 2015年にR&D部門内の人工衛星チームとして始まり、2021年には人工衛星グループになりました。そして2026年4月に、宇宙システム事業部という事業部門になりました。

背景には、国の宇宙産業分野への投資や産業育成の流れがあります。宇宙が戦略的な分野として位置づけられ、資金も流れ始めています。その潮流に対して、私たちもきちんと組織を作り、パートナーの方々と一緒に産業を作る基盤を整える必要がありました。

研究開発の延長で進めるだけではなく、品質保証や調達、製造体制を整え、事業として進めていく。そのための体制を整えたということです。宇宙・人工衛星事業において、2030年度に売上高60億円という目標を掲げています。

高山 宇宙産業を本当の意味で産業にしていくには、研究開発の延長だけではなく、事業として回していく体制が必要になるわけですね。

中村 はい。まだ、宇宙産業は民間の資金だけで循環しているとは言えません。国の資金や、政府などが初期需要を支える仕組みも重要な役割を果たしています。ただ、それは将来、民間の資金で循環する産業にしていくためのものだと捉えています。私たち自身も、会社の中で事業として成立させなければなりません。国の資金を呼び水に民間資金で事業が回るようにしていくことが、宇宙産業を持続的な産業にするためには欠かせないと思います。

“使う側”の声が、宇宙産業を広げていく

高山 私自身も宇宙産業を持続的な産業にすることに対して、強い課題意識を持っているところです。宇宙産業は、ロケットや人工衛星を作る側だけでは広がりません。例えば、衛星からのデータを提供する人工衛星を作る人、衛星データを加工してサービスにする人、そしてそれを使う人。この三者がそろって、初めて宇宙ビジネスは広がっていきます。

農業、林業、漁業、防災、自治体業務など、地上には衛星データが役立つ領域が数多くあります。ただ、使う側の人たちが宇宙から何が提供されているかを知らなければ、需要は生まれません。

中村 本当にその通りです。宇宙産業構造を見ると、どうしても作る側の視点で語られがちです。でも、それだけでは産業になりません。農業に携わる方、林業に携わる方、漁業に携わる方。そうした使う側の方々からの声が必要です。

福井県民衛星の取り組みでも、人工衛星を作る製造チームと、衛星データを使う利活用チームがありました。つくる側と使う側を並行して考えようとしたわけです。自治体をモデルケースにして、農地の管理や森林伐採、河川の監視などに使えないかを考えてきました。

ただ、そこで大事なのは、サービスを作りたい人だけでなく、それを実際に使い、対価を払う人が誰なのかです。そこを巻き込まないと、本当の利活用にはなりません。

セーレン、福井テレビジョン放送、国立大学法人福井大学、福井工業大学で共同開発した3Uサイズのキューブサット「FUSION-1(フュージョンワン)」。2025年1月に打上げられ、画像取得にも成功した

FUSION-1は打上げ後、予定の軌道に投入され、2025年1月15日 日本時間22時41分に福井工業大学あわら宇宙センターの衛星地上局で試験電波による通信が正常に機能していることを確認しました。

高山 「こういうサービスなら使いたい」と言ってくれる人がいて、初めて人工衛星を作る必然性が生まれます。作る側と使う側の間にループを作ることが、宇宙ビジネスの大きなテーマですね。

中村 はい。人工衛星を増やすためには、使う側から「こういう役目を持つ人工衛星が必要だ」という声が出てくることが重要です。その声があって初めて、作る側の産業も広がっていきます。

宇宙への挑戦が、人材を惹きつける

高山 ところで、セーレンさんが宇宙事業に取り組んだことで、事業面以外に生まれた変化はありますか。

中村 一番大きいのは人材だと思います。新卒採用において、宇宙に挑戦している会社として関心を持っていただけるようになりました。

セーレンは繊維を祖業とする会社ですので、従来は化学系の学生に関心を持っていただくことが多かったと思います。ただ最近は、機械、電気、ソフトウェアの人材も応募してくれるようになっています。そして、宇宙関係の学科で学んだ方々からの関心も高まっています。

高山 宇宙に挑戦していることが、会社の見え方を変えているのですね。

中村 そう思います。宇宙事業を立ち上げるまでは、社内ベンチャーのような雰囲気もありました。新しいことにチャレンジしているという思いは、立ち上げメンバーの中で共有されていたと思います。

これからは、宇宙システム事業部という組織になった中で、新しく入ってくるメンバーたちがどういう思いでこの事業に関わっていくのかが重要になります。

高山 私が宇宙への参入を考えている会社の方へコンサルティングを行っている際に、新規事業として宇宙に入るとき、社員の方々が「これは継続する事業なのか」と不安に思うという声があることを伺うことがあります。将来にわたって継続する事業なのかが見えなければ、いくら関心があっても、自分の仕事として踏み出しにくいのだと思います。だからこそ、経営層のコミットメントが重要だと考えています。セーレンさんの場合、社長ご自身が宇宙チームの立ち上げに関わってこられたことも、大きな意味があるのではないでしょうか。

中村 はい。それは非常に大きいですね。現在の代表取締役 社長執行役員である山田英幸は、宇宙チームの立ち上げを主導しました。当時は研究開発センターの責任者であり、会社の役員でもありました。経営層と一緒に作り上げてきたという意味では、宇宙事業は、とても恵まれた環境だったと思います。

セーレンは、会社として決めるまでは慎重ですが、決めたらきちんと動く。投資をすると決めたら投資をする。そのような企業風土があります。これが新しい事業を進めるうえで大きな後押しになっています。

日本のものづくりは、宇宙のサプライチェーンを支えられる

高山 日本全体の宇宙ビジネスの可能性についても伺いたいです。中村さんは、いまの日本の宇宙産業をどのように見ていますか。

中村 グローバルに見ても、日本の宇宙産業の動きは注目されていると思います。政府も宇宙分野への投資を強化していることもあり、海外からも、日本の動きに関心が寄せられています。ただ、欧州やアメリカなどと比べると、勢いには差もあります。

一方で、日本にはものづくりの技術力が確実にあります。私は以前、電機業界にいましたが、そこでも高い技術力を感じていました。領域によって課題はありますが、ものづくりの力は日本の中に確かにあります。

ただ、その力が宇宙分野にまだ十分に活かされていない。そこが課題だと思います。

高山 超小型人工衛星を多数機作る時代になると、サプライチェーンが非常に重要になります。小型人工衛星の品質、コスト、納期を満たすサプライヤーチェーンをつくる必要がありますが、そこに日本企業のものづくりの力が活かせるはずです。

中村 そうですね。多数機製造に取り組む会社は国内にも出てきていますが、サプライチェーンにはまだ課題があります。品質、コスト、納期、いわゆるQCDを満たすサプライヤーが必要です。グローバルでは、人工衛星の多数機製造に向けたサービスや仕組みがどんどん作られています。日本の企業にも、その力はあります。だからこそ、ものづくりの知見を宇宙産業に接続していく必要があると感じています。

地上で培った技術を、宇宙の暮らしへ

高山 ここで、セーレンさんとしての今後の展望をお聞かせください。宇宙システム事業部として、これからどのような方向を目指していくのでしょうか。

中村 大きく二つあります。一つは、人工衛星事業者のパートナーとして、衛星コンステレーションを構築し、サービスをつくっていく方々と並走することです。パートナーが構想する衛星プラットフォームを、私たちが製造面から支えていく。そこが、私たちの重要な役割です。

もう一つは、セーレンが培ってきた技術を、宇宙の分野に展開していくことです。セーレンの技術は、地上では人の暮らしの近くで使われています。衣服もそうですし、自動車やエレクトロニクスなどにも関わっています。

将来、人類の経済圏や生活圏が宇宙へ広がっていく可能性は、十分にあると思います。そのときに、セーレンの技術を宇宙の環境にも展開し、そこで暮らす人々の生活を支えていくこともセーレンの役目だと考えます。

高山 宇宙に行く技術だけでなく、宇宙で暮らすための技術へ。地上で人の暮らしを支えてきた技術が、宇宙でも活きる可能性があるわけですね。

中村 はい。ゼロからまったく新しいことをやるわけではありません。すでに持っている技術を、宇宙という新しい環境へどう広げていくか。その挑戦だと思っています。ここで、セーレンの場合、人工衛星技術で既に宇宙分野に参入していることは大きなアドバンテージです。

高山 中村さんご自身にとって、宇宙ビジネスの面白さややりがいはどこにありますか。

中村 私はそもそも技術者なので、技術で世の中に貢献したいという思いがあります。ただ、その対象は時代や状況によって変わるのだと思います。

極端な話ですが、もし自分が石器時代に生まれていたら、きっと、より良い石器を作ろうとしていたと思うのです。今この時代、この潮流の中で、自分に与えられた役割が、いまは宇宙業界にある。そう感じています。

夢やロマンだけではなく、自分の技術で世の中に貢献できる領域として、いま宇宙がある。そこに、技術者としてのやりがいを感じています。

「一緒にやる」姿勢が、宇宙への入口になる

高山 最後に、宇宙産業への挑戦されているセーレンさんから、ものづくりや技術力があり、これから宇宙に踏み出そうとしている企業に向けて、メッセージをお願いします。

中村 はい。「こういう技術があるのですが、どうですか」と聞くだけではなく、「一緒にやりましょう」という姿勢が大切だと思います。

現場に行き、一緒に考える。自分たちに何ができるかを、自分たち自身でも考える。セーレンは、自然にそうしてきましたが、パートナーの方々からは、そこが他社との違いだと言っていただくことがあります。注文を待つのではなく、相手の課題に入り込み、一緒に考え、つくっていくという姿勢が評価されているのだと思います。

高山 セーレンさんの挑戦は、地域の企業でも、宇宙に挑戦して形にできることを示していると思います。福井県のものづくり企業が、大学やスタートアップ、国の機関ともつながりながら、宇宙産業に関わっている。その事実をもっと多くの地域企業に知ってほしいですね。

宇宙ビジネスへの参入には、ゼロからすべてを作る必要はありません。自分たちが持っているリソースをベースに少し広げることで、新しい産業に参入できる可能性があります。セーレンさんには、その先駆者として、これからも発信していただきたいと思います。

中村 この対談の前に、JMP(JapanStep Media Project)プロデューサーの長谷川さんから、新しいことに挑む機会や活力が、日本の社会全体で少なくなっているのではないか、という話を伺いました。そこには、私自身も共感すると共に改めて危機感を覚えました。その意味で、宇宙ビジネスがこれから成長していく領域であることは確かです。そして、新しいことに挑戦できる領域であると考えます。

誰しも、仕事の中で「これが実現できたらうれしい」「これができたら面白い」と思う瞬間があるのではないでしょうか。その小さな一歩が挑戦であり、それを続けることが、やがて成果につながるのだと思います。ぜひ、ものづくりの力を持つ企業の皆さんに、宇宙ビジネスという成長領域に入ってきてほしいですね。

高山 力強いメッセージをありがとうございます。本日はお忙しいところ時間を割いていただき、誠にありがとうございました。

取材を終えて

今回の対談を通じて改めて感じたのは、宇宙ビジネスは決して一部の専門企業だけに閉じた領域ではない、ということです。福井の地で、セーレンの皆さんが積み重ねてきたものづくりの歩みと、宇宙への挑戦を直接伺うことができたことは、私にとっても大きな意味のある機会となりました。

セーレンは130年以上の歴史を持つ老舗企業です。その歩みは、繊維という祖業を守り続けるだけではなく、時代の変化に合わせて自らの技術を捉え直し、新たな成長領域へと展開してきた歴史でもあります。自動車内装材やエアバッグへと事業を広げてきた同社が、いま福井の地から宇宙産業への挑戦を確かな事業にしようとしている。その事実は、全国の多くの企業にとって大きな励みになるのではないでしょうか。

日本には、まだ宇宙産業に十分接続されていない技術、人材、ものづくりの知見が数多くあります。セーレンの挑戦は、自社の技術や知見を少し先の領域へ広げることで、宇宙という新しい産業に参加できる可能性を示しています。

だからこそ、ビジネスパーソンも学生も、宇宙を遠い世界の話としてではなく、自分たちの仕事や学びとつながる領域として知ることが大切です。日本企業は、宇宙事業でもまだまだ力を発揮できる。今回の対談は、その確かな手応えを感じさせてくれる機会となりました。(JMPプロデューサー 長谷川 浩和(写真左))