
皆さん、こんにちは。JMP(JapanStep Media Project)プロデューサーの長谷川浩和です。本連載では、宇宙メディアに関わるフロントランナーをゲストにお招きし、宇宙産業の情報をどう届ければ、社会やビジネスの関心につながるのか、そしてメディアはどのような役割を果たせるのかを、さまざまな視点から伺っています。
今回お招きしたのは、「宇宙へのポータルサイト」を掲げる宇宙ニュース・宇宙テック系メディア『sorae(そらえ)』を運営する、株式会社sorae 代表取締役の刈屋隆一さんです。宇宙メディアの先駆的存在である『sorae』は、どのような思いで宇宙を伝えてきたのか。そして、これからの宇宙メディアには何が求められるのか。率直にお話を伺いました。(文=JMPプロデューサー 長谷川浩和)
今回のゲスト
株式会社sorae 代表取締役
刈屋 隆一さん
IT・インターネット領域を軸に、システム開発、デザイン、Webメディア運営などに携わる。複数のメディア事業を通じて宇宙領域の情報発信に可能性を見いだし、株式会社soraeを設立。宇宙ニュース・宇宙テック系メディア『sorae』を運営し、天文、宇宙開発、科学技術、宇宙ビジネスなど、多様な領域を横断した情報発信に取り組む。
聞き手:JMPプロデューサー
長谷川 浩和
富山県高岡市生まれ、埼玉県大宮市(現さいたま市)育ち。2001年に日経BPへ入社し、ビジネス誌・技術専門誌の広告営業を担当。2008年2月にクロスアーキテクツを設立。B2B領域を中心に、メディアタイアップ制作、オウンドメディア制作、PR支援、イベントプロデュースなどを手掛ける。2023年よりメディアプロジェクト「JMP(JapanStep Media Project)」を展開。
長谷川 本日はありがとうございます。正直に言いますと、宇宙メディアの先駆者の皆さまにご登場いただく本連載が、本当に続けられるのか、少し心配していました(笑)。『宙畑』の中村編集長、『SPACE Media』の伊藤編集長に続き、『sorae』の刈屋さんと対談できることを、大変うれしく思っています。お引き受けいただき、ありがとうございます。
刈屋 こちらこそありがとうございます。『SpaceStep』の取り組みには興味を持っていました。共創という形でメディアを運営されているのは、とても面白いですよね。今日はお話しできることを楽しみにしていました。
長谷川 ありがとうございます。『SpaceStep』はまだ新しいメディアです。宇宙ビジネスを身近にするというコンセプトを掲げていますが、何をどう伝えれば、宇宙業界にとっても、読者にとっても価値のあるメディアになるのか。私自身、日々模索しています。だからこそ、長く宇宙系メディアを運営されてきた刈屋さんにお話を伺えることを、とても楽しみにしていました。
刈屋 今日はできるだけ率直にお話ししますので、そのあたりはうまく編集してくださいね(笑)。
長谷川 ありがとうございます(笑)。まずは、刈屋さんが宇宙に興味を持った原点から伺いたいと思います。いつ頃、どのようなきっかけだったのでしょうか。
刈屋 原点は、小学生時代に目にしたボイジャー2号の画像です。ボイジャー2号は、木星、土星、天王星、海王星を探査したNASAの無人宇宙探査機です。1980年代後半、ボイジャー2号が海王星に接近した際、新聞やテレビなどで真っ青な海王星の姿が大きく報じられていました。それまで自分にとって宇宙といえば、土星の輪や星座くらいのイメージでした。はるか遠くにある太陽系の天体を、これほど鮮明に見ることができるのか。その衝撃を、今でもよく覚えています。

Credit: NASA/JPL-Caltech science.nasa.gov
長谷川 私もその時代の記憶はあります。あの青い海王星の写真は、子ども心にも強いインパクトがありましたよね。
刈屋 私より上の世代であれば、アポロ計画に衝撃を受けた方が多いと思います。ただ、私にとって強く心に残ったのは、ボイジャー2号が届けてくれた海王星の姿でした。宇宙への関心の原点は、間違いなくそこにあります。
長谷川 そこから一気に宇宙の世界へ進んでいったのですか。
刈屋 実は、そうでもありません。ボイジャー2号で宇宙に興味は持ったのですが、その後はゲームが好きな普通の子どもでした。ただ、小学生の頃にSFを題材としたメディアミックス作品に触れたことが、また大きなきっかけになりました。その作品のテーマがとても壮大で、銀河系の中心やブラックホール、系外惑星のような概念が出てきたんです。
長谷川 その作品から宇宙への興味が広がったんですね。
刈屋 そうなんです。当時は、銀河の中心にブラックホールがあるという話も、まだ一般的にはそれほど身近ではありませんでした。そこでブラックホールに強く興味を持ち、調べ始めました。もっと知りたいと思って手に取ったのが、科学雑誌の『ニュートン』でした。そこで「はくちょう座X-1」の特集に触れたんです。ブラックホールだと推定された代表的な天体の一つとして紹介されていて、「ブラックホールは本当にあるんだ」「しかも、はくちょう座のこのあたりにあるんだ」と、自分の中で、宇宙が一気に広がっていくようなロマンを感じました。
長谷川 それが刈屋さんにとっての宇宙の入口だったわけですね。
刈屋 卒業アルバムにも「天文学者になりたい」「宇宙飛行士になりたい」と書いていました。ただ、そこから理系の道に進んだかというと、そうではありません。高校は工業高校に進み、そこでパソコンやものづくりに触れました。その後、専門学校ではプログラムやデザインを学びました。当時はインターネットが台頭していく時代でした。次第にそちらへの興味が強くなり、その頃には宇宙への関心は一度、頭の中から薄れていました。
長谷川 一度、宇宙から離れた時期があったのですね。
刈屋 はい。その後、IT系の会社に入り、インターネットやメディアの世界に関わるようになりました。いくつかのご縁があり、『sorae』の前身となる宇宙系メディアの運営にも携わるようになります。その頃、自分がかつて宇宙に強い関心を持っていたことを、改めて思い出したような感覚がありました。それに、soraeの前身となるメディアの代表は当時、本気で宇宙へ行くための訓練をしていて、その内容を記事として報告していました。また、宇宙でコスプレをする計画など、当時から本気で宇宙利用を考えているなど、こんな面白いことは他にない、なんて思っていました。
長谷川 幼少期に一度心を動かされた宇宙への思いが、ITやメディアの経験を経て、再び戻ってきた。人生は本当に分からないですね。
刈屋 本当にそう思います。前身となるメディアの運営を支援する中で、メディアを続ける難しさと面白さを学びました。当時は宇宙専門メディアがいま以上に少なく、宇宙の情報を継続的に届ける場そのものが限られていました。調べれば調べるほど、分からないことも、面白いことも次々と出てくる。それを多くの人に知ってもらいたいという思いが強くなっていったんです。
長谷川 そうした思いが、株式会社soraeの設立につながったわけですね。
刈屋 はい。色々と運営の体制変更があったことをきっかけに、株式会社soraeを設立し、メディア事業を引き継ぐ形で再出発しました。宇宙の情報を、正確に、そして継続的に届けるメディアを残したい。その思いが大きかったです。
長谷川 2019年というと、宇宙ビジネスへの関心が少しずつ高まり始めていた時期ですが、現在ほど情報量は多くなかったと思います。当時の宇宙業界や宇宙メディアの状況は、どのように見えていましたか。
刈屋 いまほどSNSも盛り上がっていませんでしたし、宇宙に関する議論も、限られたコミュニティの中で行われている印象でした。海外の情報を集める難易度も、いまより高かったと思います。ニュースの数も少なかったですね。2019年時点では少しずつ動きが加速してきた印象はありましたが、SpaceXも現在ほど大きな注目を集めていたわけではありませんでした。
長谷川 そうした中で『sorae』を再出発させる。メディアとして最初に大切にしたことは何だったのでしょうか。
刈屋 まず大切にしてきたのは、事実に基づいて正確に伝えることです。大きな見出しで読者を引きつけても、中身を読むと実態と違う。そうした伝え方はしたくありませんでした。何が起き、なぜ起き、どのような意味を持つのかを正確に伝える。宇宙を扱う専門メディアが少なかったからこそ、信頼性を大切にしたかったんです。
長谷川 宇宙は夢やロマンが強い領域だからこそ、表現が大きくなりやすい面もありますよね。
刈屋 そうなんです。宇宙への思いが強い人が書くと、どうしても熱量が前に出てしまい、宇宙に詳しくない人には分かりづらくなることがあります。さらに、中立性や公平性を保つことも難しくなる。だからこそ、『sorae』では正確性、公平性、中立性を意識してきました。
長谷川 私も取材を重ねる中で、宇宙愛の強さを感じる場面が多くあります。だからこそ、メディアに求められるのは、その熱量を読者に届く言葉へと翻訳することなのだと思います。
刈屋 まさにそうだと思います。
長谷川 長谷川 『sorae』は、宇宙ニュース・宇宙テック系メディアとして、幅広いテーマを扱っています。ロケットや宇宙開発だけでなく、天文、科学技術、宇宙ビジネスまで、領域が広いですよね。扱うテーマはどのように考えているのでしょうか。
刈屋 すべての物事は、宇宙につながると思っています。空を見上げることも、星座を眺めることも、宇宙につながっています。もちろんロケット開発も、宇宙ビジネスも、科学技術もそうです。どこが宇宙への入口になるかは分かりません。だからこそ、さまざまなところから宇宙への入口をつくっていきたいんです。

長谷川 「宇宙への入口」という考え方は、とても大切ですね。『SpaceStep』でも、宇宙ビジネスを身近にするというコンセプトを掲げていますが、読者にとっての入口は一つではないと感じています。技術から入る人もいれば、地域振興や教育、防災、エンタメから入る人もいる。入口が広がるほど、「自分事化」の可能性も広がります。
刈屋 そうですね。『sorae』でも、テーマはできるだけ全方位で扱うようにしています。宇宙開発、ビジネス、科学技術、天文。どれか一つの領域に絞るというより、宇宙につながる多様な入口を用意することを意識しています。
長谷川 一方で、宇宙を伝える難しさもあると思います。『sorae』は2019年の再出発からすでに長く運営されていますが、宇宙メディアを続ける上で、どのような難しさを感じていますか。
刈屋 率直に言えば、マネタイズは簡単ではありません。宇宙というテーマは、社会的な期待が高まりつつある一方で、読者規模という点では、まだ大きなニュース領域になりきれていないのが現実です。宇宙にはビジネスも開発も天文もありますが、アクセス規模で見ると、車や鉄道といった大きなジャンルの一カテゴリにも、読者規模では及ばないことがあります。
長谷川 やはり規模の壁はありますよね。
刈屋 はい。宇宙メディアは新たに立ち上がる一方で、継続が難しくなるケースも少なくありません。宇宙の情報を正確に伝えられる書き手も限られています。専門性が必要な分、制作コストもかかるため、継続が難しくなるメディアも出てきます。
長谷川 理念やビジョンはもちろん大切ですが、メディアにおいては、何よりも継続することが難しい。だからこそ、『sorae』が継続して情報を届けてきたこと自体に、大きな価値があると感じています。
刈屋 ありがとうございます。ただ、メディア運営には、常に収益面の不安定さがあります。『sorae』は特定企業のオウンドメディアではなく、基本的には広告収入を中心に運営してきました。アクセス数に左右されますし、注目される話題がなければ広告収入も下がります。そこは常に向き合っている課題です。
長谷川 広告収入に依存するメディア運営の難しさは、私もよく分かります。加えて、宇宙というテーマ自体が、まだ生活者にとって身近ではない。そこも大きな壁ではないでしょうか。
刈屋 そうですね。実際、人々の興味関心は、検索やニュース配信の仕組みに左右される面があります。どれだけ良い記事を書いても、検索サイトなどのプラットフォーム側に価値ある情報として認識されなければ、読者の目に触れにくくなります。日本では、宇宙が日常的な関心領域として十分に根づいているとは、まだ言いづらい。一方で、車や鉄道は身近です。路線が延伸する、運賃が上がる、新型車両が出る。そうした情報は生活に直結します。ただ、「宇宙企業が資金調達しました」「ロケットを開発しています」と言われても、多くの人にとっては、まだ自分の生活と結びつけにくいんです。
長谷川 確かに、ロケットの打ち上げなどがあれば注目は集まりますが、その関心が持続しにくい面はありますよね。
刈屋 たとえば、サッカーのワールドカップで日本代表が活躍した時に、普段サッカーを見ない人も盛り上がる現象に近いのかもしれません。ロケットの打ち上げの瞬間は「日本すごい」と盛り上がる。でも、それが過ぎると関心が続かない。宇宙が身近ではないことに加え、継続的に関心を持てる情報設計が十分ではないのだと思います。
長谷川 『sorae』としては、そうした難しさに向き合う中で、どのような読者を意識してきたのでしょうか。
刈屋 再出発した当初は、50代から70代の読者が多い印象でした。おそらく、アポロ世代の方々です。若い頃に宇宙に興味を持ち、仕事や子育てが一段落して、自分の趣味に戻ってきた方々が支えてくれていたのだと思います。ただ、それだけでは、次世代に関心を引き継いでいくことができません。いまは20代、30代などの宇宙に興味を持ち始めた読者層にも届けたいと考えています。
長谷川 若い層への広がりは、宇宙産業全体にとっても重要ですね。
刈屋 SNSから入ってくる方々は、比較的若い層が多いです。もちろん、宇宙の情報は難しいので、関心を持ち続けてもらうことは簡単ではありません。それでも、SNSをきっかけに宇宙への入口に立ってもらえる可能性はあると思っています。
長谷川 『soraeらしさ』という意味では、どのようなところに特徴があると感じていますか。
刈屋 他のメディアが拾いきれないテーマにも目を向ける、というところでしょうか。一般的な総合メディアであれば、ロケットの打ち上げや大きなニュースだけを扱うことが多いと思います。ただ『sorae』では、その背景や海外の開発状況、アクセス数だけではなく、宇宙に近づくための文脈を届ける。強く意識しているわけではありませんが、自分が面白いと思ったものは、きちんと取り上げる。そこにも『sorae』らしさが表れているのかもしれません。
長谷川 数字だけではなく、宇宙に近づくための文脈を届ける。それもメディアの大事な役割ですね。宇宙産業は専門性が高いからこそ、単発のニュースだけでは読者の理解が深まりません。背景を伝えること、継続的に追うこと、別の領域との接点を示すことが大事だと感じます。
刈屋 そう思います。宇宙のニュースは、一つひとつを見れば遠い話に見えるかもしれません。でも、文脈をつないでいくと、社会や技術、産業の変化とつながっていることが見えてきます。
長谷川 ここからは、宇宙ビジネスや宇宙産業の現状についても伺いたいと思います。刈屋さんは、いまの日本の宇宙産業をどのようなフェーズだと見ていますか。