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2026.07.03

“学び”からひらく、宇宙メディアの入口【連載】宇宙メディアについて考えよう

皆さん、こんにちは。JMP(JapanStep Media Project)プロデューサーの長谷川浩和です。本連載ではこれまで、宇宙メディアを手掛ける編集長の皆さんに、宇宙産業の情報をどう届け、社会やビジネスの関心につなげていくべきかを伺ってきました。今回は少し視点を変え、AIを活用したコンテンツ支援プロダクトや、教育とエンターテインメントを掛け合わせたサービス「THE LESSON」を展開する株式会社cactuz 代表取締役/CEOの渡邉至さんをお招きします。

宇宙飛行士・野口聡一さんのコンテンツ制作を通じて見えた、宇宙を“学び”として届ける可能性とは何か。教育、メディア、テクノロジーが交わる場所から、宇宙メディアの新しい入口を探ります。では早速、お話を伺っていきましょう。(文=JMPプロデューサー 長谷川浩和)

今回のゲスト

株式会社cactuz 代表取締役/CEO 渡邉 至さん(写真右)

慶應義塾大学法学部政治学科卒。在学中にWebメディア事業を立ち上げ、売却を経験。新卒で日本IBMに入社し、製造業向けの経営戦略策定に従事した後、電通で業種横断のマーケティング・メディア戦略を担当。2024年9月に株式会社cactuzを創業し、代表取締役/CEOに就任。現在は、AIを活用したコンテンツ支援プロダクトやビジネスメディア事業に加え、「偉人の教えの民主化」を掲げるEdutainmentサービス「THE LESSON」を展開している。

聞き手:JMPプロデューサー 長谷川 浩和(写真左)

富山県高岡市生まれ、埼玉県大宮市(現さいたま市)育ち。2001年に日経BPへ入社し、ビジネス誌・技術専門誌の広告営業を担当。2008年2月にクロスアーキテクツを設立。B2B領域を中心に、メディアタイアップ制作、オウンドメディア制作、PR支援、イベントプロデュースなどを手掛ける。2023年よりメディアプロジェクト「JMP(JapanStep Media Project)」を展開。

映画と建築が育んだ、コンテンツへのまなざし

長谷川 本日はありがとうございます。これまで本連載では、『宙畑』の中村編集長、『SPACE Media』の伊藤編集長と、宇宙メディアの現場を担う皆さんにお話を伺ってきました。

今回は少し視点を変え、教育コンテンツやAI、メディア事業に取り組む渡邉さんにお話を伺います。cactuzにはJMPのパートナー企業として、そして「THE LESSON」にはJMPの提携メディアとしてもご参画いただいています。今日はそのご縁も踏まえながら、宇宙を“学び”として届けるとはどういうことか、そして宇宙メディアはどのような入口をつくれるのかを伺えればと思っています。

渡邉 ありがとうございます。本日はよろしくお願いします。

長谷川 まずは、渡邉さんご自身の原点から伺いたいです。幼少期から学生時代まで、どのような環境で育ってこられたのでしょうか。

渡邉 私の原点をたどると、父の影響はかなり大きいと思います。父はプロダクトデザイナーで、母も短い期間ですが漫画を描いていました。家では、勉強しろと言われることはあまりありませんでした。むしろ映画や漫画、小説など、文化的なものに触れる機会が多かったですね。

長谷川 ものづくりや表現が、身近にあるご家庭だったのですね。

渡邉 そうですね。家族で映画を見ることは、日常の一部でした。『ニュー・シネマ・パラダイス』のような名作も見ましたし、『スター・ウォーズ』や『ハリー・ポッター』のようなSFやファンタジーも当たり前のように見ていました。邦画も洋画も、古い作品も含めて、幅広く触れて育った感覚があります。

旅行も少し変わっていて、旅館や観光地ではなく、建築を見ることを目的に旅行へ行くこともありました。たとえば淡路島にある安藤忠雄さんの建築を見に行くために、旅行先を決めるような家でした。

長谷川 作品や空間に触れることが、暮らしの中にあったのですね。渡邉さんご自身も、最初はデザイナーを目指していたのですか。

渡邉 高校生ぐらいまでは、自分も自然とデザイナーになるのだと思っていました。高校1年生ぐらいからデッサンの勉強も始めていたのですが、ある時、父から「デザイナーは潰しがきかないからやめておけ」と言われました。さらに、父が中学生の頃に描いた絵を実家で見たことがあったのですが、自分とは次元が違うと感じました。それを見て、同じ道で勝負するのは難しいなと思いました。そこから、美術系ではなく一般大学へ進むことを考えるようになりました。

長谷川 そこから、ビジネスや起業への関心はどのように芽生えていったのでしょうか。

渡邉 高校時代にフランスへ1年間留学したことがありました。父が昔アメリカで働いていて、姉2人は帰国子女で英語を話していたんです。今振り返ると単純な発想ではありますが、当時、英語だけでは差別化しにくいなと思い、フランス語を学べば、自分なりの違いをつくれるのではないかと思って留学しました。

その頃、コンサルティングファーム出身で、その後起業された方の本を読んだことをきっかけに、コンサルタントという仕事に関心を持ちました。デザインとは別の場所で、経済の中心に身を置いて戦っている人たちがいる。そのことへの解像度が上がった瞬間だったように思います。

長谷川 もともと起業したいという思いもあったのですか。

渡邉 ありました。父も会社をやっていましたし、祖父母も含めて、家族の中に何かしら自分で事業をしている人が多かったんです。自分で責任を持って何かをやるという感覚が身近にありました。だから、組織の中でキャリアを積み上げていくよりも、自分で責任を持って何かをつくる方が自然に感じられたのだと思います。

長谷川 その後、新卒で日本IBMに入社されます。

渡邉 はい。1年半ほどの在籍でしたが、電機メーカーの中期経営戦略を策定するプロジェクトなどに、アソシエイトとして関わりました。日本の大企業が抱える構造的な課題に、現場で触れることができた時間だったと思います。

長谷川 そこで学んだことは、今の起業家としての渡邉さんにもつながっていますか。

渡邉 間違いなくつながっています。当時の上司には、メールの書き方、考え方、資料の作り方、クライアントとの話し方まで、基礎から徹底的に鍛えていただきました。ロジカルシンキングや構造化も、ものすごく細かく指導されました。

今につながっているのは、思考の体力のようなものだと思っています。起業すると、持久戦になる瞬間がたくさんあります。深夜まで考え続けなければならない場面もありますし、簡単には答えが出ない問いに向き合い続けることもあります。そういう時に粘り強く考え抜く力は、当時の経験で鍛えられたと思います。

長谷川 その後、電通に転職されています。なぜ広告・マーケティングの世界へ移られたのでしょうか。

渡邉 一度、起業しようと思った時期があったんです。自分なりにビジネスプランを作って、ベンチャーキャピタルの方に話を聞いてもらいに行きました。ただ、そこで返ってきた反応は、想像以上に厳しいものでした。「地に足がついていない」「資料を作っただけだよね」と、かなり率直なフィードバックを受けました。

当時の自分は、資料を作ることが仕事だと思っていたところがありました。でも、それだけでは事業にはならない。自分の強みや立ち位置を見つけなければいけないと痛感しました。自分の育った環境もあり、デザイナーやクリエイターの方々と対話する感度はあると思っていたので、そういう人たちと働ける環境に行った方が、自分の力を伸ばせるのではないかと考え、電通に転職しました。

長谷川 電通では、どのようなお仕事をされていたのですか。

渡邉 マーケティングプランナーという職種で働いていました。クライアントがキャンペーンに予算を投じる時に、その予算をどう使い、どういう企画にして、どのメディアに配分していくのかを考える役割です。

コンサル時代は、1社のプロジェクトに複数人で向き合うことが多かったのですが、広告会社では一人で複数のクライアントを担当することもありました。入社して数カ月の段階から、企画書を最初から最後まで自分で作り、提案する機会をいただけたのは大きかったですね。

長谷川 コンサルティング会社で鍛えた構造化の力と、広告会社で経験した企画を社会に実装する感覚。その両方が、今のコンテンツづくりにつながっているように感じます。

渡邉 そうですね。電通時代には、クライアントがなぜ広告に投資するのか、そのロジックや勘所、キャンペーン全体がどう進んでいくのかを経験できました。さらに、自分が主体性を持って企画したものが、実際に社会に出ていく経験もできた。それは大きな学びでした。

“偉人の教え”を民主化する。教育の格差をなくす挑戦

長谷川 そうした経験を経て、2024年にcactuzを創業されます。最初から現在の事業構想があったのでしょうか。

渡邉 最初から今のビジネスモデルがあったわけではありません。起業する前の1年間は、全く別の事業を構想していました。ただ、実際に起業してみて2、3週間で「これは難しいな」と気づいたんです。資金、人材、仕組みのすべての観点で実現が難しいと感じ、すぐにピボットしようと決めました。

長谷川 かなり早い判断ですね。

渡邉 その時点で共同創業しているメンバーがいたので、新しい事業を考えるために、海外の企業やサービスを徹底的に調べました。自分たちができそうで、日本では同様のプレイヤーがまだ多くなく、市場として成立する可能性があるものは何か。そう考える中で、今の「THE LESSON」の形にたどり着きました。

長谷川 改めて、「THE LESSON」はどのようなサービスなのでしょうか。

渡邉 「THE LESSON」は、“偉人の教えを民主化する”ことを掲げたサービスです。会社としては「Bridging Social Gap」というミッションを掲げ、環境によって生まれる格差を是正していきたいと考えています。

僕自身、学生時代にプロダクトデザイナーの深澤直人さんにお会いしたことがあります。その時に、「これほどの人がいるのか」と大きな衝撃を受けました。その方がどのように考え、どのように行動してきたのかを知ったことが、自分の人生にも少なからず影響を与えたと、今振り返ると思います。

ただ、そうした第一線の方に直接出会える機会は、誰にでもあるわけではありません。むしろ、多くの人にとっては限られた機会だと思います。そうした学びを、誰もが受け取れる形にできたら、その人の人生に、新しい視点や選択肢をもたらせるのではないかと思いました。そこが「THE LESSON」の出発点です。

学生時代に出会った世界的デザイナー深澤直人さんは「THE LESSON」の講師としても出演。深澤直人が自らの経験・技術・哲学を体系的にまとめたオンライン講義だ

長谷川 それが、“偉人の教えの民主化”という言葉につながっているのですね。私もJMPのメディア取材を通じて、多くの経営者や専門家にお話を伺う機会があります。そのたびに大きな刺激を受けますし、現場で受け取った熱量を、少しでも読者の皆さんに届けたいと日々感じています。こうした機会は、決して誰にでも開かれているわけではありませんよね。

渡邉 そうなんです。だからこそ、その人の経験や技術、哲学を、多くの人が受け取れる形にしたいと思っています。

長谷川 教育コンテンツは世の中にたくさんあります。その中で、「THE LESSON」が大切にしている特徴は何でしょうか。

渡邉 まず、日本の教育には一方通行になりがちな面があると感じています。先生から提示されたものに応える形が多く、双方向のコミュニケーションが生まれにくい。さらに、授業を面白くする工夫が、構造的に促されにくいところもあると思います。

私自身、社会という科目を好きになったのは、当時の先生の話が面白かったからでした。教える人の魅力によって、学びへの関心は大きく変わる。そういう意味で、学びは教える人にかなり依存していると感じています。

長谷川 だからこそ、教育とエンターテインメントを掛け合わせる意味がある。

渡邉 はい。「THE LESSON」では、単なるインタビュー動画ではなく、視聴者の没入感をとても大切にしています。映像の絵づくり、撮影の仕方、カラーグレーディングも含めて、その人が目の前にいて、自分に語りかけてくれているような世界観をつくりたいと思っています。

長谷川 実際に拝見して、一般的な講義動画とは違う印象を受けました。かなり作り込まれていますよね。

渡邉 ありがとうございます。たとえば、出演者の方が少し言い間違えることがあります。普通なら撮り直す場面かもしれませんが、あえて残すこともあります。会話の間合いや、言葉の癖、細かな反応から、その人の本質が見えることがあるからです。完璧に整えすぎるのではなく、その人と向き合っている感覚を大切にしたいと思っています。

長谷川 コンテンツの構成では、どのようなことを大切にされていますか。

渡邉 「THE LESSON」では、経験、技術、哲学という3つの要素を大切にしています。どれか一つでも欠けると、その人の歩みを立体的に伝えることはできないと思っています。その3つを、その人の歩みからどう紐解き、深く、立体的に届けられるかを毎回模索しています。

そのために、まず僕ら自身が、その方について徹底的に調べ、学びます。さらに、潜在的なユーザーになり得る方々にもヒアリングします。すると、「この話は聞いたことがあるけれど、ここはまだ聞いたことがない」という声が出てきます。トップランナーの方々は、講演などで求められる話題が、ある程度固定化してしまうこともあります。だからこそ、まだ十分に語られていない切り口を探りながら、キャストの方と対話し、構成をつくっています。

長谷川 経験、技術、哲学。その3つをどう編み上げるかに、「THE LESSON」の編集思想が表れているのですね。

宇宙飛行士の言葉は、なぜ仕事の学びになるのか

長谷川 今回、「THE LESSON」では宇宙飛行士の野口聡一さんのコンテンツを手掛けられました。野口さんを取り上げた理由を教えてください。

渡邉 野口さんは、2つのギネス世界記録に登録されています。1つは、3つの異なる宇宙船で地球に帰還した人類初の宇宙飛行士であること。もう1つは、初めての船外活動から約15年の期間をあけて、再び船外活動を行ったことです。

船外活動は、宇宙飛行士にとって非常に危険で、かつ重要な作業です。すべての宇宙飛行士が経験するわけではありません。さらに野口さんは、スペースシャトル、ソユーズ、そしてSpaceXの宇宙船にも搭乗されています。その実績を考えると、ぜひ「THE LESSON」にご出演いただきたいと思いました。

長谷川 実際に制作される中で、特に印象に残ったエピソードはありますか。

渡邉 僕が特に心を動かされたのは、宇宙飛行士の選抜試験の話です。野口さんにも、まだ宇宙飛行士になる前の、一人の挑戦者だった時間があるんです。試験を受けるきっかけも、奥さまが社内報で募集を見つけたことだったと伺いました。

試験会場にたくさんの人がいて、「この中の誰かが宇宙飛行士になるんだ」と思っていた。その話を聞くと、野口さんのような方にも、最初の一歩があったのだと実感します。どれほど特別に見える人にも、最初の一歩がある。その原点が見えるエピソードとして、とても印象に残っています。

長谷川 宇宙飛行士というと、どうしても特別な存在に見えます。でも、野口さんにも宇宙飛行士になる前の時間があり、最初の一歩を踏み出した瞬間があった。そこに、多くの人が自分を重ねられる余地がありますね。

渡邉 そう思います。だからこそ、宇宙飛行士を目指している人だけでなく、一般のビジネスパーソンにとっても、野口さんのコンテンツには普遍的な学びがあると思っています。

長谷川 具体的には、どのような学びでしょうか。

渡邉 野口さんの「THE LESSON」では、リーダーシップやチームビルディングの話も出てきます。これは、会社で働く多くの方がぶつかるテーマでもあります。ただ、野口さんの場合は、多くの人が経験することのない極限環境で、それを実践されてきた方です。宇宙という極限の現場で培われたメッセージだからこそ、非常に普遍的な学びになると思います。

長谷川 野口さんご本人は、「THE LESSON」に参加することについて、どのように受け止めていらっしゃったのでしょうか。

渡邉 野口さんは、最初からすごく積極的にお話を聞いてくださいました。野口さんご自身、新しい取り組みに何度も挑まれてきた方です。50歳を過ぎてから再び宇宙へ行かれたこともそうですし、博士号を取得されたこと、当事者研究に取り組まれていることなど、本当にさまざまな挑戦をされています。

そうした中で、「THE LESSON」という形でご自身の経験を体系的に伝え、それが誰かの役に立つのであれば、というところに共感してくださったのだと思います。ご返信をいただいた時は、本当に胸が高鳴りました。

「THE LESSON 野口聡一」キービジュアル

長谷川 撮影現場で、野口さんのすごさを感じた瞬間はありましたか。

渡邉 言葉一つひとつが、とても丁寧な方だと感じました。たとえば、こちらから複数のテーマをお渡しして話していただく時に、そのテーマを一つずつきれいに話し、最後にうまく接続して話を終えられるんです。一歩先を読んだ話し方や、言葉の置き方には、これまで体感したことのないほどの精度がありました。

長谷川 それは、宇宙飛行士としての経験とも関係しているのでしょうか。

渡邉 あると思います。野口さんご本人も、宇宙という環境ではコミュニケーションが非常に大事だとおっしゃっていました。一つひとつの言葉で認識の齟齬が起きないように、丁寧にすり合わせながら進めなければならない。その姿勢が、普段の言葉にも表れているのだと感じました。

長谷川 宇宙で培われたコミュニケーションが、ビジネスの現場にも通じる。そこに、宇宙を“学び”として届ける可能性がありますね。

渡邉 そう思います。宇宙飛行士の経験は特別ですが、そこから得られる学びは、決して宇宙業界だけのものではありません。

宇宙を“自分ごと”に変える、言葉の力

長谷川 今回、野口さんのコンテンツ制作を通じて、渡邉さんご自身は宇宙ビジネスや宇宙産業をどのように感じましたか。

渡邉 宇宙産業は、これから社会全体でさらに力を注ぐべき領域だと感じました。人類の未来に関わる領域でもあると思っています。だからこそ、人材、資金、技術、情報といったリソースをどう集め、日本のプレイヤーとしてどう立っていくのかは、とても重要だと思います。

長谷川 宇宙は可能性が大きい一方で、一般の人にとってはまだ遠いテーマでもあります。宇宙のような難しい領域を、どうすれば、まだ関心を持っていない人にも届くものになるのでしょうか。

渡邉 まず必要なのは、コンテンツの質に徹底して向き合うことだと思っています。今はAIの普及もあり、コンテンツの量が急速に増えています。その中には、質にばらつきがあるものも少なくありません。だからこそ作り手としては、一つひとつの表現に向き合う必要があります。

ただ、ここで言う質とは、単に映像がきれいだとか、情報が整理されているというだけではありません。その人の人生に触れ、見る人の心が動く瞬間を、コンテンツの中に宿せるかどうかだと思っています。

長谷川 とても共感します。情報として分かりやすいだけではなく、見た人の心が動くかどうかがコンテンツをつくるうえで大切になりますよね。

渡邉 そうですね。「THE LESSON」を見てくださった方からは、「人生の見方が変わった」「前向きな影響を受けた」といった声をいただくことがあります。そうしたメッセージ性を、きちんと盛り込めるかどうかが大切だと思います。

長谷川 野口さんご出演の「THE LESSON」でも、印象的な反響はありましたか。

渡邉 はい。サービス上でユーザーの方からフィードバックをいただける仕組みを整えているのですが、漁師をされている方から長文のメッセージをいただきました。

その方は、自然環境と向き合う仕事をされている立場から、宇宙や自然科学への理解を深めたいという思いで「THE LESSON」を見てくださったそうです。そして、宇宙飛行を3度経験した野口さんご自身の言葉を通じて、自分の中でモヤモヤしていたことが少し整理され、人生や世の中の見方が変わるきっかけになった、と書いてくださいました。

THE LESSON 野口聡一 テキストブック

長谷川 漁師の方が、宇宙飛行士の言葉から自分の仕事や人生を見つめ直すきっかけを受け取る。領域を越えた学びですね。

渡邉 本当にそう思います。宇宙に関心がある人だけではなく、宇宙とは一見離れた仕事をされている方にも届く。そこに、宇宙コンテンツの可能性があると感じました。

長谷川 それは、SpaceStepが目指している「宇宙ビジネスを身近にする」という方向性にも近いです。宇宙は専門的な領域である一方、見方を変えれば、キャリア、チーム、リーダーシップ、挑戦、自然科学への関心など、さまざまな入口を持っています。

渡邉 私自身も、野口さんのコンテンツ制作に関わるまで、宇宙に深く触れてきたわけではありませんでした。宇宙について大まかな知識はあっても、現場で何が起きているのか、どのような可能性が広がっているのかまでは、分からないことが多かった。

だからこそ、野口さんご自身の言葉で、宇宙という現場がどういうもので、宇宙飛行士にはどのような価値があり、宇宙産業が今後、人類に何をもたらすのかを体系的に学べることには、大きな意味があると思っています。

AI時代に、作り手の意志はどう届くのか

長谷川 ここからは、AI時代におけるコンテンツやメディアのあり方についても伺いたいです。AIによって情報の作られ方、届けられ方が大きく変わってきています。渡邉さんは、今の状況をどのように見ていますか。

渡邉 非常に混沌としていると思います。インターネットが普及した時と似たような現象が起きているのではないでしょうか。

たとえば、生成AIで何かを調べることが当たり前になれば、読者がメディアの記事に直接触れる機会は、減っていく可能性があります。記事を書くライターの思いや、作り手のクラフトマンシップが込められていたとしても、それらが表面的な情報として処理されてしまう世界になるかもしれません。そこには懸念があります。

長谷川 メディアをつくる側にとっても、避けて通れないテーマですね。単に情報を整理して届けるだけでは、価値を出しにくくなっていく。

渡邉 そう思います。一方で、だからこそクラフトマンシップを求める人も、反動として現れてくるのではないかと思っています。音楽のストリーミングサービスがある一方で、あえてレコードで聴く人がいる現象にも近いかもしれません。

一過性の情報として消費されるのではなく、作り手がどういうメッセージを持ち、どのような思いで作っているのか。そうしたことの重要性が、逆に増していく可能性があると思います。つまり、コモディティ化した情報を出すだけのメディアでは、戦えないのではないでしょうか。

長谷川 AIで得られる情報ではなく、人に会い、話を聞き、その場でしか立ち上がらない文脈を届けることが、より重要になっていくということですね。

渡邉 はい。情報そのものだけでなく、そこにどのような意志や温度が宿っているか。誰が、どのような切り口で問い、どのように届けるのか。そこが重要になると思います。

長谷川 cactuzでは、「THE LESSON」以外にもメディア事業を構想されていると伺っています。どのような方向性を考えていますか。

渡邉 ビジネス系のメディアもつくっていますが、単にコンテンツを発信し続けるだけでは、価値を出しにくいと感じています。音声で聞けるインターフェースを整えたり、取材の切り口を工夫したり、情報に触れられる形をどう設計するかは大事だと思っています。

さらに重要なのは、メディアをいかにコミュニティへと育てられるかです。人と人とのつながりが生まれるプラットフォームになれるか。そこが必要不可欠だと思っています。

長谷川 それは、これまでの対談でも出てきたテーマです。メディアは、単に記事を出す場所ではなく、人と人をつなぎ、議論や共創を生む場になっていく必要がある。

渡邉 そうですね。特に宇宙メディアで言えば、宇宙に関心のある人には届きやすい一方で、まだ関心を持っていない人との接点は限られてしまうと思います。私も野口さんのコンテンツ制作に関わって、初めて宇宙に深く触れました。その意味では、宇宙にまだ関心を持っていない人にとって、最初に触れられる入口は、まだ限られているのではないかと感じています。

長谷川 宇宙メディアは、どうしても専門的な情報が中心になりやすい。もちろんそれも大切ですが、未関心層への入口をどうつくるかは大きな課題ですね。

渡邉 専門性の高い情報をしっかり届けるメディアが多い一方で、まだ宇宙に関心を持っていない人への入口は、さらに広げられる余地があると感じています。だからこそ、まだ関心を持っていない人にとっての最初の接点になるメディアがあると、すごく面白いと思います。宇宙にはロマンがあり、同時に、まだ多くの人にとって未知の領域でもあります。その接点をどうつくるか。メディアやイベント、コンテンツが担える役割は大きいと思います。

共創が広げる、宇宙メディアの次の接点

長谷川 cactuzにはJMPのパートナー企業として、そして「THE LESSON」には提携メディアとして参画いただいています。JMPは、企業や団体の皆さんとともに、共創型のメディアプロジェクトとして展開しています。cactuz、そして「THE LESSON」との連携については、どのような可能性を感じていますか。

渡邉 メディアは本来、そういう開かれた構造を持つべきなのかもしれません。関わるプレイヤーが多ければ多いほど、同じ問題意識を持つ人が多ければ多いほど、広がりを持ちますし、コンテンツの質も上がっていく構造になると思います。その座組み自体に、大きな可能性を感じています。

長谷川 ありがとうございます。今後、どのような連携の可能性がありそうでしょうか。

渡邉 それぞれの媒体の特徴を生かしながら、さまざまな展開が考えられると思います。例えば「THE LESSON」のコンテンツから派生して、読み手が理解しやすい解説記事や関連コンテンツをつくることで、学びのきっかけを広げることができるかもしれませんし、「THE LESSON」の撮影タイミングに合わせて、JMPの各メディアで別企画としてインタビューを行うことも考えられると思います。

長谷川 それは面白いですね。一人のトップランナーの知見を、映像では「THE LESSON」として深く届け、SpaceStepの記事では宇宙ビジネスや社会実装の文脈へ接続する。同じ人物でも、見せ方を変えることで、届く読者が変わります。

渡邉 そうですね。コンテンツの厚みも増しますし、届く層も広がると思います。

長谷川 最後に、渡邉さんが今後、cactuzや「THE LESSON」を通じて実現したいビジョンを教えてください。

渡邉 会社として掲げているのは、文化をつくることです。文化とは何かを考えると、あるコンテンツや、そこに込められた思いを、一定の人たちが共有した瞬間に立ち上がるものではないかと思っています。

かつては、音楽でも映画でも、多くの人が共有しているコンテンツがありました。一方で今は、コンテンツも価値観も細かく多様化しています。だからこそ、共通の文化的文脈をつくることは難しくなっています。そんな中でも、人は今も何かを共有できる感覚を求めているのではないかとも思います。

コンテンツだけでは、文化は成り立ちません。そのコンテンツに人が集まり、そこに込められた意味やメッセージが共有されていく状態をつくりたい。それを、より大きな規模で実現したいと思っています。

長谷川 今日のお話を伺って、「THE LESSON」は単なる教育コンテンツではなく、人の挑戦や経験を、次の誰かの行動につなげるメディアなのだと感じました。渡邉さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

渡邉 ありがとうございました。ぜひまたご一緒させてください(笑)。

対談を終えて

今回の対談で印象に残ったのは、「THE LESSON」が、経験、技術、哲学を通じて、人の歩みを立体的に届けようとしていることでした。野口聡一さんのコンテンツも、宇宙飛行士としての偉業をたどるだけではなく、挑戦の原点、極限環境でのチームビルディング、認識の齟齬を防ぐコミュニケーションなど、ビジネスパーソンにも通じる普遍的な学びに満ちていました。

AI時代には、情報そのものはますます手に入りやすくなります。だからこそ、一次情報の熱量や、作り手のクラフトマンシップ、そして人の言葉が、その人の温度を伴って届く体験の価値は、むしろ高まっていくのではないでしょうか。まだ宇宙に関心を持っていない人に、どのような最初の接点をつくるか。SpaceStepとしても、今回の対談から大きな示唆をいただきました。今後もcactuz、そして「THE LESSON」との共創を通じて、宇宙に触れるきっかけを、より多くの人に届けていければと思います。渡邉さん、今後ともよろしくお願いいたします。(JMPプロデューサー 長谷川浩和)