
皆さん、こんにちは。JMP(JapanStep Media Project)プロデューサーの長谷川浩和です。『SpaceStep』にとって新たな挑戦となる連載をスタートさせます。今後、本連載では宇宙メディアに関わるフロントランナーをゲストに迎え、宇宙業界、ひいては日本経済を活性化させるためのメディアの在り方を探求していきます。記念すべき第1回のゲストは、宇宙ビジネスや衛星データの活用を分かりやすく伝えてきたメディア『宙畑(sorabatake)』の編集長、中村友弥さんです。2017年の創刊以来、業界の先陣を切ってメディアを運営されてきた中村さんは、宇宙産業の現在と未来をどう見つめているのか。早速お話を伺っていきましょう。(文=JMPプロデューサー 長谷川浩和)
今回のゲスト

『宙畑』編集長 中村友弥さん(写真右)
1991年、熊本県生まれ。一橋大学法学部卒業後、株式会社オールアバウト入社。2017年に宇宙ビジネスメディア『宙畑』の立ち上げに関わり、2018年にTellusのオウンドメディア化後に編集長に就任。宇宙ビジネス記事の企画・編集や、数多くのインタビューを実施。また、衛星データを活用した海釣りなど、自らも宇宙技術を活用したノウハウを発信している。2019年に株式会社sorano meを共同創業し、宇宙技術の利活用促進に従事。
聞き手:JMPプロデューサー 長谷川浩和(写真左)
長谷川 本日はよろしくお願いいたします。宇宙メディアの大先輩である『宙畑』さんと、ぜひ「宇宙メディア」をテーマにお話ししてみたいと思って打診させていただきましたが、まさか快諾いただけるとは思っていませんでした(笑)。
中村 いえいえ(笑)。こちらこそありがとうございます。宇宙メディアの数は、決して多くはありません。だからこそ、メディア同士でどうやって業界を盛り上げていこうかというお話をできる機会はとてもありがたいです。

長谷川 まず、中村さんが、なぜ宇宙の分野に興味を持ち、『宙畑』の編集に携わるようになったのでしょうか。その原点をぜひ教えていただけますか。
中村 私は熊本出身なのですが、家族旅行で両親に「ルナ天文台」という南阿蘇にある天文台付きの宿に連れて行ってもらったことが、最初に宇宙に興味を持ったきっかけです。
おそらく散開星団だと思うのですが、肉眼で何も見えないところに向いた望遠鏡を覗くとそこにはキラキラした星がたくさん広がっていて感動しました。売店で購入したアンドロメダのキーホルダーは、大学進学時まで大切に使い続けていたほどです。
長谷川 たくさんの星が広がる世界。お話を伺っているだけで、ワクワクしますね。

中村 ただその時は本当に「ただの星が好きな人」くらいで、望遠鏡を買うところまでは手を出しませんでした。その後、大学受験に失敗し、本屋に立ち寄った際に目にしたのが、漫画『宇宙兄弟』でした。JAXAの存在をそこで初めて知ったくらいだと思います。実際、仕事として宇宙を意識していたわけではなく、大学は法学部に進学し、司法試験を目指していました。
長谷川 もともとは司法試験を目指されていたのですね。そこからどのように方向転換されたのでしょうか。
中村 司法の世界では、犯罪や不倫のような民事トラブルなど、どうしても世の中のネガティブな情報を扱う側面があります。司法の世界に入ることは、私には向いてないのではないかという挫折がありました。
長谷川 そうだったんですね。そこからどのようにして今の道に繋がったのでしょうか。
中村 先ほど『宇宙兄弟』の話をしましたが、当時『mixi』というSNSにあった「宇宙兄弟コミュニティ」に参加していました。何名かの方とオンラインでの会話を楽しむなかで、たまたま仲良くなった方から「JAXA相模原の宇宙科学研究所で特別公開があって、自分の展示もあるから来てよ」と誘われたんです。そこで初めてJAXAへ足を運ぶことになりました。
長谷川 SNSでの出会いがきっかけだったんですか。運命的ですね。
中村 はい。とはいえ当時の私は、JAXAが相模原、筑波、調布とさまざまな場所に分かれていることも、人工衛星が何の役に立っているのかも全く知らない状態でした。実際に見学して印象に残ったのは、ロケットでも星でもなく、宇宙太陽光発電の展示でした。「宇宙開発は、地球に住む人の役に立つのか!」と衝撃を受けたんです。
宇宙開発は「夢やロマン」、あるいは「難解なもの」という印象が先行しがちです。しかし、未来を支える不可欠なインフラとしての側面を広く周知することこそが、社会をより明るいものに変える鍵になるのではないかと思った原点です 。当時はJAXAのホームページのイベント欄を定期的にチェックして、予算が許す限り、行けるイベントにほとんど行っていたような気がします。
その際に、とあるJAXAのイベントでたまたま出会ったのが、後に『宙畑』の立ち上げメンバーとなる株式会社sorano me代表・城戸彩乃さんでした。城戸さんから「TELSTAR(テルスター)」という宇宙広報の学生団体でフリーマガジンを立ち上げるから一緒にやらないかと誘ってもらい、そこから本格的に宇宙の情報発信に携わるようになったんです。
長谷川 なるほど、最初は学生団体の活動からスタートされたのですね。
中村 はい。ただ、TELSTAR時代は「渉外」として、広告費の協賛を集めに行ったり、ビジネスとは直接関係のない「月」の取材に行ったりと、まだ宇宙ビジネスそのものにはピンときていない状態でした。その後、社会人になり、私自身はオールアバウトという生活総合情報サイトを運営する企業でメディアのノウハウを蓄積していく中で、城戸さんから「『宙畑』というメディアを立ち上げる」という話を聞き、自分の学んだことが活かせるかもしれないと思い、参画することになりました。
長谷川 すでに業界内で知名度の高い『宙畑』ですが、改めてメディアのことを教えてください。
中村 宙畑は2017年2月に、社会人有志で立ち上がったWEBメディアです。もともと、TELSTAR時代に中高生向けに宇宙の楽しさを伝えてきましたが、彼らが大学に進んでいざ就職するとなった時に、宇宙産業で働く場所や選択肢が見えづらいという課題を城戸さんは感じていたようです。そこで、宇宙ビジネスに特化したメディアを立ち上げようとなったんです。

長谷川 課題意識から『宙畑』が生まれたわけですね。
中村 その後2018年12月からは衛星データプラットフォームTellusのオウンドメディアとして活動しています。扱うテーマは宇宙ビジネス全般を網羅しつつ、衛星データ利活用に関する記事では、ビジネス事例のインタビュー、解析事例、論文紹介などを厚く取り上げています。
長谷川 私も日々拝読しております。『宙畑』が大切にしているコンセプトはどのようなものですか?
中村 情報発信に限らず、宇宙ビジネスの活性化につながる媒介として「読者の方が前に進む一助となること」「人と人とをつなげること」を目指しています。例えば、今は宇宙ビジネスの人材不足が課題となっていますが、宇宙ビジネスに転職することに興味を持った方がいらっしゃったときに、この会社ではどのような思いを持った方が働いているのか、どのような社会的意義を持つのか、そのような判断材料が中立的なメディアの中にあることは一つの価値だと思っています。また、転職する方にご家族がいらっしゃる場合に、夢やロマンだけではなく、社会的な価値や今後の成長可能性を説明する材料として『宙畑』を活用いただけると嬉しいなと思っています。
長谷川 すごく共感します。確かに、宇宙ビジネスは専門性が高くて一般の方にはイメージしづらい部分がありますもんね。
中村 そうした時に、『宙畑』の記事を通じて、その企業にどんな人がいて、どんな思いで働いているのかを知り、「この企業に入りたい」と思っていただく一助になりたいんです。また、転職する際にご家族に説明するための分かりやすい材料や、起業家が投資家に説明するための資料として機能するなど、社会的な情報ギャップを埋める役割を果たしたいと考えています。
長谷川 素晴らしいですね。長年、宇宙メディアを運営されているなかで、コンセプトは創刊当初からずっと同じものだったのでしょうか。

中村 いえ、実は途中から変わってきているんです。当初は、海外のプレスリリースやニュースをまずは日本語で紹介しようという記事からスタートしました。海外と比較して当時は遅れていると言われることもあった宇宙ビジネスの情報を、まずは日本語でしっかり届けようという目的が主で、ターゲット読者をそこまで明確には意識していませんでした。
長谷川 変化が起こったタイミングはいつだったのでしょうか。
中村 大きく変わったのは、2018年12月に衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」のオウンドメディアになってからです。当時「誰に、どんな情報を届け、どのように動いてほしいか」を考えていく中で、ビジネスプランナー、エンジニア、データサイエンティストという3つの対象読者を設定し、実際に読者層の方々にヒアリングを行いながら記事を作っていきました。
その後しばらくはそれぞれの対象読者に向けた記事を制作していたのですが、宇宙ビジネスの至る所に「情報ギャップ」が存在していることにより課題感を持つようになりました 。衛星データの解析企業とユーザーの間、政府と企業の間、転職者と家族の間などです。そのギャップをいかに穴埋めできるか、ということです。
長谷川 私たち『SpaceStep』では、宇宙ビジネスが「自分ごと」ではない読者の皆さんに、少しでも宇宙ビジネスを身近に感じてもらうことを重視しています。ギャップという意味では、「非宇宙産業」にいる方と「宇宙産業」にいる方とのギャップを埋めたいという思いです。『宙畑』さんは、より専門性の高い読者層のギャップを埋めることに注力されているのですね。同じ宇宙領域でもアプローチが異なり、大変勉強になります。中村さんは宇宙を「伝える」ことの難しさはどんなところに感じますか?
中村 宇宙ビジネスは、専門用語が飛び交う中、どこまでの情報を噛み砕くかが非常に難しいと考えています。例えば、衛星データの解析記事を書く際、Pythonのコードが読めるエンジニアに向けて書くなら、ある程度の専門知識は前提として進められます。しかし、エンジニアであっても衛星の「光学」と「SAR(合成開口レーダー)」の違いを知らない方は多いので、どこまで基礎知識を補足すべきか、記事ごとにバランスを取るのが非常に難しいですね。記事ごとに、これから宇宙ビジネスに興味を持つ方なのか、ある程度関心を持って実務にあたっている方なのかを意識しながら編集しなければなりません。
長谷川 専門用語をどこまで噛み砕くかは、我々も常に悩むポイントです。
中村 そうですよね。『宙畑』らしさという点でいくと、私たちはインタビュー記事が1万字を超えることも珍しくありません。今の時代、短い文章が求められがちですが、私たちは響いた言葉を変に脚色せず、できる限り生の言葉としてしっかり載せたいと思っています。読者の方から「記事が長いけれど、インタビュー対象者の人となりが生々しく分かるので、実際に会話する時の潤滑油として役立っている」と言っていただけたことがあり、人物のプロファイルとして機能しているのかという新しい発見もありました。
また、『宙畑』の記事はこれから宇宙ビジネスに携わろうと検討している読者の方、宇宙ビジネス企業の中でのオンボーディング資料としてもご活用いただいているとのありがたい声をいただくことも多くあります。
宇宙業界には本当に素晴らしい専門的な知識、技術を持つ方がいらっしゃる中で、そのような方々と新しく興味を持たれた方々が、一定の知識を持って対話できるようになるまでの時間を短くする媒介として『宙畑』が機能できるような記事を増やしていくことも、『宙畑』らしさかもしれません。
長谷川 長く宇宙産業を取材されてきて、現在の宇宙ビジネスはどのようなフェーズにあると見ていらっしゃいますか。