地政学リスクの高まりに伴い、自国の領土や領海を他国に依存せず常時把握する「主権的な安全保障」の確保が世界各国で急務となっている。特に広大な排他的経済水域を抱える沿岸国にとって、天候や昼夜に左右されず海洋を監視できる手段の確保は、国家防衛の根幹に関わる課題だ。
軍事的な監視にとどまらず、気候変動に伴う大規模水害への備えとしても機能するレーダー衛星の網が、安全保障と防災を一体で支える新たな防波堤になろうとしている。(文=SpaceStep編集部)
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2026年7月10日、小型のレーダー衛星を多数連携させて地球を観測する「小型SAR衛星コンステレーション」を展開するICEYE社は、ポルトガル法人を設立し、首都リスボンに技術開発センターを開設したと発表した。
SAR(合成開口レーダー)とは、自ら電波を照射して反射を測定することで、雲に覆われた悪天候時や太陽の光が届かない夜間でも地表を鮮明に捉えられる観測技術のことだ。これらを多数協調させて運用するコンステレーションにより、特定の地域を途切れることなく高頻度で監視できる体制が整う。

(引用元:PR TIMES)
同拠点はポルトガル空軍との提携のもと、ソフトウエア開発やAIの研究を推進。主要大学との産学連携を通じて技術力を高めるほか、現地企業とも連携して人工衛星の組立・統合・試験を行う施設の設立も計画する。すでに納入された衛星のうち2基が軌道上で稼働しており、大西洋の領海や排他的経済水域(EEZ)を監視する体制の拡充を進めている。
防衛にとどまらず、民間の防災支援に力を入れている点も特徴だ。そのために、天候や昼夜を問わず地表を撮影できる特性を生かす。2026年1月と2月には、ポルトガル・スペインを襲った大西洋嵐による約4,657平方キロメートルの浸水被害を捉える約630枚の画像を撮影。自然災害に対するこうした独自のソリューションの提供を銀行や保険会社、民間防災機関へ開始するなど、防災面での貢献を目指していく。
ポルトガル法人代表取締役社長であり、ディープテック分野で豊富な実績を持つルイ・コスタ氏は「欧州が自立した宇宙能力を確保する上で、ポルトガルは地理的利点と人材を兼ね備えた重要な存在だ。産官学の協働を通じて次世代の宇宙インテリジェンスを構築し、社会の基盤となる技術を生み出していく」と決意を述べている。
国際秩序が流動化する現代において、宇宙から得られる情報インフラを他国に依存し続けるリスクは大きい。有事の際、同盟国であっても自国が求めるタイミングで衛星データを共有してくれるとは限らないからだ。
自国の安全を自前で守るためには、観測衛星の運用からデータ解析、意思決定に至るプロセスを自国内で完結させる「主権の確保」が欠かせない。
加えて注目すべきは、防衛目的で整備した宇宙インフラを、平時には保険や防災といった民間経済へ転用する「デュアルユース」の仕組みだ。
安全保障のためだけに莫大な予算を投じて衛星網を維持することは、国家財政にとって重い負担となる。しかし、台風や水害の被害状況を把握し、保険金の迅速な支払いやインフラ復旧に役立てるビジネスモデルが確立できれば、民間資金を巻き込んだ持続可能な運用が可能になる。防衛と経済を分断させず、両輪で回す構造こそが、欧州の進める宇宙戦略の強かさと言える。
四方を海に囲まれ、自然災害が多発する日本においても、この動きは対岸の火事ではない。広大な排他的経済水域の監視や、頻発する水害への迅速な初動対応において、自立した衛星インテリジェンスの確保は国家的な優先課題だ。
宇宙技術を研究対象にとどめず、国土の防衛と経済の復元力を支える防波堤として実装する。欧州が加速させる自前主義の挑戦は、日本の宇宙安全保障と産業政策にとっても大いに参照すべき、重要な先例となるはずだ。
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