海外でエネルギーや産業インフラ向けのプラント事業を手掛ける日揮グローバルの中で、宇宙領域に特化した「宇宙エンジニア™」。皆さんのご寄稿のもと、日本が宇宙領域において抱える課題や挑戦を発信する当連載。
今回は、2024年10月にイタリア・ミラノで開催された世界最大の宇宙国際会議「IAC(International Astronautical Congress)2024」に注目します。4年連続の参加となった日揮グローバルは、「Lumarnity®」をテーマに初のプレゼンテーションを実施。VRによる月面体験の実演や、将来の月面社会構想を世界に向けて発信しました。国際会議の現場から見えた月面開発の潮流と、発表を通じて得た手応え、そして次なる挑戦についてお話しいただきます。(リード=SpaceStep編集部、本文=日揮グローバル 宮下俊一さん)
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今回の宇宙エンジニアは

日揮グローバル株式会社 Engineering DX推進室
宮下 俊一さん
1998年入社。サウジアラビア・オマーン・マレーシア・ベトナムなど多くの海外プロジェクトにてOil & GasプラントのEngineeringに従事。2018年よりIT Grand Plan2030策定・推進メンバー、2020年から月面プラント開発責任者を務め、2024年からEngineering DX推進室の室長。Engineering DXを実現した未来の姿として、Lunar Smart Community® (Lumarnity®)を提唱し、宇宙エンジニア™として開発管掌・プロジェクトディレクターを務める。
IAC (International Astronautical Congress)は、政府機関・宇宙機関、産業界、大学、宇宙関連団体等が参加する世界最大の宇宙業界の国際会議です。IAC2024は第75回目、イタリア・ミラノでの開催となりました。第63回IACがイタリア・ナポリで行われており、同国にとって12年ぶりの開催でした。
宇宙エンジニア™︎としては、3年前のIAC2021@UAE・ドバイ、IAC2022@フランス・パリ、IAC2023@アゼルバイジャン・バクーに引続き4年連続4回目の参加となりました。
今回も参加報告書から抜粋し、公開可能な内容を加筆しました。普段はなかなか触れる機会のない国際宇宙会議の一端を垣間見る追体験を通じて、皆さまにも学び・希望・勇気が少しでも届くと幸いです。
IAC (International Astronautical Congress) 2024
開催期間: 2024年10月14日-10月18日
開催場所: MiCo Milano Convention Centre(イタリア・ミラノ)

MiCo Milano Convention Centre
参加目的;
1)プレゼン発表を通じた日揮グローバルのプレゼンス向上
2)最新の国際宇宙計画・各国の動向の把握、及びニーズの探索
3)月面推薬プラント、月面基地等に関わる最新技術・情報の入手
「Hello Space People!」から始まったオープニングセレモニーは数千人規模で、主催するIAFの代表のスピーチに始まり、イタリアの大統領・要人のスピーチに加えて、国際宇宙ステーションからのビデオレターなど、いつも通りの盛り上がりでした。
表彰式では、世界で初めて月の南極付近への軟着陸に成功した、ISRO(インド)の無人月面探査機チャンドラヤーン3号を表彰。「1号2号の失敗を糧に我々はついに成功した!」とISROの代表がスピーチしていたのが印象的でした。一方で毎回現れる持ち時間を気にせず長々と話す方や、国際会議にもかかわらず自国語で話す方がおり、どうしても集中力が途切れてしまう瞬間がありました。

オープニングセレモニーの様子
日揮グローバル初の試みとして、2件のプレゼン発表を行いました。それぞれSpace Education Interactive Presentation (IP)の2つのセッションで実施したハイライトを示します。
●Space Education
教育関連のセッションでの採択・発表となり、プレゼン発表だけではなく、Hands-on demonstration (実演)が求められました。通常の発表時間が10分前後であるのに対し、デモを含み20分の発表時間が与えられました。会場は150人規模のYellow Hall 3という会場でした。最初の5分で、会社紹介や Lumarnity®の概要、 Lumarnity® VR/ Lumarnity®360の説明を行い、聴衆から3人の体験ボランティアを募って約10分間のVR実演、残り時間でまとめと結論、質疑応答という流れでした。
質疑応答では、「VRワールドはカスタマイズ可能か?」というような質問があり、「Unityで作っているので、もし3DモデルがあればVRの中に入れ込むこともでき、カスタマイズも可能」と回答しました。
セッション開始前に、このセッションのオーガナイザーであるNASAの方にVR体験してもらったところ大好評で、セッション終了後に時間を確保してVR体験できなかった聴衆の方々に体験を呼び掛けていただきました。おかげで発表以外の時間で多くの方にVR体験をしてもらうことができました。
一方で、実演発表ということで、VR機器の準備、海外でのWifiネットワーク確保、実演本番でのアクシデント(VR中のローバーに乗りそびれた)など、通常の発表にはない難しさもあり、事前準備が肝要であると感じました。
ともあれ世界最大の国際宇宙会議で参加4年目にしてこの発表までこぎ着けたことは、当社の今後の活動や対外アピールとしても大きな一歩になったのではないかと思います。

発表の様子
●Interactive Presentation (IP)
もともとはTechnical Sessionへの応募で合ったものの、IPでの採択となり「 JGC’s Vision for a future Lunar Society “Lunar Smart Community ® (Lumarnity ®)」を発表しました。会場には90台ものモニターが設置され、同時に発表されていく様子は活気があり、熱量を感じるものでした 。
また発表資料の編集や当日の発表はiPostersを活用して行われ、この利便性を感じました。特に発表中の操作性がよく、紙媒体でのポスターセッションと比較し、より効率的に情報を伝えられる手法でした。発表時間は10分間、と短い時間ではありましたが、立ち止まっていただいた方々とは相互にコミュニケーションをとりながらの発表となりました。
発表の前後にも問い合わせがあり、特にドイツで月面でのロボティクスに関する研究を実施しているという研究者から「日揮グローバルに包括的に検討を進めている例はあまりみないので、資料を送付してほしい」とおっしゃっていただくなど、内容についても啓蒙活動を進める意義のあるものであると再認識しました。


発表の様子
JAXAはPlenary Program (PP)のセッションに参加されていました。JAXA事業案件でお世話になっている方が登壇されたのでお聞きすると、 PPに採択されたのはJAXA初との事でした。Auditoriumという大会場で、NASAやイタリア宇宙庁の方々を相手に、JAXAがモデレーターを務めており、本当にすごいことだと思いました。
なお、QRコードで参加者が質問を入力する仕組みなのにQRコードを提示し忘れてしまい、 会場からの質問がモニターに表示されないなんてハプニングもありながらも、セッションをまとめ上げ、またISRU (In-Situ Resource Utilization : 現地資源利用)の必要性を周知するという偉業を成し遂げたJAXA担当者には尊敬の念を禁じ得ません。
参加した2名の所感から、ハイライト形式にした抜粋を以下に示します。
参加者が1万人を超え、ポスターセッションだけで1500件超、Technical Sessionの数も過去最大、とまさに業界の現状をよく示しているように感じる回でした。 特に印象的だったのは、Technical Sessionにおける各国の月面開発に関する発表の増加でした。
前年までは比較的研究者レベルの要素技術の検討、といった発表で構成されていたものが、一つレイヤーを上げ、各宇宙機関における計画とその状況などの内容と置き換わっていた印象でした。アルテミス計画への参加国は既に47か国、それだけプレイヤーが多岐にわたる中で、如何に先行者優位を取り続け、ポジショニングを保つか、非常に多くを考えさせられました。
一方で月面の資源利用という観点だけでみると、推進薬プラントの“全体システム検討”についての具体的な成果発表は、JAXAによる当社の検討結果のみであったのもまた事実です。各宇宙機関の月面探査後の関心が徐々に移っていく過渡期に差し掛かっているように感じられます。
今回4回目の参加にしてIACで発表の場を得ることができ、一歩大きな前進であったと思われる。また発表についても聴衆の反応は良く、VR体験いただいた方からは賞賛され、特に発表したセッションのモデレーターの方からは高い評価を受けたので、次回に繋がる発表になったと思われる。
世界最大の国際宇宙会議かつ、海外での発表となるとハードルが高いように感じるが、発表内容がセッションと合致していれば所属に関わらず採択され、またアットホームな雰囲気の中での発表であり、他の学会のような緊張感はなく、私自身にとっても非常に良い経験となった。
様々なネットワーキングの機会にも恵まれ、国内外の関係者との面会を実施できた。過去のIACや米国で開催されたASCENDなどでお会いした方との再会もあり、国際的な場でも業界の“中”に入っていけるよう引き続き尽力したい。 移ろいゆく時代の中、こういった発表、情報収集、調査の機会は余すところなく捉え、のちにつなげていく所存である。
イタリア・ミラノでの開催ということもあり、PRADAとAXIOM Spaceの宇宙服が展示されたり、Gala Dinnerではミラノコレクションが開催されたり、オペラが披露されたりと随所にイタリアを感じることができました。最後におまけの事例を、以下に2件示します。
商業宇宙ステーションの開発を行っているAxiom SpaceとイタリアのファッションブランドPRADAが「AxEMU」という宇宙服のデザインが発表されました。IACの会場入り口と、ミラノ市内のプラダ本店の目の間にレプリカが展示され、人だかりができていました。
これは実際にアルテミスIIIの有人月面探査ミッションに使用される予定で開発が進められています。白をベースに赤いラインが映えるさすがPRADAと思わせる女性にも人気がでそうなデザインです。宇宙旅行が一般的になるころには、もしかしたらユニクロが宇宙服を開発するかもしれません。

左:IAC会場入り口、右:ミラノ市内プラダ本店前

世界4か国・6都市にしかないスターバックス リザーブ® ロースタリーのミラノ店 に、会議の合間に行きました。ティラミスとエスプレッソで€10
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