2003年に旧ソ連(ロシア)、米国に続き、世界で三番目に有人宇宙飛行を成功させた中国。それ以降、中国の宇宙開発は現在に至るまで発展を続けています。かつては諸外国に比べ技術的にも立ち遅れていたものの、近年の経済成長とともに先ほどの有人宇宙飛行をはじめ、宇宙ステーションや新型ロケットなどの分野で宇宙開発における国際競争力も高まってきました。
そこで今回は、直近における中国の宇宙開発の現況を把握するための入門の解説として、現在の中国においてその宇宙開発を担う主要な企業と動向を簡単にご紹介します。
▼宇宙ビジネスのトレンドを毎日掲載!
宇宙ビジネスを身近にする『SpaceStep』
担当ライター 花園祐(はなぞの・ゆう)
中国・上海在住のブロガー。通信社での記者経験を活かし、経済紙などへ記事を寄稿。独自の観点から中国のロボット業界を考察する。好きな食べ物はせんべい、カレー、サンドイッチ。
まず中国の宇宙開発を見るうえで押さえておきたいのが、政府機関である中国国家航天局(CNSA)と、宇宙開発の実務を担う大手国有企業の存在です。なかでも中国航天科技集団有限公司(航天科技、CASC)と中国航天科工集団有限公司(航天科工、CASIC)は、中国の宇宙・防衛産業を支える代表的な中央企業です。
いずれも中国の宇宙・防衛産業をルーツとする中央企業で、1990年代末の組織再編を経て現在の企業体制が形成されました。ただ現在でこそ組織形態は企業ではあるものの両社はいずれも中央企業に分類される国有企業で、中国政府との結びつきが強いのが特徴です。この2社の傘下ではロケットや燃料の開発、システムの分析など具体的活動を担う子会社ネットワークが形成されており、技術と計画の両面で中国の国家レベルでの宇宙開発をリードしています。
ではこの2社はどう区別されているのか。両社ともに中国の宇宙開発における司令塔であるためその事業には重なっている点も多く、同じ中国政府系企業でありながら競合している分野も少なくありません。ただ大まかな分類では、航天科技の方は衛星やナビシステム分野、航天科工の方はミサイルなどの軍事技術分野により傾注しており、ある程度の棲み分けはなされています。
では上記の司令塔企業2社以外に、中国で宇宙開発を担う主要企業にはどんな会社があるのか。今回、一つの参考例として技術系シンクタンクである泰伯智庫がまとめた、宇宙関連企業という枠の中での2025年末の取引最終日における時価総額ランキング上位10社を参照してみました。各順位と企業は下表のとおりです。

同ランキングで首位となったのは、航天科技の系列企業であり、衛星ネットワーク事業を営む中国衛通集団股份有限公司でした。その時価総額は1509.37億元(約3兆4,263億円)となっています。
その他のトップテン企業を眺めると、その事業内容は衛星製造や衛星ネットワーク、衛星ナビゲーションなどと、全て衛星関連の企業で占められているほか、その専門分野からか航天科技系列企業が4社を占めています。航天科技系列ではない企業も多かれ少なかれ国の資本や管理を受ける、政府系企業となっています。
以上の結果について少し補足すると、宇宙開発事業の中でも民間利用が盛んな分野であることから、衛星関連事業分野に民間投資が集中する結果といえるでしょう。また衛星事業は政府の許認可が絡む通信システムに及ぶことからも、中国政府が資本や運営を管理する政府系企業が多くなる傾向も見て取れ、それゆえかランクイン企業の拠点も中央省庁のある北京に集中しています。
以上みてきたように、時価総額で上位企業はほとんど政府系企業で占められています。では中国の宇宙開発で民間企業の存在感は薄いのかといえば答えはNOで、規制の中、目覚ましい成果を上げる民間企業が既に登場しています。
中国経済ウェブサイトの新浪財経は「中国における民間宇宙関連企業五傑」と題し、高い実績と実力のある民間企業として、北京天兵科技有限公司(北京天兵)、藍箭航天空間科技股份有限公司(藍箭航天)、北京星河動力航天科技股份有限公司(星河動力)、星際榮耀航天科技集団股份有限公司(星際榮耀)、中科宇航技術股份有限公司(中科宇航)の5社の名前を挙げています。
この民間企業5社はいずれもロケット開発企業であり、国の審査、認可を経た上で既にロケットの発射実験を繰り返し行っています。中には星際榮耀のように軌道投入に成功する企業も出ているのですが、どれも設立から10年前後と若い企業で占められています。

今挙げた民間企業5社の中でも、日本で最も名前が知れているのは藍箭航天ではないかと思います。というのも同社は今年8月、一度発射したロケットブースターの回収に成功したことが日本でも大きく報じられているからです。
中国では7月にも航天科技の系列企業である中国運載火箭技術研究院が、その開発ロケットの「長征10号B」にてロケットブースターの回収に成功しています。この回収は海上プラットフォームでワイヤーを使ったネットキャッチ方式が用いられたのですが、米国のスペースXさながらの回収劇は中国を含む世界各地で大きな成果と報じられました。
そんな「長征10号B」の回収からわずか40日後、今度は前述の藍箭航天もロケットブースターの回収に成功しました。回収に成功したロケットは「朱雀3号遥2」という名称で、海上で回収された「長征10号B」とは異なり「朱雀3号遥2」は陸上回収で、着陸脚によって無事に着地に成功しています。
人民日報はこの二つのブースター回収成功に触れ、この回収技術が確立されれば宇宙運搬事業のコストは劇的に低下し、1兆元(約22.7兆円)規模の市場が生まれると期待を寄せています。現実にこのブースター回収は藍箭航天に限らず、先に挙げた企業を含めその他多くの中国企業が挑戦し、実験を繰り返しています。
以上みてきたように、中国では政府系企業が宇宙開発を主導しているものの民間企業も大きな成果を挙げるなど、官民を問わず旺盛な開発活動が展開されています。また中国では有人宇宙飛行にも成功しており、軍需を含め中国政府も宇宙開発に対し積極的であることから、今後も宇宙開発はますます活発化していくのではないかと予想されます。
ただ懸念点もないわけではありません。先の泰伯智庫によると2025年通年の宇宙開発企業向け融資案件数は前年比増となったものの、融資額そのものは同7.1%減の168億元(約3,810億円)にとどまりました。
冒頭でも述べた通り、中国のこのところの宇宙開発における躍進はその経済成長に伴う活発な資金投入が大きいとみられます。しかし筆者自身もライブ感を持ってみていますが、中国が今直面している不良債権に起因する経済問題は短期的な解決はまず見込めず、日本の失われた10年のように今後長い不況に入ることはほぼ間違いありません。そのような経済環境下でも宇宙開発への投資が続けられるのかという点で、一抹の懸念を覚えます。
ただ仮に資金投入が続けられ開発が継続されるのであれば、中国の宇宙開発は今後も目覚ましい発展を遂げる可能性が高いとみています。というのも先に挙げた民間企業のように設立から間もない企業でもロケットブースター回収に成功するなど、挑戦的且つ実力も備えた開発人材が豊富だからです。この理系人材、というより天才の厚みは疑いようがなく、研究開発資金さえ確保され続ければ今後も中国の宇宙開発技術は高い速度で成長し続けるのではないかと予想しています。
▼宇宙ビジネスのトレンドを毎日掲載!
宇宙ビジネスを身近にする『SpaceStep』