小惑星リュウグウからのサンプル回収を成功させ、次なる目的地へと航海を続ける国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」。その拡張ミッションとして挑んだ小惑星「トリフネ」へのフライバイ探査(高速接近通過による探査)には、いくつもの高いハードルが存在していた。もともとフライバイ用に設計されていない機体は、観測装置の角度を変えることができない。秒速約5.3キロメートルで通過する一瞬に観測を成功させるには、衝突を回避しながら天体の至近距離へ導く精密な誘導制御が不可欠だった。
こうした探査機の制約を乗り越えるべく、高度な専門知を結集させたアプローチが結実した。2026年7月、松江工業高等専門学校と大島商船高等専門学校の教員が参画した探査チームは、トリフネへのフライバイ探査で「太陽系天体のフライバイ探査における最小接近距離の更新」と「小惑星フライバイ時の世界初のレーザー測距」を達成した。地方高専の研究力が、深宇宙探査のフロンティアを力強く切り拓こうとしている。(文=SpaceStep編集部)
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(引用元:PR TIMES)
2026年7月5日、「はやぶさ2」は小惑星「トリフネ」へのフライバイ探査を実施した。同月30日には事後解析の結果が公表され、接近距離とレーザー測距の詳細が明らかになった。この歴史的な探査で決定的な役割を果たしたのが、松江高専の浦川准教授と大島商船高専の末次准教授だ。
浦川准教授は、機体がトリフネへ接近する前段階で、遠方から撮影された画像を解析し、小惑星の位置を高精度に測定する「光学航法」を担当した。JAXA、Jet Propulsion Laboratory (NASA/JPL)、日本電気株式会社(NEC)、富士通株式会社、日本スペースガード協会などと協力して位置を割り出した結果、はやぶさ2はトリフネの中心から約744メートル、表面から約400メートルまで安全に接近した。これは太陽系天体のフライバイ探査における最小接近距離の記録となった。

(引用元:PR TIMES)
この超近距離への接近を受け、末次准教授が担当したレーザー高度計による距離測定も大きな成果を収めた。はやぶさ2は、トリフネに対して秒速約5.3キロメートルで接近。トリフネがレーザー高度計の視野内に入る時間は2秒にも満たなかったが、約半年にわたる綿密な準備が功を奏した。最接近の約4秒前と約3秒前に反射レーザーを検知し、それぞれ約20キロメートル、約15キロメートルの距離測定に成功した。小惑星フライバイ時にレーザー測距を実現したのは、世界で初めての成果である。

(引用元:PR TIMES)
松江高専と大島商船高専の教員による今回の成果が示唆するのは、最先端の深宇宙探査を支える高度な研究力が、大学や国立の研究機関にとどまらず、地方の高専にも深く蓄積されているという事実である。
今回の探査における最大の難関は、フライバイ専用機ではないというハードウエア上の物理的制約にあった。そうした条件下でも、高精度な画像解析技術と精密な測距シミュレーションを組み合わせることで、世界最高峰の科学的成果を引き出すことに成功した。機体の制約を知恵と技術で克服したプロセスは、既存の宇宙アセットを最大限に活かす実践的なモデルを示すものだ。
また、本取り組みがもたらす価値は、地方高専が日本の宇宙開発サプライチェーンにおける不可欠な研究基盤として機能している点にある。世界的な宇宙探査プロジェクトの最前線で得られた知見は、高専が強みとする実践的な技術者教育へ直接還元され、次世代の宇宙産業を担う人材を育てる土壌となるだろう。
深宇宙探査の現場では、確かな理論に裏打ちされた現場対応力が問われる。両高専の研究者が提示した高度な技術力と実践は、日本の宇宙探査が世界の未踏領域へ挑み続けるための重要な推進力となっていくはずだ。
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