雲に覆われた梅雨空や、夜間で視界が利かない農地。こうした環境では、作物の生育状況や浸水被害、地盤の変化などを地上からすばやく確認することは難しい。
この課題を解決するのが、天候や昼夜の影響を受けずに地表を観測できるレーダー衛星(SAR衛星)だ。豊かさを象徴する名を持つ最新機の打ち上げにより、農地やインフラの変化をより高い頻度で観測し、地上の経済活動をリアルタイムで把握できる体制づくりが進もうとしている。(文=SpaceStep編集部)
2026年4月、福岡を拠点とする宇宙開発企業の株式会社QPS研究所は、自社の小型SAR衛星QPS-SAR 13号機(合成開口レーダー)が、米国Rocket Lab社のロケットによって打ち上げられると発表した。打ち上げは2026年5月以降に予定※され、今回は同社専用ロケットとして宇宙へ向かう。(※同年7月1日に打ち上げを予定していたが現在は未定)
(引用元:PR TIMES)
SAR衛星は、自ら電波を照射して地表の画像を取得する技術を持つ。光学カメラを用いた衛星とは異なり、厚い雲や噴煙を透過し、昼夜を問わず全天候で地上の様子を観測できるのが最大の特徴だ。同社は軽量な展開式アンテナを開発し、従来の20分の1の質量、100分の1のコストで高精細な画像を取得できる衛星の開発に成功している。

(引用元:PR TIMES)
今回の13号機は「ミクラ-Ⅰ(ワン)」という愛称が付けられた。日本神話において食物や豊かさを象徴する神「ミクラ」に由来し、農作物の生育を宇宙から見守るという願いが込められている。ロケットのミッション名も「穀物の女神が恵みを与える(The Grain Goddess Provides)」とされ、経済活動が活発な大型都市圏が観測域に入る。
同社は、2028年5月末までに24基、2030年には36基による衛星コンステレーションの構築を目指している。これが完成すれば、地球上のあらゆる場所を平均10分間隔で撮影する「準リアルタイム観測」が可能となる。今回の打ち上げは、壮大な観測網を完成させるための重要なピースとなる。
私たちの社会は、気候変動による異常気象や自然災害の激甚化という脅威に常にさらされている。農業においては、長雨や日照不足が作物の生育に直結し、被害状況をいかに早く正確に把握するかが食料安全保障の観点からも重要なテーマだ。こうした予測困難な事象に対し、宇宙から絶え間なく注がれるSAR衛星の「眼」は、これまでにない確実な解決策を提示している。

(引用元:PR TIMES)
これまでの光学衛星による観測では、悪天候時には雲に遮られて地表のデータが得られず、災害直後や重要な農繁期に「情報が途絶える」というリスクがあった。しかし、電波を用いて地上をスキャンするSAR衛星は、いかなる気象条件でも確実なファクトを捉えることができる。「ミクラ」が軌道上から農地を定点観測し続けることで、作物の生育状況や水害による冠水エリアを解析し、収穫時期の最適化や被害の早期算定といった実務へダイレクトに活かすことが可能となる。
また、都市部のインフラ管理においてもその力は発揮される。建物の変位や地盤の沈下を高頻度で検知することで、重大な事故を未然に防ぐ予防保全の基盤となるからだ。36基の衛星が連携し、地球全体をわずか10分間隔でスキャンし続けるシステムが完成すれば、単なる画像の集合体ではなく、地球上の経済活動をリアルタイムで把握する巨大なデータベースへと進化する。
宇宙は探求の対象から、地上の生活を守る不可欠なインフラへと変容した。天候という障壁を超え、確かな事実を絶え間なく地上へ届け続ける。日本の宇宙技術が構築するこの監視網は、不確実な時代を生きる社会を支え、持続可能な未来を築き上げる礎となっていくはずだ。