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2026.04.21

宇宙の眼が漏水を防ぐ。甲府市が拓く水道DX

足元のコンクリートの下。そこには、かつての高度経済成長期に埋設され、いま静かに寿命を迎えつつある巨大な網の目――水道管路が張り巡らされている。その約四分の一が法定耐用年数を超えているという現実は、相次ぐ大規模漏水や道路陥没といった形で私たちの日常に牙を剥き始めている。しかし、膨大な管路を、限られた人員で維持する従来の手法は、すでに限界に達している。

この難題に対し、山梨県甲府市が宇宙からの解決策を導入した。JAXA認定ベンチャーの株式会社天地人が提供する「宇宙水道局」は、人工衛星が捉える地表のわずかな変化をAIで解析し、漏水の「兆し」をピンポイントで特定する。宇宙の知能が、都市インフラを守る新たな基盤となりつつある。(文=SpaceStep編集部)

衛星データで地下の異変を暴く。漏水リスクを可視化する技術

(引用元:PR TIMES

2026年2月12日、甲府市上下水道局は、衛星データとAIを掛け合わせた水道DXソリューション「宇宙水道局」の導入を発表した。金峰山を頂に持つ豊かな水源に支えられた甲府市の水道事業は、安全でおいしい水の供給を誇りとしてきたが、老朽化した管路の早期修繕と、有収率(料金として収入になる水の割合)の向上が長年の課題となっていた。

「宇宙水道局」の最大の特徴は、衛星から取得する広域データをもとに、数メートル単位という高い解像度で管路の漏水リスクを診断できる点にある。従来、漏水調査は専門の職員が地上から一カ所ずつ音を聴いて回る「音聴調査」に頼ってきた。しかし、この手法では広大なエリアをカバーするのに多大な時間と費用を要する。天地人の技術は、地表の水分量や温度変化などの衛星データをAIで解析することで、優先的に調査すべき異常箇所を事前に絞り込み、現場の活動を劇的に効率化させる。

(引用元:PR TIMES

さらに、このシステムは単なる漏水発見にとどまらない。管路の「健全度(漏水リスク診断結果)」に、病院や学校、避難所といった「重要度(社会的影響)」を組み合わせることで、更新優先度を可視化する。これにより、自治体は複数の更新シナリオを比較しながら、予算や地域事情に応じた合理的な計画を立てられる。現場の経験に依存していた意思決定が、データドリブンへと転換する。

「点検」から「予測」へ。自治体知と宇宙技術が紡ぐインフラの盾

今回の導入事例は、インフラの維持管理という重労働を現場の苦労に委ねる時代を終わらせ、データを武器に未来を制御する「知的な資産管理」へとアップデートするための回答の一つといえる。

日本の水道事業は今、人口減少による収入減とベテラン職員の退職による人材不足という構造課題に直面している。これまでのように「壊れてから直す」、あるいは「しらみつぶしに点検する」従来モデルは持続可能ではない。求められているのは、故障前にリスクを把握する“予測型”の管理だ。宇宙データを活用することで、限られたリソースでもインフラ寿命の最大化が可能になる。

また、甲府市のような地方自治体が宇宙ベンチャーの技術を当たり前のインフラとして採用した意義も大きい。かつては特別な研究領域だった技術が、今や生活インフラを支える「黒子」となりつつある。自治体が持つ地域密着のナレッジと、衛星が提供する全地球的な視点が繋がることで、日本のインフラは真にレジリエントな形へと再構築されていく。

水道管の老朽化という静かなる危機に対し、私たちは「宇宙の眼」という新たな選択肢を手にした。甲府市が示したこのモデルは、老朽化の壁に立ちすくむ全国の自治体にとって、都市の安全を維持し、次世代へ豊かな水を繋いでいくための重要な羅針盤となるに違いない。不確実な未来に立ち向かうための確信は、いま、空の上から届けられている。