1. SpaceStep TOP
  2. 宇宙ビジネスを身近にする
  3. “軽くて強い”の最前線!~宇宙領域を支える「FRP」の強さに迫る

2026.09.01

“軽くて強い”の最前線!~宇宙領域を支える「FRP」の強さに迫る

人工衛星や探査機。遠い宇宙の世界を旅するこれら製造物の裏側には、私たちの暮らしのすぐそばにある技術が隠されている。「軽くて丈夫」を体現した素材、FRP(繊維強化プラスチックFiber-Reinforced Plastics)だ。

飛行機の外装や、1970年大阪万博のシンボル「太陽の塔」にも使われ、軽く耐久性に優れたFRPは、宇宙開発の最前線でも活躍している。

今回は、FRPの技術を60年以上にわたり磨き続けてきたスーパーレジン工業株式会社 経営管理部 笹本 志乃さんに、その奥深い世界を聞いた。FRPとは何かを知ることで、夜空に浮かぶ人工衛星への見方がきっと変わるはずだ。(文=SpaceStep編集部)

▼宇宙ビジネスのトレンドを毎日掲載!

お話をうかがったのは

スーパーレジン工業株式会社

身近に息づく、軽量・高強度のFRP

FRP(Fiber Reinforced Plastics)とは、繊維強化プラスチックと呼ばれ、その構造は非常にシンプル。強化材となる「繊維」を「樹脂(プラスチック)」で固めたもの。しなやかな繊維と、形を保つ樹脂が互いの弱点を補い合いあっている。

鉄のように素材そのものを厚くして強くするのではなく、力がかかる方向に合わせて繊維の種類・向き・重ね方を変えられる。軽さと強さに加え、さびにくさや複雑な形への成形のしやすさも備え、必要な性能を狙って設計できる点に大きな可能性がある。

笹本さんは分かりやすく、これを「あらかじめ樹脂を含浸させた繊維を、金型の上に何層にも重ねていきます。これはケーキ型に生地を敷き詰めるようなイメージです。その後、オートクレーブ(大型のオーブンのような装置)に入れ、熱と圧力をかけることで樹脂を硬化させます。焼き上がったケーキを型から外すように、金型から取り出せば、製品が完成します」(笹本さん)。

特筆すべきはその驚異的な物性。例えば、炭素繊維を用いたCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の場合、鉄と同等の強度を持たせながら、重さは鉄のわずか5分の1。


CFRPのサンプル。よく見ると、細い繊維が編み込まれている

魅力的な素材であるCFRP。もちろん我々の身近にも使われている。

例えばカーボン製の釣り竿はその代表例だ。細く軽いのに、魚の引きに耐える強さと、仕掛けを投げるためのしなり、わずかな振動を手元へ伝える感度を両立している。

また航空機においても、CFRPは主翼や胴体、床材などに使われ、強度を保ちながら機体を軽くし、燃費の向上に貢献している。

「強さの源は、髪の毛よりも細い一本一本の『糸(繊維)』にあります。糸自体は柔らかいものですが、それを樹脂で固めることで、その強さを形としてキープできるようになります」(笹本さん)。鉄のようにどこを叩いても同じ強度の素材とは異なり、繊維の向きや重ね方によって強さを設計できる「異方性」も、FRPならではの奥深さと言えるだろう。

炭素繊維は布状に織ることができ、その手触りは布そのものだが、筆者があらゆる方向に引っ張っても、全く破れない強靭性を感じた

宇宙で真価を発揮する、軽くて強い構造技術

FRPの可能性は、地上から空、そして宇宙へと広がっている。「人工衛星自体を軽くできれば、その分、より多くの観測機器やミッションを積むことができます」と笹本さんは説明する。実際、人工衛星のフレームや太陽電池パネルなどに用いられている。

(衛星パネルイメージ)

FRPの強さを最大限に発揮する構造が「ハニカムサンドイッチ構造」という技術。これは、蜂の巣状(ハニカム)のアルミ材を、薄い炭素繊維の板で挟み込んだものだ。表面のカーボンが強さを持ち、中のハニカムが厚みを稼ぐことで、驚くほどの剛性が生まれる。

ハニカム構造で作られた実際に手に持つと、その軽さに驚く。構造としては段ボールに近いという

この技術は、小惑星探査機「はやぶさ2」の太陽電池パネルの構造体などにも採用され、過酷な打ち上げ時の振動や衝撃から精密な機器を守り抜いた。

また、地上でもFRP成形技術は生きている。自然環境からアンテナを保護する役割を持つ、大きな球体「レドーム」だ。これも、電波を透過させつつ雨風からアンテナを守るために、スーパーレジン工業のFRP成形技術が使われている身近な一例である。

「スペースデブリ」(宇宙ゴミ)の観測施設である、岡山県の上斎原スペースガードセンター

FRPと歩んだ60年

同社の歩みは、日本のFRPの歴史そのもの。1957年の創業当初は、バスタブや水槽といった日用品からスタートしたという。1970年の大阪万博では、シンボルとして建設された太陽の塔の「太陽の顔」も担当。太陽の塔の構造は鉄骨、鉄筋コンクリート造りで製造されているが、「太陽の顔」部分をコンクリートで製造するとなると質量が大きくなり、軽量化する必要が。そこで、軽くて強いFRPでの製造が求められた。

  ガラス強化プラスチック(GFRP)による積層作業。直径12mの全面に何層にも積層していく作業は高所作業という点も加わり、困難な作業だったという

時代が進むにつれ、ガラス繊維(GFRP)中心から、東レが新開発した炭素繊維を用いた挑戦が始まった。スーパーレジン工業も、研究会に参加し、手探りで技術を構築していたという。

その後航空分野でのCFRP製造を経て、宇宙領域も担い、人工衛星用太陽電池のサブストレート(土台となる支持基板)、小惑星探査機「はやぶさ2」の構造体製作をはじめ、数多くの人工衛星プロジェクトに携わってきた。

人工衛星用太陽電池のサブストレート。一般的に太陽電池の裏側に配置し、その上に半導体層や電極を載せる

宇宙領域では品質を保つため、航空宇宙特有の品質マネジメント規格「JIS Q 9100」を取得。材料の管理も徹底しており、熱で反応が進んでしまうデリケートな素材は、まるで生鮮食品のように冷凍庫で保管し、使用するまでの時間を分単位で管理している。宇宙で活躍するFRPが作られているのだ。

次世代へつなぐ、ものづくりと宇宙への夢

「BtoBの企業である私たちは、一般の方に知ってもらう機会がなかなかありません。だからこそ、次世代を担う子供たちへの教育を大切にしています」。同社は地元の小学校での社会科見学や中学生の職場体験を何年も継続している。職場体験では工場見学だけでなく、実際にFRPに触れ、自分たちで製品を作ってみる体験を通じ、ものづくりの楽しさを伝えているのだ。

「宇宙に関わりたいなら、JAXAのような大きな組織だけでなく、部品を作る会社など色々なアプローチがあることを知ってほしい」という笹本さんの言葉には、業界の未来を想う熱がこもっている。

FRPという素材自体、今後50年、60年経っても「軽くて強い」という価値が変わることはないだろう。しかし、その使い方は次世代の自由な発想によって、月面の居住施設や新型ローバーなど、今では想像もつかない形へ進化していくはずだ。「若い人たちの夢を叶えられる企業でありたい」。スーパーレジン工業は、その時により進化した技術で応えられるよう、今日も一つひとつの繊維と向き合い、技術を磨き続けている。

▼宇宙ビジネスのトレンドを毎日掲載!
宇宙ビジネスを身近にする『SpaceStep』

▼スーパーレジン工業株式会社 公式
https://www.super-resin.co.jp/