皆さん、こんにちは。宇宙ビジョンクリエイターの五嶋 耀祥(ひな)です。今回も宇宙ビジネスに挑む多彩なゲスト=「宇宙人」をお招きし、対話を通じて宇宙の楽しさと可能性を一緒に探っていきます。今回のゲストは、JAXA発ベンチャーとして宇宙用コンピュータの開発を進める株式会社Space Cubics Co-founder/取締役の森島史仁さん。宇宙とは無縁だった技術者が、なぜ宇宙ビジネスに身を投じたのか。そこから見えてきた宇宙産業の面白さと可能性を紐解きます。(ナビゲーター=五嶋 耀祥/文=SpaceStepプロデューサー長谷川浩和)
今回のゲスト

株式会社Space Cubics Co-founder/取締役
森島 史仁さん(写真左)
2000年より組み込みCPUボードメーカーで開発、営業、マーケティング、経営に携わり、幅広い事業経験を培う。2018年、JAXA職員と民生コンピュータ開発者らによって設立されたJAXA発ベンチャー、Space Cubicsの共同設立者として参画。現在は取締役として、宇宙空間での利用を前提とした高信頼コンピュータやアビオニクスの開発に取り組む。超小型衛星「SC-Sat1a」による軌道上実証や、新型OBCの開発などを通じて、宇宙開発のハードルを下げる挑戦を続けている。
聞き手

ハッピー・ファム合同会社 代表/社会起業家・ITコンサルタント
五嶋 耀祥(ひな)さん
北海道苫小牧市出身。苫小牧工業高等専門学校で情報工学と電子生産システム工学を学び、卒業後はシステムエンジニアとしてビッグデータ解析や業務システムの構築に従事。その後、大学事務職や子育てを経て、2015年にNPO北海道ネウボラを設立し地域支援を開始。2019年にハッピー・ファム合同会社を設立し、DX推進・IT教育・宇宙産業支援・女性や親子支援など多分野で活動。2021年には一般社団法人ファミリー支援INV協会を創設し代表理事を務める。ITと福祉、教育を横断するソーシャルビジネスの担い手として注目される。
五嶋 森島さん、本日はよろしくお願いいたします。森島さんとの出会いは、札幌で私が「宇宙とDX」をテーマにお話しした経営者向けセミナーがきっかけでしたよね。あのとき、参加されていた方から「札幌で衛星をつくっている会社がある」と伺って、すごく驚いたのを覚えています。実際に開発現場も見せていただいて、北海道にも、こんなに熱い宇宙の現場があるのだと感動しました。今日はぜひ、その原点から伺わせてください。
森島 よろしくお願いします。株式会社Space Cubicsは2018年6月に設立した会社です。もともとは札幌で組み込みコンピュータをつくっていた技術者たちがベースになっています。前職時代にJAXA(宇宙航空研究開発機構)から、国際宇宙ステーションで使うボール型ドローンの開発を一緒にやらないか、という話をいただいたんですね。そこで初めて宇宙のプロジェクトに関わることになりました。
創業のきっかけとなった国際宇宙ステーション用ドローン開発
五嶋 地上のコンピュータ開発をしていたチームが、いきなり宇宙とつながっていく。その展開自体がすごく面白いですね。
森島 そうなんです。そのとき、JAXA側のプロジェクトリーダーの方が「宇宙用コンピュータは高くて、安くて良いものがない」とお話されていたんです。その言葉がずっと残っていました。2018年ごろ、前の会社を辞めていたエンジニアたちと次に何をやるか話をしていたときに、弊社の代表がその話を思い出しました。改めてご相談に伺うと、ちょうどJAXAベンチャーの共創型制度が立ち上がる時期で、「それなら一緒にやろう」となって、Space Cubicsが生まれました。
五嶋 まさにご縁とタイミングですね。必要な課題があり、それを解く技術者がいて、制度も整った。その三つが重なって会社が生まれたわけですね。札幌発のJAXAベンチャーというだけでも象徴的ですが、森島さんご自身はどんなキャリアを歩んでここに至ったのでしょうか。
森島 私は北海道の田舎の出身で、子どもの頃は外を走り回って育ちました。高専に進んでからはコンピュータを学び、それが面白かった。卒業後は大手企業にプログラマーとして入りました。ただ、実は入社するときから「いずれ辞める」と思っていたんです。
五嶋 最初からですか。それはなぜでしょう。
森島 高専時代の同級生を見ていると、小さな会社で働いている人ほど、会社全体を見ながら自分の役割を理解していて、生き生きと働いているように映っていたんです。一方で大きな会社だと、自分の仕事が全体の中でどういう意味を持つのかが見えにくいと感じていました。就職前にある経営者の方に相談した際、「新卒で大手に行ける機会は今しかない。大手から小さい会社へは行けるが、その逆は難しい」と背中を押され、まずは大手に行きました。

五嶋 その感覚、私もすごく共感します。私自身も大手で働いた経験があるので、大きな組織でしか見えない景色と、小さな組織だからこそ得られる手応えの両方があることはよく分かります。森島さんは、その後スタートアップへ移られたんですよね。
森島 はい。社員が二人しかいないような会社に入りました。そこで組み込み用コンピュータを事業の柱に据えて、取締役として十数年働いてきました。経営も、資金調達も、事業づくりも、かなり幅広く経験させてもらいました。JAXAからの仕事も、その会社で受けたものです。
五嶋 その積み重ねがあったからこそ、宇宙に入ったときも単なる憧れで終わらなかったわけですね。とはいえ、実際に宇宙の仕事に触れたときは、どんなお気持ちだったのでしょう。
森島 技術者って、やっぱり子どもの頃から宇宙に憧れがあるんですよ。私もそうでしたし、高校時代の友人が「自分の人生で、ロケットに使われるネジ一個でもつくれたら十分だ」と語っていた言葉も、強く心に残っています。宇宙ってそれくらい人を惹きつける世界なんですよね。だから、自分が宇宙に関われること自体が純粋にうれしかった。詳しい知識があったわけではないんですが、ロマンがありました。
五嶋 宇宙ビジネスというと、最初から宇宙一筋の研究者や技術者だけの世界に見えがちです。でも森島さんのお話を伺うと、地上で培った技術と経験が、ある瞬間に宇宙につながる。そこに、この産業の開かれた面白さを感じます。宇宙は特別な誰かだけのものではなく、専門性を磨いてきた人たちにとって新たな舞台になり得るのだと、改めて思いました。
五嶋 ここからは、Space Cubicsさんの事業について伺いたいと思います。Space Cubicsさんは単に宇宙向けの機器をつくる会社というより、宇宙産業の土台をつくっている会社だと感じます。まず、掲げているビジョンについて教えてください。
森島 弊社には、かなり強い夢があるんです。かつてご一緒したJAXAのプロジェクトリーダーの方が「いつか月にホテルを建てたい」と本気で夢を語っていて、資材の運び方や食事のことまで細かく考えていた。それを聞いているうちに、創業メンバーの中でも「いつか月のホテルで、地球を眺めながらみんなでビールを飲めたら最高だよね」という話になったんです。「誰でも月に遊びに行ける時代をつくる」という当社のビジョンは、そこから生まれました。
五嶋 とても壮大ですが、ワクワクしますね。宇宙を遠い場所として語るのではなく、いつか行ける場所として想像していらっしゃるんですね。
森島 私たちはロケットをつくる会社ではありません。得意なのはコンピュータです。だから、宇宙産業を支えるコンピュータをつくることで、その先の未来に貢献したい。自分たちの強みで宇宙産業の裾野を広げ、その結果として月に近づいていく。そういう考え方ですね。
五嶋 その宇宙用コンピュータが、そもそもどういったものなのか教えてください。地上のコンピュータと、どこが違うのでしょうか。
森島 宇宙はコンピュータにとって過酷な環境です。最大の要因は放射線ですね。地上では正常に動くコンピュータも、宇宙に持っていくと放射線の影響でデータが化けてしまう。そうすると命令が変わったり、データが壊れたりして、致命的な誤動作が起きます。それを防ぐのが宇宙用コンピュータです。
五嶋 なるほど、そこにSpace Cubicsの強みが発揮されるわけですね。
森島 はい。従来の考え方は、放射線を受けても壊れない特別な部品で固める方法でした。分かりやすく言えば、厚い壁で守るイメージです。でも、それだと重いし高い。コンピュータ一台が1,000万円を超えることも珍しくありません。そうすると、開発段階で複数台そろえるだけでも膨大なコストになる。
五嶋 宇宙ビジネスのハードルを上げてしまうわけですね。
森島 そうです。そこで私たちは逆の発想を取りました。放射線でデータが化けること自体は起こり得る。ならば、それを即座に検知して戻せばいい。異常な電流が流れたら止めればいい。つまり、壊れないように守り切るのではなく、異常が起きても立て直せる仕組みをシステムとして持たせるんです。そうすることで、民生品の部品を使いながら宇宙環境に対応できるようにしています。
五嶋 とても面白いですね。宇宙専用の特殊なものをつくるというより、地上の技術や部品を活かしながら、宇宙でも動くように設計思想を変えている。そう考えると、宇宙が少し身近になる感じがします。
森島 まさにそこです。しかも私たちは地上で数十万台規模のコンピュータを量産してきた経験があります。部品の履歴管理や品質管理、長期供給、リードタイムの見極めなど、量産には独特のノウハウが必要なんです。宇宙産業がこれから広がっていくとき、重要なのは「一品ものの高級品」だけではなく、「安価で、品質を保ちながら、継続供給できること」だと思っています。
五嶋 それは、宇宙の民主化という言葉にも通じますね。一部の大企業や国家機関だけが扱える技術ではなく、もっと多くのプレイヤーが使える基盤へと変えていく。その意味で、Space Cubicsのコンピュータは単なる製品ではなく、宇宙産業のインフラに近い存在だと感じます。
森島 宇宙でも、あらゆるものの中にコンピュータが入ります。衛星もそうですし、将来の月面設備も、建設機械も、ホテルも、すべてそうです。コンピュータが動かなければ、何も始まらない。だから、私たちはいちばん基礎となる部分をつくっているという意識があります。しかも、それが高すぎたら広がらない。必須であり、かつ広がる価格帯であること。それが重要です。

五嶋 宇宙ビジネスというと、どうしても派手な打ち上げや探査の話に目が向きがちです。でも実際には、その裏側で安定的に動くコンピュータのような土台がなければ、どんな夢も前に進まない。森島さんのお話を聞くと、Space Cubicsさんが取り組んでいるのは、まさに「宇宙の基礎をつくる」お仕事なのだとよく分かります。しかもそれを、民生技術の延長線上から切り拓こうとしている。その発想の柔らかさと実務性が、非常に印象的です。
五嶋 森島さんが宇宙の現場に入られてから、ここ十年弱で環境はかなり変わってきたと思います。いまの宇宙産業を、当事者としてどのように見ていらっしゃいますか。