地上から月面まであらゆるプラント設計・建設に携わってきた株式会社日揮グローバル。同社では、日本の月面進出において技術革新を進め、宇宙領域に特化したエンジニア「宇宙エンジニア™」たちが活躍中。SpaceStepでは、日本が宇宙領域において抱えている課題や挑戦を発信すべく、宇宙エンジニア™寄稿のもと連載をスタート。
第4回は、彼らの拠点である日揮グローバルのオフィスに着目。同社が描く未来像には、地上と月面を結ぶ「未来のエンジニアリング風景」がある。その実現を見据えた彼らの考えを教えていただいた。(リード=SpaceStep編集部、本文=日揮グローバル 宮下俊一さん)
今回の宇宙エンジニアは

日揮グローバル株式会社 Engineering DX推進室
宮下 俊一さん
1998年入社。サウジアラビア・オマーン・マレーシア・ベトナムなど多くの海外プロジェクトにてOil & GasプラントのEngineeringに従事。2018年よりIT Grand Plan2030策定・推進メンバー、2020年から月面プラント開発責任者を務め、2024年からEngineering DX推進室の室長。Engineering DXを実現した未来の姿として、Lunar Smart Community® (Lumarnity®)を提唱し、宇宙エンジニア™として開発管掌・プロジェクトディレクターを務める。
横浜市、みなとみらい。『地球の歩き方 横浜市』の表紙にも採用されており、皆様も横浜と言われると頭に浮かぶ風景ではないでしょうか。
象徴する建物である、大観覧車コスモクロック21とランドマークタワー。そして、その中心にそびえ立つビル「クイーンズタワー(A棟)」が、宇宙エンジニア™の本拠地、日揮グループ本社ビルです(図1)。
図1 横浜市役所に飾られたポスターと、同じ構図のみなとみらい。横浜市民に「横浜市を代表する風景」でアンケートをとった所、2,500件を超える回答の約70%がみなとみらいを投票したという
コスモクロック21は、1989年の横浜博覧会テーマから宇宙を意味する「コスモ (Cosmo) 」、時計を意味する「クロック (Clock) 」、21世紀を意味する「21」から命名されています。
宇宙が名前に入った横浜のシンボルの隣に、宇宙エンジニア™が結集していることに運命も感じています。ちなみに、コスモクロック21は直径100.0m、全高112.5m で、1992年までは直径・全長ともに世界最大だったそうです。私が1998年に入社した当時から現在でも条件付きですが、世界最大の“時計機能付き”大観覧車です。私も「技術力を活かして、世界を舞台に活躍したい」と考え当社へ就職したので、コスモクロック21を見るたびにその思いを新たにします。
(引用:よこはまコスモワールド公式)横浜の夜を彩るコスモクロック21
クイーンズタワーA棟は36階建てのオフィスで、その一角に宇宙エンジニア™のデスクがあります。窓のブラインドを上げると見えるコスモクロック21は大きな時計としても使っています。現在は少数精鋭のチームで、1島のデスクのみを使っており、 DXエンジニアの隣で仕事をしています。
なお、ペーパーレスが浸透して紙の本や資料は減っていますが、宇宙エンジニア™専用の本棚には技術関連の図書に加え、私が大人買いして寄贈した『宇宙兄弟』の全巻、宇宙関連イベントでもらった『宇宙なんちゃら こてつくん』のぬいぐるみが飾られています。
各フロアの端に配置された会議室はR会議室と呼ばれ、窓際にRの字を彷彿させるカーブのあるデザインです。R会議室からはコスモクロック21が正面に見え、エンジニア達が結集し、議論しながらエンジニアリング※を進めて行きます(図2)。
※エンジニアリング=多分野にわたる人の知恵を結集・結合し、一定の課題を達成する科学技術的な活動
図2 会議風景 2026年
日揮グローバルのエンジニアは、挑戦・創造・結集・完遂の4つのValue (価値観)を持って行動しており、宇宙とイノベーションはまさにそのValueが最大限に発揮されるテーマです。多種・多様なシステム・技術を統合するインテグレーション技術が重要であり、月面開発においても国際的なプレゼンスを発揮しています。
なお、会議風景の写真でも見られるような紙を使った会議は激減し、オンライン会議が増え、データを活用した改善 (デジタライゼーション)の成果も徐々に出ています。DXの片鱗は垣間見られ始めていますが、まだまだ完遂には至っていません。
日揮グループでは、そのDXに必要なIT活用の将来像と、その実現に向けたロードマップ「ITグランドプラン2030」(図3)を発表しています。これは、AI・IoTなどのデジタル技術を活用し、プラント設計をはじめとした技術の高度化と工期短縮、品質向上を図る長期IT戦略です。
図3 ITグランドプラン2030
5つのイノベーション(AI設計、デジタルツイン、3Dプリンタ・建設自動化、標準化・モジュール化、スマートコミュニティ)により、受注した案件の確実な遂行と遂行キャパシティの拡大の実現を目指しています。
このイノベーションの中でも異彩を放つスマートコミュニティの延長線上に、月面スマートコミュニティ「Lumarnity® (Lunar Smart Community®)」を位置付けて挑戦を進めています。(※詳細は第1回をご覧ください)
月面を見据える私たちも未来のエンジニアリング風景を考えています。
机上やPCの画面の図書を囲み議論する現状のエンジニアリングの姿から飛躍し、地上の複数拠点と月面を結んだ「超リモート環境」で、図書では対応しきれないリアルタイムのシミュレーションで即座に問題解決する姿です。
ITグランドプラン2030完遂から更に10年後、2040年以降のイノベーションによりアップグレードされ「宇宙の総合エンジニアリングとして活躍する姿」を図4に描きました。
このありたい姿からバックキャスティングし、現在必要な挑戦・創造・結集・完遂に日々取り組んでいます。
図4 2040年の会議風景
なお、未来のあるべき姿を表現することは、同じ方向性に向かってアクションするために重要です。一方、それは遠すぎても・近すぎても駄目。具体性もワクワク感も必要と、なかなかの難題です。参考までに、上記の画づくりにあたり議論した際の余談を以下に共有します。
●シンボル
大観覧車コスモクロック21を右上に登場させました。しかしながら、見えている角度が異なる...。花火大会の時にあるフロアのR会議室から撮った写真を題材にしたので、観覧車の上部のみが見えるので、シンボル感がなくなってしまいました。
●時間設定
ほぼ完成した時点で確認すると、夜中に働かされているようにも見えてしまいました(笑)。月なので夜のイメージは理解できますが、ブラック企業に間違われる可能性も鑑み、日中のイメージに変更できないかとコメントしました。
ほぼ完成の時期にちゃぶ台返しのコメントは取り込まれず、妥結点としては日が落ちるのが早い冬の12月17時の設定ということにして妥結しました。
●ホログラム
『スター・ウォーズ』の「助けて、オビワン...」のレイア姫のイメージを採用したいと依頼しましたが、イメージが伝わらない若手とのジェネレーションギャップがあり、驚きから始まりました(笑)。
完成後に某有名会社の研究者と話す機会があり、このイメージは技術的には難しいと聞いて驚きました。一応、フォグホログラムの技術があることを確認していましたが、フォグ(霧)は安定せず実用的ではないそうです。
現時点の最新技術では、透明の筒を回転させて投影する技術とのことでした。このイメージの目的は採用技術の信憑性ですが、研究者が熱く語る姿を見て遠すぎず・近すぎずのVision見える化の難しさを再確認しました。(第5回へつづく)