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2026.01.30

地元と宇宙産業をつなぐ取り組み~【現場ルポ】宇宙港と歩む 串本町の未来(第3回)

和歌山県串本町出身、現在大学2年生の清野健太郎さんによるコラムでは、地元に日本初の民間ロケット発射場「スペースポート紀伊」が誕生したことで、清野さんがどのように感じ、地元の学生たちにどのような影響を与えたのか教えて頂きます。第3回では、いよいよ地元と宇宙産業をつなぐ取り組みについてご紹介頂きます。
では、清野さん、よろしくお願いいたします。(リード文=SpaceStep編集部)

書き手 和歌山大学 観光学部
清野 健太郎さん

和歌山県串本町出身。星空がキレイな山・海・川に囲まれた自然の中で育つ。和歌山県立串本古座高校在学中には「缶サットプロジェクトチーム」を立ち上げ、ロケット初号機「カイロス」打ち上げ時には高校公式YouTubeで生配信し、注目を集めた。現在は和歌山大学 観光学部で学びながら、串本町の広報活動やツアーガイドなどを通じ、宇宙と観光の可能性を探究している。(写真提供=清野 健太郎さん)

皆さん、こんにちは、和歌山大学観光学部の清野健太郎です。

前回の記事では、観光の視点から「スペースポート紀伊」がもたらした賑わいについてお伝えしました。しかし、宇宙産業がこの地に真の意味で「根づく」ということは、単に観光客が増えたり、一時的にメディアで取り上げられたりすることだけを指すのではありません。

真に産業が根づく、ということは、その土地の「教育」に組み込まれ、そこに住む人々の「誇り」となり、次世代がその産業を「自分の未来」として描けるようになることだと考えています。今回は、観光や仕事といった枠組みを超え、串本というコミュニティの内部で起きている地殻変動についてお話ししようと思います。


嬉しいことに、最近は串本町へ宇宙・ロケット観光とセットで訪れて頂く人も増えています

本州で最も南に位置し、そして僕の大好きな母校でもある、和歌山県立串本古座高等学校。その屋上に、2025年のクリスマス、突如として直径3mのパラボラアンテナが設置されたのです。

このアンテナは、単なるシンボルやモニュメントではありません。和歌山県の企業である赤井製作所様が手がけた、実際に宇宙を周回する人工衛星からの電波を受信し、データを解析するための「生きた観測設備」です。県立高校の敷地内に、これほど本格的な宇宙通信の拠点が設置されるというのは、全国的に見ても極めて異例のことです。この設備があることで、生徒たちは教室にいながらにして、遥か上空を飛ぶ人工衛星と、つながることができるのです。

2024年度、串本古座高校には「宇宙探究コース」が新設されました。これまで「宇宙を学ぶ」ということは、地方に住む子供たちにとって、どこか遠い都会の大学や、選ばれた研究者だけがたどり着ける特別な場所での出来事でした。しかし今、ここ串本の子供たちにとって、宇宙は「通学路の先にある学び舎」で向き合う対象へと変わったのです。

放課後、パラボラアンテナがゆっくりと空を向き、目に見えない衛星を追う。その傍らを、部活動に励む生徒たちが走り抜けていく。この「日常の中に宇宙がある」という光景こそが、串本が歩み出した新しい一歩の重みを感じさせてくれます。

地元の教育関係者の方と話をすると、これまでにない熱気を感じます。そこには、長年地方自治体が抱えてきた「若者の流出」という課題に対する、一つの希望が見えました。

「以前は、高校生や中学生ですら、自分の夢を叶えるために町を離れていく例は少なく無かった。宇宙や科学に興味があっても、この町にはそれを受け止める場所がなかった。でも今は、『串本古座高校にしかない環境で学びたい』と、県外からも生徒が集まってくるんです」


突如設置された一つのパラボラアンテナが清野さんだけでなく、串本町にも大きな影響をもたらした

宇宙探究コースには、地元の子だけでなく、宇宙への情熱を抱いた生徒たちが全国から集まってきています。彼らが串本の海を眺め、串本の風を感じながら宇宙を学ぶ。それは、町にとって新しい血が巡るような出来事です。

串本古座高校は、全国から生徒を募集する「全国募集」という取り組みを実施しています。こうした新たな視点をもつ生徒の入学は、より高校の熱気を盛り立てるものでしょう。

また、地元の子供たちにとっても、選択肢が広がりました。宇宙に関連する仕事は、なにもロケットを作るエンジニアだけではありません。衛星データの活用方法を考える人、宇宙港の管理・運営を支える人、さらには宇宙港を訪れる人々をおもてなしする人。

宇宙という巨大な産業が入り口になることで、「自分はこの町で、何ができるだろうか」という問いが、子供たちにとってより具体的で、魅力的なものへと進化したのです。教育現場でのこの変化は、宇宙産業が「地域外資本の工場」ではなく、地域の「知的財産」として根を張り始めたことを意味していると感じています。

大学で観光を学んでいる僕にとって、産業が町に根づくということは、ただ新しい施設ができることだけではなく、そこに住む人たちの「心の持ちよう」が少しずつ変わっていくことではないか、と考えるようになりました。


今、母校のアンテナを見上げて育つ後輩たちにとっては、宇宙は「自分の町にある当たり前の景色」です。この「当たり前」の感覚こそが、何よりも大きな変化だと思うのです。


僕を含む地元の誰もが、慣れない宇宙の専門用語を一生懸命覚えたり、自分たちの生業にどう活かせるか試行錯誤したりしている姿を見るたびに、僕は胸が熱くなります。それは決して「偉大なプロジェクト」といった大層なものではなく、「自分の町がもっと面白くなればいいな、元気になってほしいな」という、とても身近で温かい、串本の人らしい純粋な想いから始まっている気がするからです。


特別な才能がある人だけでなく、高校生がアンテナを見上げ、大人がそれを応援し、皆が頭を突き合わせて知恵を絞る。そんな一人ひとりの小さな歩みが重なって、串本は「宇宙のまち」への道を一歩ずつ進んでいます。


本州最南端の空の下、串本古座高校のパラボラアンテナが追っているのは、人工衛星だけではないのかもしれません。僕には、この町で新しい夢を見つけようとしている後輩たちや、この町を支え続ける人たちの「明日への期待」そのもののようにも見えるのです。

(第4回に続く)