月面のプラント建設をはじめとしたプラント設計・建設に長年携わってきた日揮グローバル。日本の月面進出に関わる技術革新を進める宇宙領域に特化したエンジニア「宇宙エンジニア™」たち。
SpaceStepは日本が宇宙領域において抱えている課題や挑戦を学ぶべく、宇宙エンジニア™ご寄稿のもと連載をスタート。今回は、毎年秋に開催される世界最大の宇宙国際会議「IAC」に、日揮グローバルが2021年に初参加した際のレポートをお届け。なかなか見られない、現地の熱量を感じ取ってほしい。(リード=SpaceStep編集部、本文=日揮グローバル 宮下俊一さん)
今回の宇宙エンジニアは

日揮グローバル株式会社 Engineering DX推進室
宮下 俊一さん
1998年入社。サウジアラビア・オマーン・マレーシア・ベトナムなど多くの海外プロジェクトにてOil & GasプラントのEngineeringに従事。2018年よりIT Grand Plan2030策定・推進メンバー、2020年から月面プラント開発責任者を務め、2024年からEngineering DX推進室の室長。Engineering DXを実現した未来の姿として、Lunar Smart Community® (Lumarnity®)を提唱し、宇宙エンジニア™として開発管掌・プロジェクトディレクターを務める。
毎年秋に開催されるIAC (International Astronautical Congress)は、政府機関・宇宙機関、産業界、大学、宇宙関連団体等が参加する世界最大の宇宙業界の国際会議です。IAC2021は建国50周年にあたるUAEで開催され、アラブ諸国で初開催のIACでした。(開催期間:2021年10月25日-10月29日 開催場所:Dubai World Trade Center(UAE・ドバイ))
月面インフラ事業に向けて、日揮グローバルの宇宙エンジニア™が最初に参加した記念すべき国際宇宙会議です。国際宇宙会議参加の3大ミッションは下記の通り。
1.最新の国際宇宙動向の把握
2.月面開発の実情と当社が貢献できる領域の探索
3.UAE含むアラブ諸国の宇宙開発ニーズ調査
宇宙エンジニア™の参加報告書は35ページに及びますが、抜粋して公開可能な修正を加えました。普段はなかなか触れる機会のない国際宇宙会議の一端を垣間見る追体験を通じて、皆さまにも学び・希望・勇気が少しでも届くと幸いです。 IAC 2021 ハイライト動画
●オープニングセレモニー
数千人は入るであろうドバイのDubai World Trade Centerのメインホールでオープニングセレモニーが行われ、コロナ禍にあって立ち見がでるほどの盛況ぶりでした。真っ暗な会場に超巨大スクリーン(図1)が設置され、UAE国歌斉唱、オープニングスピーチ、昨年度の授賞式、UAE宇宙飛行士の紹介、演武と映像の融合ショーなど、ホスト国としてのUAEの振る舞いも堂々たるものでした。
図1 UAE宇宙飛行士の紹介。画像中央の人の大きさからスクリーンの大きさが分かると思います
●日本の存在感と宇宙投資状況
授賞式ではJAXAのはやぶさ2チームが「IAF World Space Award」を受賞され、津田 雄一PMがスピーチをされていました(図2)。また、各Technical Programでの発表でもJAXAや、Japanといった単語を耳にすることが多く、JAXAのはやぶさ2の説明時には人だかりができており、宇宙領域での日本の存在感を感じました。
図2 はやぶさ2 IAF World Space Award 受賞
ちなみに、各国政府による宇宙投資は、ここ数年5%ずつ増えており、2019年の宇宙投資のTop 5はアメリカが圧倒的で世界の71%を占め、追って中国13%、EU9%、日本3%、ロシア2%と発表されていました。また、衛星市場に目を向けるとこれまで指数関数的に衛星打ち上げ件数は増えており、2021年は前半の6カ月の打ち上げ件数が、すでに2020年の打ち上げ件数を超えているとのことでした。民間衛星市場の盛り上がりが、打上げ件数に顕著に表れていました。
●ispace
JAXAの隣に大きく出展していたのが、日本のスタートアップ企業のispaceでした。日本からCOOと広報の2名と、ルクセンブルグ支社から2名が対応されていました。ブースの中央にランダー(天体の表面に着陸し、静止することが出来る宇宙機)が展示してあり(図3)、2022年後半に打ち上げ予定だと説明されてました。
後述するUAEドバイ政府の宇宙機関MBRSC の月面ローバーもこのランダーに積載される予定で、H3ロケットに引き続き、日本xUAEでの宇宙への挑戦となります。ランダーの組み立てはドイツの施設で行っており、各種テストもドイツで行うそうです。ランダーに印字されるスポンサー枠はどうでしょうかと営業がありました。
また、今回のブース出展の手ごたえを聞いたところ、モックアップを見て説明を求めたり、記念写真を撮ったり、また学生と思われる方からのインターンシップの受け入れ可否について問い合わせがあるなど、反応は上々とのことでした。
図3 ispaceブース外観
● UAEの動向
UAE宇宙庁(図4)は2014年にアブダビに設立された省庁で、職員は50名程度とのことでした。UAEの首都であるアブダビと、世界の投資マネーを集めて一気に中東のビジネス拠点となったドバイで切磋琢磨されているようで、このUAE宇宙庁もドバイに設立されたMBRSC (Mohamed Bin Rashid Space Center)を意識したものと思われます。
図4 UAEブース外観 (展示場内唯一の2階建て)
月面探査ローバーのエンジニアリングモデルが展示されていました。この月面探査ローバーを月面まで運ぶのは日本の宇宙ベンチャーispace。同社が製作中のランダーで、展示の3日前にフランスの宇宙機関CNESでの振動試験を終え、戻ってきたばかりです。
なお、当初は振動試験はJAXAで行う予定でしたが、COVIDの隔離が長すぎて諦めたそうです。メカエンジニアに何が一番大変か聞いたところ「振動試験で出てきた問題を解決することだ」との回答でしたが、楽しそうに話しているのがとても印象的でした。
また、MBRSC Technical Tourがあり参加しました。このツアーは事前予約が必要で、出張前に予約を試みましたがすでに募集が終わっており、半ば諦めていました。ツアー当日にダメ元で聞いてみたところ、キャンセルが出れば参加可能ということでキャンセル待ちをしたところ、同じようにキャンセル待ちの人が多かったため、ツアーバッチを増やすという神対応で参加することができました(聞こえてきた話では募集開始から17分で予約が埋まったそうです)。
MBRSCオフィスはWTC会場(ドバイ市内)から車で30分くらいのところで、私にとって中東のプラント建設工事現場を思い出すような郊外にありました(図5)。 施設内には地上局、衛星監視用の建物と衛星や月面探査ローバーのロボットを組み立てる施設があり、施設内には欧米人が数人、UAE職員と親しげに話しながら出入りしていました。MBRSCオフィスは内部の感じから、MBRSC 設立の2004年に建てられたと思われます。一方でLABOの内部は比較的新しく、建ててから3年以内のように思われました。
図5 MBRSCオフィス外観
所感は1名分を採用し、直接想いが届くように原文で以下に示します。
”宇宙開発の盛り上がりを肌で感じた5日間でした。中東で初めてのIAC開催となったUAEですが、MBRSC (Mohamed Bin Rashid Space Center)が2004年に、UAE宇宙庁(UAE SPACE AGENCY)が2014年に設立され、2017年には100年後の火星移住計「Mars2117」が発表されるなど、国を挙げて宇宙事業に力を入れており、オープニングセレモニーや、展示ブースを見ても、UAEの宇宙開発への意気込みが伝わってきました。まだ若いエンジニアが多い印象ですが、彼らが経験を積み、10年後、20年後にUAEは宇宙大国になっていてもおかしくないと感じました。
IAC参加者は欧米人が圧倒的に多く、意外にも中国人はほとんど見かけませんでした。若い方や学生も多く、また女性も割合もざっと3割強くらいで、全体を通じで非常に明るく活気に満ちた国際会議でした。
IACは、展示ブースとTechnical Programに大別でき、Technical Program では約30のテーマ毎に部屋が分かれており、1人15分の持ち時間で、各種発表が同時並行で行われていました。どの発表も今後人類が月、火星へとその領域を広げていくことに対して非常に前向きで、プレゼン後のQ&Aも非常に活発に行われていました。
展示ブースでは、NASAやJAXA、前述したMBRSCやUAE宇宙庁など、各国政府関連機関が一等地にスペースを取り、幅を利かせてはいるものの、一方で衛星やそのデータ解析、地上局などを手掛けるスタートアップやベンチャー企業の出展数も多く、民間企業も続々と宇宙事業に参入していることが分かりました。特にスタートアップやベンチャーの方と話をすると、「来年2022年には施設が」とか「2~3年以内には事業化しないと」など非常に危機感を持っており、そのスピード感は見習うべきところがあると感じました。
総括として、宇宙事業の盛り上がりとUAEの勢いが相まって非常に活気ある会議だったと思います。今回の参加で概要は把握しましたので、来年パリで行われるIAC 2022では、月面プラントユニットとして何か展示や論文の提出も検討したいと思います。”
また、番外編ではありますが、日揮グローバルアブダビ事務所との遣り取り報告も、世界を舞台に活躍するエンジニアの象徴的な報告なので、以下にご紹介します。
”IACを終え、ホテルの下にある日本料理Wagamamaで晩御飯を食べていると、アブダビ事務所長から着信があり、「ドバイの日本居酒屋にいるので来ませんか?」とお誘いがありました。2つ返事で指定の居酒屋に向かうと、そこにはなんと日揮グローバル副社長や日揮グローバルが中東で遂行中の大型プラント建設プロジェクトのプロジェクトディレクター、プロジェクトマネージャーがおられました。
4人に囲まれる形で恐縮しながら、お酒をいただきました。お酒も進んできたところで、月面プラントの話になり、日本から持ってきたイメージ図(図6)をお見せしたところ、図を見るなり、
「Preliminary の文字はいらないだろ!」と、一喝されました。「2040年の将来像を言い切る気概が必要だ。要は自分事で語る事が重要で、ここがプラント、ここは私の家!と指差して言うくらいじゃないとだめだ!」と、ご指導頂きました。とは言え、終始和やかな雰囲気で、お酒も進み、楽しい一夜となりました。(つづく)
図6 Lumarnity®構想図Preliminary!?