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2025.12.12

月面開発の未来を知る~【連載】月へ挑む、宇宙エンジニアたち(第1回)

米国航空宇宙局(NASA)が主導する有人月面探査プログラム「アルテミス計画」をはじめ、人間は本格的に月面へ進出していくフェーズにある。長期間の月面探査において、物資は地球からの輸送ではなく、月の氷といった「現地資源」を利用する開発が進んでいる。そこで活躍しているのが、地上のプラント設計・建設に長年携わってきた日揮グローバルだ。

同社の中でも宇宙領域に特化したエンジニアたちは「宇宙エンジニアTM」と呼ばれ、月面居住区やプラントの建設、ロケット推進薬の制作など多岐にわたる研究と実践を重ねてきた。

一方で彼らは、現場に立ちながら、日本の宇宙領域における課題感や可能性を肌で感じている。その経験や考えを発信する場所として「SpaceStep」で連載をスタートすることに。宇宙エンジニアTMご寄稿のもと、その研究内容や国際会議でのレポートをお伝えいただく。

1回では、宇宙エンジニアTMの概略と、彼らが達成しようとしている月面プラントの取り組みについて触れていく。

今回の宇宙エンジニアは


日揮グローバル株式会社 
Engineering DX推進室
宮下 俊一さん

1998年入社。サウジアラビア・オマーン・マレーシア・ベトナムなど多くの海外プロジェクトにてOil & GasプラントのEngineeringに従事。2018年よりIT Grand Plan2030策定・推進メンバー、2020年から月面プラント開発責任者を務め、2024年からEngineering DX推進室の室長。Engineering DXを実現した未来の姿として、Lunar Smart Community® (Lumarnity®)を提唱し、宇宙エンジニアTMとして開発管掌・プロジェクトディレクターを務める。

「月で作る」地産地消の技術 

米国航空宇宙局(NASA:National Aeronautics and Space Administration)の有人月面探査プログラム「アルテミス計画」を契機に、宇宙開発は新たなフェーズに突入しています。

2020年代後半は2年に1回,2030年代は年に1回の有人月面探査が目標1)とされ、月面での長期滞在や経済活動の実現に向けた取り組みが始まっている中、人類が抱える最大の課題は、「地球からの補給依存」です。

地球から持ち込む物資に頼らずに現地資源を利用する技術開発が必要となっていて、この大きな課題は ISRU (In-Situ Resource Utilization)と定義され、従来の宇宙業界の技術領域だけでは解決が困難となっています。

この解決策の1つに、月面で水(氷)を含んだレゴリス(砂)から水を抽出・精製し、ロケット燃料や生命維持に利用するプロセスが存在します。これはまさしく地球上での「プラント」そのものです。

そこで、我々日揮グローバルでは、グループとして創業以来90余年に亘って携わってきたプラント設計・建設技術を活かす動きを進めています。

これまで砂漠やジャングル、極北、海上など様々な環境のもとで2万件以上ものプロジェクトを遂行し、過酷な環境下でもある月面にもその技術を活かします。

また、1980年代から2000年代初頭にかけて、宇宙ステーションを利用した微小重力環境利用サービスの提供、安全・品質保証分析などの宇宙関連ビジネスにも携わってきました。これらのエンジニアリング技術やプロジェクト遂行力などの知見や経験で、宇宙開発の課題解決に貢献できると考えています。

 エネルギー関連分野をはじめ、社会・産業インフラ分野に至る幅広い分野のプラント・施設の設計・建設に携わり、次は月面への開発を検討しています

地上のプラント技術を月面に。宇宙エンジニアたちの挑戦

日揮グループで海外のプラントEPC(設計・調達・建設)事業を担う日揮グローバルは、宇宙開発という新たなフロンティアに挑戦し、前述の課題を実践的に解決していくため、2018年から宇宙開発有志メンバー(図2)によって宇宙関連ビジネスへの参画検討を開始しました。

宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency: JAXA)と月の水資源を利用した月面推薬生成プラント構想の協議も開始し、2021年6月にJAXAと「月面推薬生成プラントの構想検討に係る連携協力協定」を締結し、約1年間をかけて技術要素、研究課題の洗い出しおよび研究開発計画の検討を実施しました。

 図2 宇宙開発有志メンバー

JAXAとの協議と並行し、2020年12月には「月面プラントユニット」を新設して、宇宙開発に本格参入しました。この参入は、2021年5月に発表した日揮グループの長期経営ビジョン「2040年ビジョン」とパーパス「Enhancing planetary health 」を道標とした、壮大な挑戦です。

 私たちは、この人類の宇宙領域における課題と変革(Space Transformation: SX)に挑戦するエンジニアを、「宇宙エンジニアTM」と呼んでいます。

この名称には、エンジニアをアップグレードし、私たちが単なる技術提供者ではなく、新たな価値の創造者となるという強い意志が込められています。

月面開発の拠点を作る「Lumarnity®」構想

月面活動に関して、幅広い産業を包括した検討が必要です。これらの中にはエンジニアリングが必要不可欠な分野も含まれており、すでに技術検討・試作試験は進行中。月面での実証も始まろうとしています。

SX(スペース・トランスフォーメーション、宇宙空間の活動における経済・社会の変革)に向けて着実に動き出しており、日揮グローバルはその中核は月面プラントであると位置づけ、プラントエンジニアリングの観点から月面アーキテクチャの3本柱を纏めました (図3) 。

図3 月面アーキテクチャ 3本柱

このアーキテクチャを具体的にイメージできるように、2050年以降の有人拠点の活動をサポートする複合インフラをLumarnity® (Lunar Smart Community®)と命名し、キービジュアルとして図4に表現しました。輸送手段の燃料や居住施設のエネルギーを供給する月面推薬生成プラントが中心設備となります。

居住施設には、制御室や寝室などの居住区に加えて植物工場が併設され、食料供給システムを始めとするその他の設備へと広がっていきます。これらの計画は月面の水資源の活用を前提としており、日本の宇宙資源法の成立により実現可能となった世界観です。

図4 Lumarnity®構想図

この世界観は巷に溢れるファンタジーでは無く、総合エンジニアリングの技術的構想です。また、宇宙エンジニアTMによるプロフェッショナルサービスとして、日揮グローバルは図5に示す有償案件に採択されています。特に月面推薬生成プラントのJAXA事業は、以下の通り3年目の継続案件であり、当初の検討から着実に進捗しています。2025年度には“概念検討”から“基本設計”へ移行し、実現に向けた解像度が一段とあがってきています。 

月面推薬生成プラントのJAXA事業一覧

2023年度「月面推薬生成プラント実現に向けたパイロットプラントの概念検討」   
2024年度「月面推薬生成プラント実現に向けた地上実証プラントの概念検討」  
2025年度「月面推薬生成プラントの実現に向けた地上実証プラントの基本設計、及び要素試作試験等」

2024年には日本の宇宙技術戦略が策定され、その改訂版4)が2025年に宇宙政策委員会で確定され、内閣府HPに掲載されています。99ページに及ぶ宇宙技術戦略の本文の中で、「月面」は139回も使われ、プラントに関する戦略技術が具体的に纏められています。

月面プラントに関する戦略技術一覧

●月面での推薬生成技術:水抽出、凝縮、精製、電気分解、液化、貯蔵技術
●水資源利用に係る構成要素:資源採取技術、推薬生成技術など
●プラントの開発・運用に必要なエネルギー技術
●月通信・測位技術
●月の地質調査・地盤解析技術
●無人建設技術、建設機械技術(掘削・整地・運搬)、建材製造技術

これらのシステムや技術を統合するインテグレーション技術の重要性も、「我が国には世界最大級のプラントエンジニアリング企業が存在し、大規模プラントシステムのインテグレーション技術に優位性を持つことから、この分野は、今後の月面開発において我が国が国際的なプレゼンスを発揮できる分野の一つである。」と強調されています。日揮グローバルをはじめとしたプラントエンジニアリング企業への期待は、まさに宇宙エンジニアTMの価値を発揮する分野です。

 図5 日揮グローバル実績マップ (有償案件)

次回以降の連載では、具体的な活動詳細・国際宇宙会議の参加報告・仕事の現場紹介・最先端のトレンド等、普段は触れる機会のない宇宙エンジニアTMの挑戦をお届けする予定ですので、ご期待ください。