1. SpaceStep TOP
  2. ビジネス活用を学ぶ
  3. 最後のフロンティア・アフリカ宇宙産業の現在地 【連載】世界基準で読む宇宙ビジネス

2026.05.14

最後のフロンティア・アフリカ宇宙産業の現在地 【連載】世界基準で読む宇宙ビジネス

SpaceStep読者の皆さま、こんにちは。株式会社2moonの伊巻和弥です。世界各国の宇宙産業の最前線を紐解き、日本企業がグローバル市場でいかに戦うべきかを探る本連載。第4回となる今回は、「最後のフロンティア」と呼ばれるアフリカの宇宙ビジネスに焦点を当てます。近年、アフリカでは大陸横断的な宇宙機関が本格稼働し、各国政府の投資や民間スタートアップの台頭が急速に進んでいます。本記事では、前半でアフリカ宇宙産業の全体像と各国の動向を整理し、後半では、アフリカ現地で実際にビジネスを展開している株式会社スペースシフトCBO(最高事業責任者)の多田玉青さんをゲストにお招きし、宇宙スタートアップの最前線からの視点を交え、日本企業の勝機を探っていきます。(解説=伊巻和弥/文=SpaceStep編集部)

株式会社2moon
伊巻 和弥 さん

新潟県上越市出身。宇宙業界で30年以上にわたり、有人宇宙飛行、人工衛星、および探査ミッションなど多彩なシステム設計・運用に従事。株式会社2moonを2023年に設立し、宇宙ビジネス参入支援、衛星打ち上げ支援、宇宙開発技術支援、地方創生・DX支援、企業コンサルティング、宇宙を活用したSTEM教育など幅広く展開。

これまで、米国の有人宇宙ミッションや国際宇宙ステーション(ISS)に関わるマニピュレータ開発・運用、月・火星探査プロジェクトの運用設計、そして衛星データを活用した地方自治体や産業向けの実証事業などを主導。深い技術知見と国際調整力、幅広いネットワークを背景に、40社以上のコンサルティング実績を持つ。

転換期を迎えるアフリカ~AfSAがもたらす宇宙産業の統合と進化

第4回となる今回は、世界の宇宙ビジネスの中でも、いま最もダイナミックな変化を見せている「アフリカ」に視点を移します。

現在、アフリカの宇宙開発は「援助の対象」から「共創の市場」へと、象徴的な転換期を迎えています。その大きなターニングポイントとなったのが、アフリカ連合(AU)の大陸機関で、2025年4月にエジプトのEgypt Space Cityで正式に稼働を開始した「アフリカ宇宙機関(AfSA: African Space Agency)」の存在です。

なぜ、このAfSAが必要だったのでしょうか。これまでもアフリカ各国にはそれぞれの宇宙計画が存在していましたが、政策、投資、人材、そしてインフラが国ごとに分散しており、大陸全体を横断して調整するガバナンス機構が存在しませんでした。そのため、多くの宇宙関連サービスや製品を欧州や中国など海外からの輸入に依存せざるを得ず、アフリカ発の産業基盤は脆弱なままでした。これまでの国別の「点」の取り組みを、アフリカ全体で統合された「面」の宇宙政策へと昇華させるために、各国を「つなぐ」正式な調整役としてAfSAが設立されたのです。

(資料提供=株式会社2moon)

AfSAの目的は明快です。それは、宇宙由来のデータやサービスへの最適なアクセスを確保し、重複投資や非効率を減らすこと。そして、持続可能で自律的な「アフリカ主導の宇宙市場」を育成することにあります。この理念を具現化するためのロードマップが「African Space Policy and Strategy」です。この戦略では、宇宙技術を農業、防災、気候変動対応、通信といったアフリカが直面する社会経済課題の解決に直結させることを最優先に掲げています。また、アフリカによるアフリカのための衛星コンステレーションの設計・製造を見据え、海外依存からの脱却と独自の産業基盤強化を目指している点が、これまでのアフリカの宇宙開発とは一線を画しています。

(資料提供=株式会社2moon)

こうした機関の設立と並行して、アフリカ各国の宇宙予算も急速に拡大しています。2018年には約2億8,000万ドルだったアフリカ全体の宇宙予算は、2025年には過去最高となる約6億2,600万ドルにまで到達しました。この成長を牽引しているのが、南アフリカとナイジェリアです。南アフリカは引き続き大陸最大の公的投資国として地球観測や宇宙科学を支え、ナイジェリアも次世代通信衛星の取得に向けた動きを本格化させています。

さらに、AfSAの中核を担うエジプトは、国産色の強い衛星の打ち上げを進め、衛星の組立・統合・試験能力を持つ拠点として衛星試験センター(AITC)が存在感を高めています。また、年次予算が比較的小さな国でも、個別の大型案件として衛星を調達する動きが目立ちます。例えばアンゴラは高解像度地球観測衛星「ANGEO-1」向けにフランスと巨額の契約を結び、ボツワナも初の自国衛星「BOTSAT-1」の打ち上げに成功しました。ケニアでは、地球観測データの共有フレームワークを打ち出し、データ活用の制度面を整えています。

つまり、現在のアフリカ各国の動向は、単に「衛星を持つか否か」という段階をすでに過ぎ、衛星、地上局、データガバナンス、そして人材育成をどのように組み合わせて自国の産業や社会インフラとして根付かせるかという、高度な競争段階へと突入しているのです。

(資料提供=株式会社2moon)

民間市場の実情と、日本がアフリカで戦うための「共創戦略」

国家主導の政策が整備される一方で、民間企業の実情はどのような状況にあるのでしょうか。Space in Africaのレポートによると、アフリカの商業宇宙企業(NewSpace企業)はすでに34カ国、300社以上に達し、2023年の売上高は3億900万ドルを超えています。この市場を強力に牽引しているのが、「地球観測」「衛星通信」「衛星部品製造」の3分野です。

これまでは政府や大学に大型案件の資金が流れ、スタートアップはそこから派生するダウンストリーム(データ活用など)領域で徐々にビジネスを構築していく構造でした。しかし、近年はStarlinkなどの普及によりITインフラが急速に浸透しており、今後、衛星データを活用したソリューション展開が加速し、スタートアップの売上が大きく伸びる可能性があります。アフリカの宇宙市場はすでに「将来性がある」という段階を終え、市場が形成され競争が始まっているのです。

(資料提供=株式会社2moon)

このアフリカ市場において、これまで主導権を握ってきたのが欧州と中国です。欧州は2006年頃から、地球観測インフラ「コペルニクス」などの無料・公開データの提供や、環境・災害モニタリングのための人材育成といった「制度支援・データ基盤の提供」に力を入れてきました。一方の中国は、2000年代半ばから潤沢な資金を背景に、通信衛星の開発や打ち上げ、エジプトでのAITCの建設、さらには中国版GPS「北斗(BeiDou)」のデータ提供など、具体的な「ハードウェアとインフラの技術供与」をパッケージ化して展開しています。

(資料提供=株式会社2moon)

このような強力なライバルがいる中で、日本はどのように戦うべきでしょうか。日本の勝ち筋は、欧州の巨大な制度支援や、中国のような国家主導のインフラ輸出と正面から張り合うことではありません。日本が強みを発揮すべきは、「現場の社会課題を解決するための実装力」です。具体的には、農業、防災、水資源管理、インフラ保守といった分野に、小型衛星群やAIによる衛星データ解析、SaaS、教育プログラムをセットにして提案するアプローチです。単に「技術やハードを売る」のではなく、現地の行政や企業と「使える仕組みを一緒に作る」ことが、日本企業にとってひとつの差別化要因となるでしょう。

(資料提供=株式会社2moon)

この方向性を明確に示したのが、2025年8月に横浜で開催された「第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)」です。「革新的な課題解決策の共創」を全体テーマに掲げたこの会議では、宇宙・衛星関連のセッションが複数開催され、衛星データをいかに農業や防災、持続可能な成長につなげるかが活発に議論されました。日本の宇宙スタートアップであるアクセルスペース、スペースシフト、アークエッジ・スペース、サグリなどが登壇し、小型衛星を用いた観測ネットワークやAIを活用した土壌マッピングなど、宇宙を「現場の課題を解決するツール」として社会実装する可能性を力強く提示しました。

(資料提供=株式会社2moon)

アフリカの宇宙市場に参入するためには、宇宙を上流のハードウェアとして捉えるだけでなく、下流の社会インフラとして活用する視点が不可欠です。

現場から見るアフリカ~衛星データとAIが切り拓く持続可能なビジネス

さて、ここからはアフリカで本格的に事業を展開している企業に焦点を移します。今回は特別ゲストとして、日本で3番目に古い歴史を持つ宇宙スタートアップであり、すでにアフリカでの事業を強力に推進している株式会社スペースシフトのCBO(最高事業責任者)である多田玉青さんをお招きしました。ここからは多田さんの視点から、ビジネスの現場で見えているアフリカのリアルについて解説していただきます。

SpaceStep読者の皆さま、はじめまして。株式会社スペースシフト CBO(最高事業責任者)の多田玉青です。ここからは私が、アフリカの宇宙ビジネスの最前線と、私たちが現地でどのような挑戦をしているかについてお話しします。

株式会社スペースシフト CBO(最高事業責任者)
多田 玉青 さん

東北大学理学部地球物理学科卒、東京大学大学院国際協力学専攻修了。大手建設コンサルタント会社で気候変動・再生可能エネルギー分野の国際協力に約6年間従事し、10カ国20都市以上で環境対策プロジェクトを経験。2021年よりスペースシフトに参画し、衛星データ解析技術を活用した事業開発・共創をリードする。

まず、私たちスペースシフトについて簡単にご紹介させてください。当社は2009年に設立された、日本で3番目に古い歴史を持つ宇宙スタートアップです。2021年の資金調達を経て現在は「第2創業期」として事業を拡大しており、約30名の正社員の多くがAIエンジニアやリモートセンシングの専門家で構成されています。私たちのミッションは、「衛星データとAIの最適な組み合わせにより『見える』世界を拡げ、地球上の見えなかった情報を可視化する」ことです。

私たちの技術的な強みは、衛星データの解析技術に特化している点にあります。近年、地球観測衛星の数は飛躍的に増加していますが、重要なのはデータが「ある」ことではなく、それを「価値ある情報に変換する」ことです。当社は、天候や昼夜を問わず地表を観測できるSAR(合成開口レーダー)衛星のAI解析技術を強みとしてきましたが、現在では光学衛星やハイパースペクトル衛星も含め、利用可能な衛星データを横断的に解析できるエコシステムを構築しています。

(資料提供=株式会社スペースシフト)

また、特定の産業に依存せず、都市開発、災害対応(浸水・土砂崩落の検知)、森林管理、農業、海洋安全保障など、幅広い分野に対応できる汎用性の高い解析技術(衛星データ解析ブランド「SateAIs ™(サテアイズ)」)を提供していることも大きな特徴です。さらに、近年では生成AIの大規模言語モデル(LLM)と連携し、専門知識がないユーザーでも対話形式で衛星データの解析から考察レポートまでを取得できるシステムの開発も進めています。

(資料提供=株式会社スペースシフト)

2026年4月末には、APIキー発行・解析実行・ジョブ管理・利用量可視化までをブラウザ上で完結できるセルフサーブ環境「SateAIs™ API」のβ版提供を開始しました。これにより、これまで数週間の契約調整と専門知識を要していた衛星データ解析は、ブラウザを開いて数分で動き出すAPIでの提供へと進化しています。今後もスペースシフトは、衛星データ活用のあり方を根本から変えていきたいと思います。

(資料提供=株式会社スペースシフト)

こうした技術を武器に、私たちはアフリカでの具体的な事業展開をスタートさせています。その大きなきっかけとなったのが、日本政府(経済産業省)の「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」を活用した、ナイジェリアでの農業実証事業です。アフリカでは農業が主要産業ですが、広大な農地の状況を現地で正確に把握することは極めて困難です。そこで私たちは、光学衛星とSAR衛星のデータを組み合わせ、水稲などの農作物の生育ステージや作付け・収穫のタイミングをAIで推定するアルゴリズムを開発・検証しました。

この技術により、過去数年間にわたる農地の収穫実績を分析し、今期の収穫量を予測することが可能になります。重要なのは、このデータが「小規模農家向けの与信管理(マイクロファイナンス)」に活用され得る点です。アフリカでは農家の信用情報が不足しているため、適切な融資を受けられない課題があります。例えば、衛星データによって「この農家は過去にしっかりと農作業を行い、安定して収穫を得ている」という客観的な実績(トラックレコード)を証明できれば、それが与信判断の補完情報となり、農機や肥料のための融資が受けやすくなります。つまり、衛星データが金融アクセスを生み出すインフラとして機能する可能性があるのです。

(資料提供=株式会社スペースシフト)

また、ザンビアにおけるJICA(国際協力機構)の水資源マスタープラン策定支援業務にも参画した実績があります。アフリカの多くの地域では、最新の国勢調査や統計データが不足しています。将来の水需要を予測するには正確な人口分布データが必要不可欠です。そこで私たちは、衛星データを用いて現地の「建物」をAIで検知し、建物の密度から人口密度を推定する実証を行いました。これにより、不足している地上データを空からの客観的なデータで補完することで、国家レベルのインフラ計画の立案に貢献できる可能性があるという示唆を得られました。

Sentinel-2衛星データを活用した建物検知アルゴリズムの解析事例

人口密度と建物密度の関係性(Ward単位)
(資料提供=株式会社スペースシフト)

データがもたらす透明性と、日本企業が挑むべきアフリカ市場の未来

アフリカにおけるビジネス、特に投資環境において、衛星データは極めて重要な役割を果たし始めています。過去2年間、アフリカ開発銀行が主催する「アフリカインベストメントフォーラム(AIF)」に登壇する機会をいただきました。そこで強く感じたのは、投資家たちが直面している「データ不足によるリスク」です。


(資料提供=株式会社スペースシフト)

会員登録されていない方は、下記よりご登録ください。
登録後、ログイン頂くとお読みいただけます。