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2026.04.10

ロケットを身近にする研究者が語る宇宙の未来【連載】宇宙ビジョンクリエイター 五嶋 耀祥(ひな)の『宇宙人』と話そう

皆さん、こんにちは。宇宙ビジョンクリエイターの五嶋 耀祥(ひな)です。宇宙ビジネスは、ロケットや探査だけの世界ではなく、私たちの暮らしや産業の未来に直結する可能性を秘めた領域です。本連載では、宇宙ビジネスに挑む多彩なゲスト=「宇宙人」をお招きし、対話を通じて宇宙の楽しさと可能性を一緒に探っていきます。第2回のゲストは、長年ハイブリッドロケットの研究開発に取り組み、北海道から多くの挑戦者を育ててきた北海道大学大学院工学研究院 機械・宇宙航空工学部門 教授の永田晴紀さんです。宇宙を特別なものから使えるものへと近づけてきた歩みをたどりながら、その面白さと可能性を紐解きます。(ナビゲーター=五嶋 耀祥/文=SpaceStepプロデューサー 長谷川浩和)

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今回のゲスト

北海道大学大学院工学研究院 機械・宇宙航空工学部門 教授
永田晴紀さん

航空宇宙工学、とくにハイブリッドロケット研究の第一人者。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻の博士課程を修了後、日産自動車の宇宙航空事業部で固体ロケットの研究開発に従事。1996年に北海道大学へ移り、助教授を経て2006年から教授を務める。無火薬式で推力向上と小型化を実現した「CAMUI型ハイブリッドロケット」の開発で知られ、宇宙技術をより身近にする研究を推進。2020年には卒業生らとLetara株式会社を設立し、CTOとして技術の事業化にも取り組む。現在は北海道大学 産学・地域協働推進機構の副機構長も務め、スタートアップ創出や産学連携にも力を注いでいる。

聞き手

ハッピー・ファム合同会社 代表/社会起業家・ITコンサルタント
五嶋 耀祥(ひな)さん

北海道苫小牧市出身。苫小牧工業高等専門学校で情報工学と電子生産システム工学を学び、卒業後はシステムエンジニアとしてビッグデータ解析や業務システムの構築に従事。その後、大学事務職や子育てを経て、2015年にNPO北海道ネウボラを設立し地域支援を開始。2019年にハッピー・ファム合同会社を設立し、DX推進・IT教育・宇宙産業支援・女性や親子支援など多分野で活動。2021年には一般社団法人ファミリー支援INV協会を創設し代表理事を務める。ITと福祉、教育を横断するソーシャルビジネスの担い手として注目される。

ワクワクする感性がロケット研究の原点になった

五嶋 永田先生、本日はよろしくお願いいたします。北海道の宇宙ビジネスに関わる中で、先生のお話を伺う機会は何度かありましたが、こうしてじっくり対話できるのを楽しみにしていました。まずは、北海道大学に来られてちょうど30年とのこと、本当におめでとうございます。

永田 ありがとうございます。1996年に北海道大学へ赴任して、来年度でちょうど丸30年になります。ちょうどその頃、大学院重点化という大きな組織改革があって、工学部の中に宇宙関係の目玉となる研究室をつくろうという話が出たんです。その流れの中で、外部から助教授を呼ぶことになり、私がその機会をいただきました。

五嶋 30年という節目ですが、先生は一貫してハイブリッドロケットの研究を続けてこられました。ずっと変わらず見据えてきたものは何だったのでしょうか。

永田 宇宙工学や宇宙科学の研究をするプレイヤーを増やしたい、ということですね。宇宙というと、どうしても大きな予算が必要で、限られた組織だけが取り組めるものと思われがちです。でも、それでは裾野は広がらない。限られた予算の中でも研究に参加できる人を増やすには、ロケットを使った研究そのものを小さくしていく必要がある。だから私は、宇宙推進の研究室として「ロケットをどこまで小規模化できるか」をずっと追いかけてきました。

五嶋 宇宙への入口を小さくすることで、挑戦者を増やしてきたわけですね。とても興味深い発想です。そもそも先生は、なぜ宇宙やロケットに惹かれたのですか。

永田 子どもの頃は体が弱くて、喘息がひどかったんです。小学校の頃はよく休んでいましたし、本を読んで過ごす時間が長かったですね。ロケットをやりたいと思ったきっかけは、たしか小学校3年生か4年生くらいだったと思います。当時、東京大学がロケットを打ち上げていて、その様子をテレビで見たんです。全国が注目していて、画面の中の人たちがものすごく楽しそうに見えた。私にはそれが、とても格好いい「仲間たち」に見えたんですね。「この人たちの中に入りたい」と思ったんです。

五嶋 「ロケットをやりたい」というより、「この人たちの仲間に入りたい」が動機だったんですね。

永田 そうなんです。母に「この人たちと一緒に働くにはどうしたらいいの」と聞いたら、「東大の先生たちだから、東大に行けばいいんじゃない」と言われて。それで「じゃあそうする」と。本当にそのまま突き進んでいきました。

五嶋 すごいですね。とてもまっすぐです。

永田 いま振り返ると、私は昔から、物事がだんだん大ごとになっていく話が好きだったんですよ。落語でも小説でも、最初は小さなことだったのに、どんどん広がって収拾がつかなくなっていくような展開が面白くて仕方なかった。普通はそうなると不安になるじゃないですか。でも私は逆で、むしろワクワクしてしまう。ロケットって、ある意味そういう世界なんです。扱うものは大きいし、難しいし、どんどん話が膨らんでいく。その感覚に惹かれたのだと思います。

五嶋 とても興味深いですね。私自身、情報工学を学んできましたが、宇宙の世界に触れるようになってからは、技術だけでなく、そうした「面白がれる力」も大事なのだと感じています。では、その先生が長年向き合ってこられたハイブリッドロケットとは、そもそもどういうものなのでしょうか。

永田 ロケットには大きく分けて、液体ロケットと固体ロケットがあります。燃料と酸化剤の両方が液体なら液体ロケット、両方が固体なら固体ロケットです。ハイブリッドロケットはその中間で、片方が液体、もう片方が固体。一般的には、固体の燃料と液体の酸化剤を使います。燃料にはプラスチックやゴム、パラフィンのようなものを使い、酸化剤には液体酸素や亜酸化窒素などを用います。

五嶋 「ハイブリッド」という言葉の意味が、よく分かりました。先生は、なぜこの方式に注目されたのですか。

永田 一番大きいのは、安全管理コストの問題です。ロケットの研究を小さくして安くしたいと思っても、実は小型化しても安くならない部分がある。それが安全対策なんです。ロケットを打ち上げるには、射場を使い、法律に沿って厳格な安全管理をしなければならない。そうすると、どれだけ小さなロケットでも、打ち上げのために数千万円単位の費用がかかることがある。大学の研究室でそれを続けるのは簡単ではありません。

五嶋 本体を小さくしても、周辺コストが下がらなければ、挑戦者は増えませんね。

永田 その通りです。だから私は、消防法や火薬類取締法にできるだけかからないロケットをつくれないかと考えました。大量の液体燃料を使わず、火薬も使わない。そうすると、安全管理コストを大きく下げられる可能性がある。ハイブリッドロケットは、そうした発想から非常に相性がよかったんです。安全性が高く、研究用途としても扱いやすい。宇宙への参入障壁を下げるには、理にかなった選択でした。


高尚さだけでは広がらない。小型化された宇宙が変える産業の地図

五嶋 先生が目指してきた「小型化された宇宙」は、いまどこまで来ているのでしょうか。

永田 まだ誰でも安くロケットを買える世界ではありません。ただ、大学の研究室や学生サークルが自分たちでロケットをつくり、打ち上げることは、いま全国で実際に行われています。昔から見れば、プレイヤーの数はかなり増えたと思います。少なくとも、宇宙工学が一部の巨大機関だけのものではなくなってきた。その意味では、目指してきた方向には確実に進んでいます。

五嶋 宇宙が遠い研究ではなく、手の届く挑戦になりつつあるのですね。

永田 そうですね。技術面でも、大学研究室が担うべきフェーズはかなり進みました。たとえばハイブリッドロケットの大出力化の研究などは、大学レベルでは一通りやり切った感があります。これからは実用化の段階で、企業やスタートアップが担っていく部分が大きいでしょう。

五嶋 そうした中で、日本の宇宙ビジネス全体をどう見ていらっしゃいますか。

永田 いま大きな課題の一つは、「宇宙をどう事業化するか」を本当に理解している人がまだ少ないことです。ロケットや衛星をつくる側は、どんなデータが取れるかは分かっている。でも、そのデータを農業や林業、漁業、物流、観光といった既存産業の中でどう使えばお金になるのかは分からない。一方で、既存産業の現場にいる人たちは、自分たちの課題に対して宇宙が何を提供できるかを知らない。両方を分かっている人が、まだ少ないんです。

五嶋 まさに「つなぐ人」が必要なのですね。私も宇宙関連の現場に関わる中で、宇宙の技術を分かりやすく届けるインターフェースが重要だと感じてきました。技術の価値そのものより、まず使える形で届けられるかどうかが大きいですよね。

永田 そうなんです。だから私は、これから必要なのは、ロケットや衛星をつくるディープテックのベンチャーばかりではないと思っています。もちろんそれも重要ですが、今後もっと増えてほしいのは、宇宙と既存産業の間をつなぎ、どうマネタイズするかを考える企業です。

五嶋 この視点は、多くのビジネスパーソンにとって大きなヒントになりそうです。

永田 もう一つ言うと、宇宙産業が本当に広がるためには、「高尚な用途」ばかりでは駄目なんですよ。私はよく「使い方をくだらなくする必要がある」と言っています。

五嶋 とても印象的な言葉です。

永田 昔のコンピュータもそうでした。社会的に立派で必要性の高い用途だけに使われていた間は、一部の人のものでしかなかった。インターネットも同じです。でも、誰もが日常で、少しくだらないことにも使うようになったから市場が広がった。宇宙もきっとそうで、「農作物の病気を早く見つける」「家畜の動きを管理する」といった用途はもちろん重要です。ただ、それだけでは広がり切らない。もっと身近で、遊び心があって、つい使いたくなるような用途が出てこないと、市場は大きくならないと思います。

五嶋 とても腑に落ちます。宇宙というと、どうしても社会課題解決のような大義から語られがちですが、それだけでは一般の人に届きにくい。もっと生活やエンタメの中に入っていくことが大事なのですね。

永田 たとえば「この一瞬だけ上空から見たい」とか、それくらいの発想でもいいと思うんです。ロケットは衛星を軌道投入するためだけのものではありません。上がって降りてくるだけの弾道飛行でもいい。その瞬間に何を見たいか、どんな体験をしたいか。そこに価値を見いだす人がいてもおかしくない。そういう「少しくだらない」使い方がもっと出てくると、宇宙はぐっと身近になります。

未知だから面白い。宇宙と既存産業をつなぐ人に期待する

五嶋 いま宇宙の外側にいる企業やビジネスパーソンに、どのような期待を持たれていますか。

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