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  3. 宇宙から漏水を検知。水道インフラの救世主

途上国において、地下に張り巡らされた水道管の老朽化や漏水は、貴重な水資源を失うだけでなく経済成長をも阻害する深刻な課題だ。しかし、広大なエリアから目視で漏水箇所を特定し、地面を掘り返して点検するには途方もないコストがかかる。この「見えないインフラの危機」に対し、はるか上空の宇宙から解決のメスを入れる画期的なアプローチがカンボジアで実を結んだ。

JAXA認定の宇宙ベンチャーである株式会社天地人が完了した実証実験は、人工衛星画像とAIを掛け合わせることで地下の漏水リスクを丸裸にする。宇宙技術が地上のライフラインを守る、インフラ管理の新たな幕開けだ。(文=SpaceStep編集部)

衛星データとAIが導き出す、100m四方の漏水リスク

2026年2月10日、天地人はカンボジア王国の首都プノンペンにおいて、人工衛星画像を活用した漏水リスク診断の実証実験を完了したと発表した。これは独立行政法人国際協力機構(JICA)の調査の一環として、株式会社北九州ウォーターサービスから委託を受け実施されたプロジェクトである。

(引用元:PR TIMES

本実証実験は2023年9月から12月末にかけて実施され、現地のプノンペン水道公社(PPWSA)が保有する漏水修繕データの活用可能性も同時に検証された。実証において北九州ウォーターサービスが現地データの提供を担い、天地人が収集データの整形と独自のAI解析を行うという明確な役割分担のもとで進行。結果として、PPWSAの過去の修繕履歴が漏水リスク評価に十分有用であることが明らかになっている。

この取り組みの核となるのは、天地人が独自に構築したAI解析システムだ。プノンペン都内の給水区域を対象に、人工衛星から取得した「地表面温度」などの環境データと、現地の水道事業者が保有する「管路の長さ」「布設年」「口径」、さらには「土地利用」や「人口密度」といったオープンデータを統合した。

AIがこれらの多角的な情報を解析し、約100m四方のメッシュ単位で漏水リスクを5段階に分類して診断。広大なエリアの中で「どこを点検すべきか」という優先順位が明確に可視化されたのだ。これにより、闇雲な現地調査や事後対応に頼ることなく、科学的根拠に基づいた効率的な水道管の更新や予防保全が可能となる。

途上国の課題を飛び越える。宇宙が導くリープフロッグ

今回の実証実験が示した最大の意義は、衛星データを活用した漏水リスク診断が、データインフラが完全に整備されていない開発途上国においても「十分に実施可能である」と証明されたことだ。

通常、インフラのデジタル化(DX)には、現地に多数のセンサーを取り付け、巨大な通信網を構築するといった莫大な初期投資が必要となる。しかし、地球全体を観測し続けている人工衛星のデータを利用すれば、地上での物理的な大工事をスキップして、いきなり高度なリスク管理体制を構築できる。これは、途上国が既存の発展段階を飛び越えて最新技術の恩恵を受ける「リープフロッグ現象」の典型的な成功例と言えるだろう。

JICAや開発コンサルティングなどのパートナー機関と連携し、現地の水道管路データへのアクセスとその量と質さえ確保できれば、ODA(政府開発援助)を含む他の開発途上国への横展開も十二分に可能だ。

この「宇宙から地下を診断する」というアプローチは、水道管に限らず、ガス管や道路などあらゆる老朽化インフラの管理に応用できるポテンシャルを秘めている。インフラの老朽化と深刻な人手不足に悩む日本国内の自治体にとっても、広範囲を一度にモニタリングできる衛星データは極めて強力な武器となるはずだ。

宇宙ビジネスは、もはやロケットの打ち上げや月面探査といった遠い世界の話ではない。地球上の課題を解決し、人々のライフラインを支える実用的なツールとして、私たちの足元で静かに機能し始めている。