SpaceStep創刊以来お届けしてきた現役大学2年生清野健太郎さんによる本コラムもついに最終回。先日、カイロス3号機の打ち上げで大いに話題になった串本町。現地での挑戦を見届けた清野さんに「宇宙港と歩む串本町の未来」を大いに語って頂きます。では、清野さん、よろしくお願いいたします。(リード文=SpaceStep編集部)
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書き手

和歌山大学 観光学部
清野 健太郎さん
和歌山県串本町出身。星空がキレイな山・海・川に囲まれた自然の中で育つ。和歌山県立串本古座高校在学中には「缶サットプロジェクトチーム」を立ち上げ、ロケット初号機「カイロス」打ち上げ時には高校公式YouTubeで生配信し、注目を集めた。現在は和歌山大学 観光学部で学びながら、串本町の広報活動やツアーガイドなどを通じ、宇宙と観光の可能性を探究している。(写真提供=清野 健太郎さん)
みなさん、こんにちは。和歌山大学観光学部の清野健太郎です。
全5回にわたってお届けしてきたこの連載も、今回が最終回となります。本州最南端に位置する、豊かな自然と優しい人々に囲まれた僕の故郷・串本町。ここにスペースポート紀伊という、宇宙へのゲートウェイができてから、町の景色は少しずつ塗り替えられてきました。

写真提供=清野健太郎
2026年3月5日。多くの人の期待を背負って打ち上げられたカイロス3号機は、僕たちの目の前で、宇宙開発の厳しさを教えてくれました。

打ち上げ前。串本町は緊張感に包まれた(写真提供=清野健太郎)
リフトオフ(発射)から約70秒後、何らかの異常が発生し、自律飛行安全システムが作動したそうです。成功という二文字を信じていた町の人々の表情、一瞬にして静まり返った空気。僕自身、観光学を学ぶ学生として以前に、この町に育った一人として、胸を締め付けられるような思いでした。

打ち上げ当日串本町の現地で撮影した一枚(写真提供=清野健太郎)

未来に向けた挑戦を仲間たちと見届けた(写真提供=清野健太郎)
けれど、あの日から数日が経ち、町を歩いていて気づいたことがあります。母校である串本古座高校や、高校近くのスーパーで交わされている会話は、決して絶望の言葉ではありませんでした。「次への楽しみができたなあ」「また応援したい、見にいく場所考えよう」。既に地元の人々は、前を向いていました。
失敗を経験したことで、宇宙は「どこか遠くのすごい出来事」から、僕たちが共に考え、応援し、共に乗り越えていく「自分たちの物語」になったのだと、僕は強く感じています。
今の串本町は、単にロケット発射場があるまちではありません。「観光」「教育」「産業」という三つの道が交差する、宇宙と地域の要素を併せ持ったまちです。
まず、僕が大学で学んでいる観光の視点。かつて串本町でおこなわれてきたどのようなイベントよりも、ロケットの打ち上げは全国から人を惹きつけています。しかし、ロケットが飛ぶ日だけ人が集まり、終われば静まり返るような、一過性のブームで終わらせてはいけないと、強く自分に言い聞かせています。
宇宙ふれあいホール「Sora-Miru」に立ち寄れば、かつての役場が宇宙への窓口に変わったことに深い感慨を覚えます。8Kの映像で打ち上げを体感し、どの世代にとってもわかりやすく興味深い展示を巡ることで、「宇宙と地球は繋がっているんだ」と実感する。そんな、科学と知識が溶け合うような体験を、僕たちの世代で日常にしていきたいのです。
次に、教育の視点です。僕の母校である串本古座高校に設置された、あの大きなパラボラアンテナ。2025年のクリスマス、屋上に現れたその姿は、高校生たちにとって身近にやってきた宇宙を象徴しています。宇宙探究コースには、地元の子だけでなく、全国から志を持った若者が集まってきています。かつての僕のように「宇宙なんて遠い場所の話だ」と諦めるのではなく、「中学校・高校の学びの先に宇宙がある」と信じられる彼らが、いつかこの町や世界を変えていくのではないでしょうか。そのチャレンジの一歩を支えることが、この町が選んだ未来なのだと思います。
そして産業の視点です。宇宙の仕事は、ロケットを造り、運用するエンジニアだけのものではありません。衛星のデータを利活用して、地域の方々が守ってきた漁場をより豊かにする人。串本町を訪れる世界中の人々を、串本らしい温かさでもてなす人。この町で、宇宙というキーワードをフックに新たなビジネスを始める若者。そうした一人ひとりの営みが積み重なって、初めて宇宙産業はこの町に根を張るのだと信じています。
連載の初回で、僕は宇宙を「手の届かない夢の象徴」だと表現しました。
しかし、今の僕にとっての宇宙は、もっと泥臭くて、温かくて、そして挑戦しがいのある「日常」そのものです。失敗しても立ち上がり、また前へと進み続ける、そんな姿勢こそが、宇宙開発の一番の魅力ではないでしょうか。
特別な才能がある人だけが未来を作るのではありません。井戸端会議でロケットを語る大人たちや、パラボラアンテナの下にある管制室で、パソコンの画面と睨めっこをする高校生、そしてこの町の変化を外から見つめる僕のような人々。そんな、一人ひとりの「もっとこのまちを面白くしたい」という想いが、串本を世界にたった一つの「宇宙のまち」に育てていくのだと思います。
本州最南端の空の下、宇宙のまちへと歩みを進める僕たちのカウントダウンは、これからも続いていきます。
全5回、約半年に渡り、お付き合いいただき本当にありがとうございました。僕もまた、一人の観光学部生として、そして愛する串本町を故郷にもつ1人として、この町の未来を皆さんと一緒に作っていきたいと思います。
ここまでの連載にあたり、お繋ぎいただいた皆様、そして株式会社クロスアーキテクツ長谷川様に、この場をお借りして感謝を申し上げます。ありがとうございました。