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2026.03.09

ISSより高く。超小型衛星放出の新時代

地球の上空約400km。国際宇宙ステーション(ISS)が周回するこの場所は、人類にとって最も身近な宇宙の拠点だ。しかし、ここから放出される超小型衛星には、過酷な運命が待ち受けている。大気の抵抗により、わずか数カ月から半年程度で燃え尽きてしまうのだ。「もっと長く、もっと高く飛びたい」。そんな研究者たちの願いを叶える新たな翼が、日本の技術によって宇宙へと羽ばたいた。

2025年10月、種子島から打ち上げられた新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」1号機。そこに搭載された日本大学の超小型衛星「てんこう2」は、ISS軌道を離れた後、さらに高い高度へと運ばれ宇宙空間へと放出される。これは、衛星の寿命を劇的に延ばし宇宙ビジネスの可能性を無限に広げる「新たなプラットフォーム」の幕開けだ。(文=SpaceStep編集部)

ISS軌道からさらに高くへ遷移し衛星寿命を延ばすHTV-Xの放出機構

2025年12月3日、「宇宙商社®」であるSpace BD株式会社は、日本大学が開発した超小型衛星「てんこう2」を搭載したHTV-X1号機の打ち上げ成功と、今後の放出計画について発表した。


(引用元:PR TIMES

今回のミッションの核心は、HTV-Xが持つ「自在な飛行能力」にある。従来の補給機「こうのとり」は、ISSに物資を届けた後、大気圏に再突入して燃え尽きるのが主な役割だった。しかし、新型機であるHTV-Xは違う。ISSから離脱した後も、自らのエンジンでさらに高度を上げ、約500kmの軌道へと遷移することができるのだ。この高度差100kmがもたらす意味は極めて大きい。大気抵抗が少ない高度500kmから放出されることで、超小型衛星の運用期間は大幅に延長される。これまでは数カ月で終わっていたミッションが年単位で継続可能になれば、長期的な観測データの取得や通信技術の実証実験など、これまで諦めていた多くのプロジェクトが実現可能になる。


(引用元:PR TIMES

その記念すべき初号機として選ばれたのが、日本大学の「てんこう2」だ。この衛星には、理工学部による高エネルギー粒子の観測機器だけでなく、芸術学部と連携した「宇宙×エンタメ」ミッションも搭載されている。世界中の人々とともに曲を作り、絵を描くアート活動「N.U Cosmic Campus」。科学の眼で宇宙の謎を解き明かすと同時に、芸術の力で世界と宇宙を繋ぐ。そんな野心的な試みが、日本の新しい宇宙インフラによって支えられている。

Space BDは、JAXAより受託した唯一の実施企業として、この放出機構「H-SSOD」の開発段階から参画してきた。衛星搭載ケースの仕様調整からユーザー利便性の向上まで、技術とビジネスの両面で「使いやすい宇宙」の構築に尽力している。

科学と芸術を融合させる、次世代の宇宙インフラ

今回の「てんこう2」放出ミッションは、単なる技術実証にとどまらない。HTV-Xという「運び屋」が登場したことで、宇宙利用の選択肢が劇的に広がったことを示している。これまで、超小型衛星の放出手段はISSからの放出か、大型ロケットへの相乗りが主流だった。しかし、ISSは軌道が固定されており、ロケット相乗りは主衛星の都合に左右される。対してHTV-Xは、高度やタイミングをある程度柔軟に調整できる「第三の選択肢」だ。

観測、通信、そして今回のようなエンターテインメントや教育。目的やミッションに応じて最適な軌道を選べるようになれば、宇宙はもはや一部の科学者だけのものではなく、アーティストや教育者、そして民間企業が自由にアイデアを形にできるフィールドへと変貌する。

日本大学教授の奥山 圭一 氏が語る「総合知による学びと創造」。そしてSpace BDが目指す「世界を代表する産業への発展」。産学官が連携し、それぞれの強みを活かして挑むこのプロジェクトは、日本の宇宙開発が新たなフェーズに入ったことを象徴している。

ISSよりも高く、長く。HTV-Xが切り拓く新たな航路は、私たちの想像力を乗せて、まだ見ぬ宇宙の景色を見せてくれるに違いない。日本のものづくりとサービス精神が融合した「宇宙インフラ」が、世界のニュースタンダードとなる日はそう遠くないはずだ。