「空が見えればどこでもネットに繋がる」といわれる衛星通信サービス「Starlink(スターリンク)」。なんとなく聞いたことはあるけれど、ちょっと難しそう...。そんな方々も多いと思います。
そこで、Starlinkのプロたちに、基礎から分かりやすく教えてもらう連載「はじめてのStarlink」をスタート!
第1回は、日本のインターネット業界をけん引してきた株式会社インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)の谷口 祟(たにぐち たかし)さん、そしてIIJのマスコット、バリーくんにお話を伺いました。
「ただの便利なWi-Fi」だと思っていたら大間違い。Starlinkの裏側には、イーロン・マスク氏による人類史上最大級!? の計画が隠されていました。(文=SpaceStep編集部)

株式会社インターネットイニシアティブ
マーケティング統括本部 マーケティング本部
谷口 祟 さん
Starlinkなど衛星インターネット関連の技術評価・サービス化を担うエンジニア。
ゲーム業界での出向経験も生かして、日々面白いことを考え中。
格闘ゲームの世界チャンピオンが従兄弟。
IIJ のアラート対応マスコット犬
バリーくん
インターネットの障害・トラブルを、首に付けたベルでお知らせ。
インターネットの安定を守るため、IIJのエンジニアと日々障害対応に取り組む。
ベルを持っているバリーくんはお仕事中で、オフになるとベルを外す。
――まずは、IIJという会社について教えてください。
谷口 崇 さん(以下、谷口) IIJは1992年に創業した会社で、今年で33年目を迎えます。日本のインターネットビジネスとしては「老舗」ですね。
バリーくん まだ会社でインターネットを使うことすら珍しい時代だったんだよね。
谷口 そうだね。そんな頃からネットを普及させてきました。今では格安SIMの「IIJmio(アイアイジェイミオ)」などで知ってくれている人も多いかもしれません。
――そんなインターネットの大ベテランであるIIJさんが、なぜ今、「宇宙」なんでしょうか?
谷口 僕自身が『ガンダム』や『宇宙戦艦ヤマト』世代で、元々宇宙が好きだったのもありますが(笑)。一番の理由は、2010年代に入って、アメリカのイーロン・マスク氏が率いる「SpaceX(スペースエックス)」という会社が、「火星への移住」を本気で目指し始めたことです。
彼らは「いつか地球に何かが起きて住めなくなるかもしれない」と考え、人類が生き残るためには、ほかの星にも住めるようにするべきだという信念を持っています。その本気で動いている姿を見て、「これは私たちもやるべきだ」と思ったのがきっかけですね。
株式会社インターネットイニシアティブ マーケティング統括本部マーケティング本部 谷口 祟 さんと、IIJ のアラート対応マスコット犬 バリーくん
――火星への移住...! そこで登場するのが「Starlink」なんですね。
谷口 名前が示すとおり「スター(星)のリンク(つながり)」、つまり宇宙をつなぐインターネットです。
火星に移住するためには、移動手段である「ロケット」の次に、「通信手段」が必要です。火星についても、地球と連絡が取れなかったら困りますよね。そのための宇宙インターネット網がStarlinkなんです。
(引用:IIJ公式リリース)Starlinkの外観。個人で買ってすぐ使えるものから、IIJのような販売代理店が設置する法人向けまでさまざま
実は、彼がやっている事業はすべて「火星に行くため」につながっています。
その中核にあるのが、巨大なロケットを開発し、人や物資を大量に火星へ運ぶための「SpaceX」です。火星に移住するには、まず自分たちの力でロケットを作り、飛ばせるようにならなければならない。
電気自動車の「テスラ」も、単なる車の会社ではありません。火星では最初に無人での探査や建設が必要になるため、高度なロボット技術や、自律的に動く制御技術、そして安定したエネルギー管理が欠かせない。テスラが進めるバッテリー技術や自動運転は、そうした“火星で自立して動くロボット”につながっているんです。
そしてStarlinkは、地球上のどこでも通信できるインフラを先に作り、将来の火星通信のテストを兼ねながら、今は地球の人たちに使ってもらうことで資金を生み出す仕組みです。
※SNSの「X(旧Twitter)」も、将来的には人と人をつなぐコミュニケーションの重要性という文脈で位置づけられますが、主役はあくまでロケットと通信インフラです。
――ええっ! テスラもロケットも、全部火星のためだったんですか。
谷口 そうなんです。火星に行くためには、自分たちでお金を稼いで、自分たちの力でロケットを飛ばさないといけない。そのために、地球上のどこにいてもつながる便利なサービス「Starlink」を作って、みんなに使ってもらおうとしているわけです。
――なるほど。でも、これまでも「衛星通信」ってありましたよね? Starlinkは今までの衛星と何が違うんでしょうか。
谷口 決定的に違うのは「地球からの距離」と「数」です。分かりやすく説明しますね。バリーくん、ちょっと失礼。
バリーくん え!?
谷口 バリーくんの頭を「地球」だとしましょう。

バリーくん なんでそうなる!?
谷口 地球の半径は約6,000kmです。これまでの通信衛星や気象衛星「ひまわり」などは、赤道の上空、約3万6,000kmという遥か彼方を飛んでいます。
――かなり遠いですね。
谷口 それに対してStarlinkは、高度550kmあたりを飛んでいます。バリーくんのサイズでいうと...だいたいこのくらいの位置です。
(バリーくんの頭皮スレスレに手をかざして)
谷口 もう、髪の毛を五分刈りにしたくらいの近さ。表面スレスレを「ビュンビュンビュン!」って飛んでいるイメージです。

――近い! 本当になめるように飛んでいるんですね。
谷口 そうなんです。今までの衛星は遠すぎて、電波が往復するのに時間がかかっていました。だから、通信しても「遅いな」と感じてしまう。
でもStarlinkはこれだけ地球に近いので、タイムラグ(遅延)がほとんどないんです。だから、地上の光回線と同じような感覚でサクサク使えるんですよ。
バリーくん くすぐった~い!
――そんなに近いなら、なんで今までやらなかったんでしょうか?
谷口 それは「数」の問題があったからです。
遠くにある衛星は、高い所から見下ろすので、1基だけで地球の3分の1くらいをカバーできます。でもStarlinkのように低い場所を飛んでいると、見える範囲がとても狭くなってしまいます。さっきのバリーくんの頭でいうと、ごく一部しか見えない。だから地球全体をカバーしようとすると、とてつもない数の衛星が必要になるんです。
(引用:IIJエンジニアリング) 宇宙にはStarlink専用の衛星がたくさん。複数の人工衛星を連携させる「衛星コンステレーション」というシステムで、互いにぶつからないように動いている
――たしかに、低空飛行だとたくさん必要になりそうです。
谷口 今、Starlinkの衛星は約1万基も飛んでいるといわれています。これを実現するために、SpaceXは週に3回くらいのペースでロケットを打ち上げているんです。
――週に3回!? 日本だと年に数回ですよね。
谷口 そうなんです。SpaceXはロケットを使い捨てにせず、再利用する技術を持っています。打ち上げたロケットが地上に戻ってきて、また整備してすぐに飛ばす。これを繰り返しているから、圧倒的なスピードで衛星を増やせるんです。
さらに、宇宙空間にある衛星同士がレーザーで通信する「メッシュネットワーク」という仕組みも作っています。
これは、単に地上にアンテナがない場所をカバーするというレベルではなく、たとえば日本列島から遠く離れた離島や、陸地から大きく離れた海上からの通信を、本土上空まで衛星から衛星へレーザーで中継して届けるための仕組みです。
沖縄周辺のように地理的に離れた場所からの通信も、宇宙空間を経由して日本上空まで運ぶことができる。これがStarlinkの大きな強みなんです。
――すごい技術力ですね...。でも、それだけたくさん衛星があると、古くなったものはどうなるんですか?
谷口 Starlinkの衛星は低い位置を飛んでいるので、役目を終えたり故障したりすると、SpaceXが軌道をコントロールしながら、計画的に高度を下げていきます。そして地球の重力と大気を利用して大気圏に再突入させ、地上に被害が出ないよう、燃え尽きる形で処分するよう設計されているんです。
だから常に新しい衛星を打ち上げて、新陳代謝(しんちんたいしゃ)を繰り返している。スマホを買い替えるみたいに、宇宙にある設備もどんどん最新のものに入れ替わっていくイメージですね。
――なるほど。常に最新の設備が空を飛んでいるわけですね。
谷口 そうです。これまでは、インターネットといえば基地局や光回線など、地上に張り巡らされた通信網を前提に成り立つものでした。でもこれからは、地上のネットワークに必ずしも依存せず、「宇宙(そら)を見上げれば、そこにつながる通信網がある」というのが当たり前になるかもしれません。
必要な人が、必要な場所で、空を飛んでいる衛星を使ってインターネットにつながる。そんな新しいインフラが、ものすごいスピードで整備されているのが「今」なんです。
――ありがとうございました。次回は、実際に私たちの生活でどう使えるのか、もっと身近な利用シーンについてお聞きします!(第2回へつづく)