
宇宙産業の拡大を下支えするのは、技術や人材だけではない。資金循環や政策提言を通じ、産業の「土台」を築く存在が欠かせない。最終回となる本稿では、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がグループ全体でどのようなビジョンを描き、どのように未来を支えようとしているのかを探る。(文=SpaceStep編集部)
教えてくれたのは

株式会社三菱UFJ銀行
サステナブルビジネス部 イノベーション室 室長
橋詰 卓実さん

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
コンサルティング事業本部 兼
イノベーション&インキュベーション部 副部長 プリンシパル
山本 雄一朗さん
株式会社三菱UFJ銀行 橋詰 卓実さんが率いる宇宙イノベーション室の役割は、ロケットや衛星を直接つくることではない。むしろ「周りの環境を整え、産業が健全に回るための血の巡りをつくること」だという。産業のどこに資金の滞りがあるかを見極め、そこに血液のように資金を流し込む。その視点でMUFGは、商業銀行として国内で初めて日本の小型ロケットによる商業打ち上げサービスを提供する宇宙関連スペースワンに投資し、人材を派遣してきた。背景には、国内に商業ロケットが存在せず、今後10年間で約6,200億円が海外に流出すると試算される現実がある。橋詰さんは「国内に産業循環を生み出すことが最重要課題だ」と語る。また、大分県では米シエラスペース社の往還機「ドリーム・チェイサー」との接続拠点化を支援し、「アジアの宇宙の新宿駅」とも言える経済圏の形成を目指している。

衛星データ分野でも、三菱電機や日本工営らと共創するジョイントベンチャーを通じ、省庁ごとに異なっていたデータ規格を統一化する取り組みを進めている。メタン排出の可視化や森林カーボンクレジットの整備、防災対応など、社会課題解決の基盤として衛星データを活用する流れを加速させる狙いだ。能登半島地震では、被災状況を素早く把握し、国や自治体に提供することで実際の政策判断を後押しした。橋詰さんは「産業が生まれる、活気ある現場に立ち会えること自体が金融機関の喜びであり、それを支援することが我々の存在意義だ」と語る。特に産業化フェーズにおいては大規模な資金投下が必要になる。その際、日本全体の間接金融640兆円という規模を宇宙産業に対して有効に、且つバンカビリティを高めて活用する「産官学金」連携の仕組みづくりが重要になる。「世界が進むチカラになる」というMUFGパーパスのもと、我が国の次世代産業の構築を支援していく。それが使命である。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 山本 雄一朗さんは、宇宙産業の戦略策定や実行支援を担う立場として、企業だけでなく自治体や官公庁と協働する機会が多い。注力している領域の一つが、観光と宇宙を掛け合わせた「観光×宇宙」という新たな成長モデルだ。山本さんは「地域の強みと宇宙を掛け合わせることが、真の地方創生につながる」と語る。
アプローチは大きく二つに分かれる。一つは、鹿児島県や和歌山県、北海道のようにすでに射場や研究機関など宇宙インフラを有する地域への支援だ。これらの地域では、国や大企業のプロジェクトに依存せず、いかに宇宙を地域産業化できるかが鍵となる。山本さんは「宇宙を地域の観光資源として再定義し、学びや人材交流の拠点として機能させ、新たな地域産業にすべきだ」と述べる。ロケット打ち上げイベントを観光と教育の軸に据え、地域に人を呼び込み、宇宙に触れる体験を提供することで、宇宙を「世界水準の学びのある観光」へと昇華させる。
