電力や信号を伝達するため、あらゆる電子機器に使われる「コネクタ」。身近な存在でありながら、その技術について知る場面は少ない。当連載では、コネクタの中でもバネ(コイルスプリング)を内蔵する「スプリングコネクタ」の技術にフォーカスを当て、XRやロボット、AI、そして宇宙分野といった各分野での活用法を学ぶ。寄稿いただくのはスプリングコネクタ大手の株式会社ヨコオ。
今回紹介するのは宇宙分野。無限のフロンティアで活躍するミクロな技術に注目いただきたい。(リード文・編集=JapanStep編集部、本文=株式会社ヨコオ)
※当記事は、JapanStepで連載している記事を転載したものとなります。
※スプリングコネクタの基礎知識は「社会を支える小さなチカラ~【連載】未来をつなぐ、スプリングコネクタ (第1回:基礎編)」を参照

株式会社ヨコオ
1922年創業・1951年設立の電子部品メーカー。主に車載用アンテナや半導体回路検査用コネクタ、医療用微細精密部品などを開発・製造し、業界をリードする技術力とグローバル生産体制を持つ。
かつて宇宙の領域は、国家プロジェクトとして限られた機関だけが関与していました。しかし近年、世界中の民間企業が新たなビジネスチャンスを求めて参入し、宇宙産業は急速に拡大しています。打ち上げコストの低下や技術革新によって、宇宙は「最後のフロンティア」から「現実の市場」へと変貌を遂げています。
その中で、小型衛星や宇宙ロボットとともに注目されているのが、宇宙での製造・組立・整備を担うISAM(In-Space Servicing, Assembly, and Manufacturing)と呼ばれる分野です。
従来の宇宙開発では、すべての機器や構造物を地上で完成させてから打ち上げていました。しかし、打ち上げにはサイズや重量の制約があり、大型構造物や複雑な機器を一度に運ぶことは困難です。そこで登場したISAMは、宇宙空間そのものを「作業場」にする発想です。
例えば、軌道上組立(Assembly)だと、国際宇宙ステーションの部品(モジュール)や大型宇宙望遠鏡などをロボットアームによって組み立てることが挙げられます。また宇宙空間製造(Manufacturing)では国際宇宙ステーション内で、 3D プリンタによる部品製造といった例があります。
(引用:GAO)
●ISAMの目的とメリット
・大型構造物の構築が可能
地上で完成させる必要がないため、打ち上げ時のサイズ制約を回避できます。例えば、巨大な通信アンテナや宇宙望遠鏡を宇宙で組み立てることが可能になります。
・メンテナンスや修理が可能
従来は故障した機器を交換できず、ミッション全体が終了することもありました。ISAMでは、宇宙空間で部品交換や修理ができるため、ミッション寿命を延ばせます。
宇宙関連機器は、地上とは異なる制約を抱えています。打ち上げ時の強い振動、限られたスペース、メンテナンスの難しさなど、設計段階から厳しい条件をクリアする必要があります。こうした環境で、電力や信号を安定して伝達するためには、コネクタの品質がミッションの成否を左右するといっても過言ではありません。ここで接触不良が起きれば、衛星全体の機能が停止するリスクがあります。
例えば、小型衛星。限られた内部スペースに多くの機能を詰め込む必要があります。通信機能、姿勢制御、電源管理など、複数のシステムが連携するため、基板間の接続は非常に重要です。
また、宇宙ロボットや探査機では、モジュール式の設計が求められます。現場での組み換えや拡張が容易であることは、長期ミッションや多目的利用において大きなメリットとなります。こうした要求に応えるためには、単なる「つなぐ部品」ではなく、信頼性と柔軟性を兼ね備えた「スプリングコネクタ」が必要なのです。
スプリングコネクタは、すでに複数の宇宙関連企業で採用されています。
ここでは代表的な事例を紹介します。
米国の宇宙ロボティクス企業 Motiv Space Systems, Inc.(以下、Motiv社)は、NASAと協力しながら宇宙空間で作業できる高性能ロボットアームの開発を進めています。同社は宇宙ミッション向けのハードウェアやソフトウェアを提供しており、通信、観測、製造など、多様な用途でロボットが活躍する未来を支える重要な企業のひとつです。
このMotiv社のロボットアームに、スプリングコネクタが採用されています。

Motiv社は、NASAの自律ロボティクスプロジェクト「CrossLink」などに参加し、宇宙空間で使用できる高精度ロボットアームの開発を進めています。
これらのロボットは、宇宙での整備作業、部品交換、組立作業、観測機器の展開など、多様なタスクを担うことが期待されており、そのためには高信頼性で安定した電力・信号伝達が不可欠です。
こうした高要求のプロジェクトにおいて、スプリングコネクタは、耐振動性、高信頼の接触構造、限られたスペースへの対応、ロボットが簡単に着脱できる構造が評価され、採用に至りました。下記の図は、Motiv社が開発している複数のロボットアームおよびロボットシステムを示したものです。

それぞれのロボットは異なる用途に特化しており、最終的には「CrossLink Robotic System」と呼ばれる、宇宙空間で“構造物に捕まりながら移動できるロボットシステム”として統合されます。
アーム先端は、把持装置(Grappling End Effector)や工具、作業モジュールを取り付けるためのインターフェースになっています。この部分を交換することで、多様な作業に対応できる設計です。
他社事例として、小型衛星の分野で世界的に有名な企業も、ヨコオの技術を採用しています。同社の衛星は、地球観測や通信など多様な用途に利用されており、限られたスペースで高信頼性を確保することが求められます。
スプリングコネクタは、基板間接続に使用され、微細で確実な接続を実現しました。これにより衛星の長期運用において安定した性能を維持することが可能になっています。
宇宙産業は、今や世界中の企業にとって新たな成長市場です。広大な宇宙で活躍する小さなコネクタは、目立たないながらも重要な役割を果たします。「小さな部品が、大きな挑戦を支える」――宇宙機器の部品にも、思いを馳せてみてください。(次回へつづく)
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※本記事の内容および画像は、Motiv Space Systems, Inc.の許可を得て掲載しています。https://motivss.com/
※SPRING CONNECTOR™は株式会社ヨコオの登録商標です。