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2026.02.24

米中覇権と台湾の台頭に見る宇宙ビジネスの現在地~【連載】世界基準で読む宇宙ビジネス

株式会社2moonの伊巻和弥です。本連載「世界基準で読む宇宙ビジネス」では、世界各国で進む宇宙産業の動向を、SpaceStep読者の皆さまが少しでも身近に感じ、実務の延長線で理解できるよう、背景や構造を整理してお伝えしています。

第2回のテーマは、中国と台湾です。米国と覇権を争う中国は、国家戦略として宇宙開発への投資を加速させています。一方で台湾は、半導体を軸とした産業基盤を背景に、国際連携を通じて独自の宇宙産業を育てつつあります。中国・台湾の動きは、日本が宇宙ビジネスにどう関わるべきかを考えるうえで、多くの示唆を与えてくれます。では、その実像を読み解いていきましょう。(解説=株式会社2moon 伊巻和弥/文=SpaceStep編集部)

株式会社2moon
伊巻 和弥さん

新潟県上越市出身。宇宙業界で30年以上にわたり、有人宇宙飛行、人工衛星、および探査ミッションなど多彩なシステム設計・運用に従事。株式会社2moonを2023年に設立し、宇宙ビジネス参入支援、衛星打ち上げ支援、宇宙開発技術支援、地方創生・DX支援、企業コンサルティング、宇宙を活用したSTEM教育など幅広く展開。

これまで、米国の有人宇宙ミッションや国際宇宙ステーション(ISS)に関わるマニピュレータ開発・運用、月・火星探査プロジェクトの運用設計、そして衛星データを活用した地方自治体や産業向けの実証事業などを主導。深い技術知見と国際調整力、幅広いネットワークを背景に、40社以上のコンサルティング実績を持つ。

米中二強が支配する世界の宇宙開発競争

世界の宇宙産業を俯瞰するうえで、最も直感的に理解しやすい指標の一つがロケットの打ち上げ数です。2025年時点で米国の打ち上げ数は年間約180回、中国は約93回と整理されています。数字のカウント方法には、資料によって差異があるものの、米中2カ国で世界全体の打ち上げ数の4分の3以上を占めているという構図自体は、複数の資料で共通しています。

(資料提供=株式会社2moon)

この数字が示しているのは、単なる「打ち上げ能力の差」ではありません。宇宙を国家インフラとしてどれだけ日常的に使いこなしているか、その運用密度の差でもあります。

少し時間をさかのぼると、2015年から2020年頃までは、中国の打ち上げ数が米国と同程度、あるいは上回る年もありました。しかし直近5年で、米国が明確にリードする形になっています。その最大の要因は、民間企業、とりわけSpaceXの存在です。

低軌道通信衛星コンステレーションの構築を背景に、米国では「商業目的の打ち上げ」が日常業務として回る状態が生まれました。再使用ロケットによるコスト低減と高頻度運用が可能になったことで、宇宙開発は研究開発フェーズから、完全に産業フェーズへと移行しています。

(資料提供=株式会社2moon)

一方、中国も決して手をこまねいているわけではありません。政府系の長征ロケットシリーズは高い成功率を維持しており、有人宇宙飛行や宇宙ステーション運用といった国家プロジェクトを安定的に支えています。そのうえで、2020年以降は民間ロケット企業が複数誕生し、独自ロケットの打ち上げ実証を繰り返しています。

中国の民間ロケットは成功率が約50%前後とされ、失敗も少なくありません。しかし、重要なのは「失敗を織り込んだ試行回数」が確保されている点です。実験と失敗を積み重ねながら技術成熟を図る環境が、国家全体として許容されていることは、中国宇宙産業の大きな特徴だと言えます。

宇宙系スタートアップの数についても触れておきましょう。中国では2025年時点で約60〜70社、台湾では約30社といわれています。ただし、これは「宇宙専業スタートアップ」のみを数えた場合であり、サプライチェーンの一部として宇宙産業に関与している企業まで含めると、実態はさらに広がります。

注目すべきは、中国では2020年と比べてスタートアップ数が約20%減少しているという点です。これは宇宙産業への関心が薄れたというよりも、近年続いているファンド調達が落ち込み、海外資金の撤退なども相まって、競争が激化するなかで淘汰や統合が進んでいる結果と捉えるのが自然でしょう。しかし、生存競争に残った巨大プレイヤー、従業員を数倍、1000人程度に増加させている企業もあります。米国でも同様に、数多くのスタートアップが生まれては消える過程を経て、現在の産業構造が形づくられてきました。

(資料提供=株式会社2moon)

では、なぜ中国はこれほどまでに宇宙開発を急ぐのでしょうか。背景にあるのは、米国との覇権争いです。低軌道通信インフラ、衛星測位、さらには月面開発。とりわけ月面に存在するとされる競争は水資源だけではなく、月面活動のルール作りや月-地球圏(シスルナ)全体の状況監視や自由なアクセスにも及びます。将来の宇宙活動の持続性だけでなく安全保障をも左右する重要テーマです。宇宙開発はもはや科学技術の象徴ではなく、経済・安全保障・産業政策が重なり合う戦略領域へと変貌しています。打ち上げ数の増加は、その最前線で起きている変化を最も端的に映し出していると言えるでしょう。

(資料提供=株式会社2moon)

国家戦略として進む中国宇宙産業の構造

続いて、中国の宇宙開発動向をもう少し具体的に見ていきます。2025年前後の国家プロジェクトとしては、小惑星サンプルリターン計画、有人宇宙船「神舟」の継続的な打ち上げ、中国独自の宇宙ステーション「天宮」の運用が挙げられます。

天宮では、国際宇宙ステーションと同様に、数か月単位で宇宙飛行士が滞在し、各種科学実験が行われています。神舟20号のデブリ衝突が疑われる事象が報告された際には、予備機の神舟22号を前倒しで打ち上げるなど、リスク対応の実行力も示されました。

測位分野では、中国版GPSである「北斗」衛星測位システムのアップグレードが進められています。測位精度やサービスの強化は、民生利用だけでなく、物流、インフラ管理、防災、そして安全保障にも直結します。ここで重要なのは、これらがすべて「国家インフラ」として一体的に設計・運用されている点です。

(資料提供=株式会社2moon)

民間プロジェクトに目を向けると、再使用ロケットの開発など、米国を強く意識した取り組みが進んでいます。初回打ち上げで軌道投入には成功したものの、着陸に失敗した事例なども報告されていますが、試験と改善を前提とした開発サイクルが回っていること自体が、中国市場の特徴だと感じます。

(資料提供=株式会社2moon)

ここで日本企業が最も注意すべきなのが、「国家航天局 推進商業航天高品質安全発展行動計画」です。この政策文書では、商業宇宙を国家宇宙戦略の中に正式に組み込み、国と民間がリソースを共有する方針が明確に示されています。

つまり、中国における「商業宇宙」は、欧米で想定される独立した民間市場とは異なり、国家プロジェクトの延長線上に位置付けられています。民間企業であっても、その技術や成果が最終的に国家や軍事用途に組み込まれる可能性を前提に考える必要があります。

(資料提供=株式会社2moon)

この構造は、日本企業にとって複数のリスクを伴います。外為法や米国の再輸出規制への対応、技術流出リスク、そして中国側の国産化政策による「スイッチオフリスク」です。一時的に大きな受注が得られたとしても、将来的に取引が突然停止される可能性を否定できません。

したがって、中国市場への関与は、単独での直接取引よりも、中国との協力関係の強い欧州の企業などを交えた多国間スキームでリスクを分散し、宇宙科学や地球観測などの宇宙の平和利用に特化する形が現実的だと考えられます。中国市場は「大きな可能性」と同時に「構造的な制約」を併せ持つ市場であることを、冷静に理解する必要があります。

台湾宇宙産業の現在地と日本の勝機

さて、ここからは台湾の宇宙産業に視点を移します。台湾については、当社で最高技術責任者を務める原田悟志が詳しいため、今回はここから原田に解説のバトンを渡したいと思います。

SpaceStep読者の皆さま、はじめまして。株式会社2moon最高技術責任者の原田悟志です。ここからは私が、台湾宇宙産業の現状と可能性についてお話しします。

株式会社2moon
最高技術責任者

原田 悟志さん

2005年、日系航空会社入社。整備管理業務部門にて主に航空機のライン整備や重整備、機体返却整備の調達業務に6年従事。その後米国大学にて航空宇宙工学を学び2013年より宇宙業界へ。国際宇宙ステーションの運用管制官(熱環境制御系リード)を経て2018年にJAXAフライトディレクタに指名され、多数の有人宇宙ミッションを統括。現在はグローバル総合コンサルティングファームにて、宇宙やテクノロジー領域のコンサルティング業務に従事。新たな宇宙エコシステムにおいて、社会への持続可能な価値創造を生み出すという想いの下、2moonへの参画を決意。

台湾は半導体や電子機器産業で世界的に知られていますが、その技術基盤が宇宙分野にも広がっています。台湾国家宇宙センター(TASA)が示す産業マップには222社の関連企業が掲載されており、光学、通信、精密加工といった分野で宇宙産業との親和性が高いことが分かります。

台湾宇宙産業の構造(引用:TASA産業地図)

一方で、台湾には大きな制約もあります。地理的・政治的要因から、自国内でのロケット打ち上げが容易ではありません。そのため、台湾の宇宙スタートアップは、日本の北海道スペースポート(HOSPO)を活用するなど、国外での打ち上げを前提に事業を組み立てています。この点は、日本にとって大きなチャンスでもあります。打ち上げ拠点、地上設備、運用ノウハウといった分野で、日本はすでに連携の実績を持っています。

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