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2026.02.16

月面開発における「コンテナ革命」。ダイモンがJAXAと挑む、月への荷造りの標準化

かつて世界の物流を一変させたのは、蒸気機関でもコンピュータでもない。鉄でできた、ただの「箱」――サイズが統一されたコンテナだった。荷役の手間を劇的に削減し、モノの流れを加速させたこの発明は、グローバル経済の基盤を形づくった。今、同じ構図の変革が、地球から約38万キロ離れた月面への輸送で起ころうとしている。2026年1月21日、月面探査車「YAOKI」を手掛ける株式会社ダイモンは、JAXAの公募に対する提案が採択内定されたと発表した。テーマは、新型ロケットでも探査ロボットでもない。「月へ荷物を運ぶための箱」――汎用型ペイロード輸送ボックスの開発だ。一見地味に見えるこのピースが埋まることで、月面開発は「冒険」から「物流」へとフェーズを変えることになる。(文=SpaceStep編集部)

オーダーメイドから規格品へ。月面輸送のボトルネックを解消

今回、JAXA宇宙探査イノベーションハブの第13回研究提案募集(RFP13)に採択されたダイモンの研究テーマは、「月面ペイロード放出成功率を向上させる『汎用型ペイロード輸送ボックス』の開発」である。

(引用元:PR TIMES

月面開発が加速する一方で、現場には長らく解消されていない「ボトルネック」があった。それが、荷物(ペイロード)を月着陸船に搭載するための「荷造り」の難しさである。従来の月面輸送では、着陸船の形状や仕様がミッションごとに異なる。そのため、搭載する観測機器や探査車も、その都度、接続部分を一品モノで設計し直さなければならなかった。例えるなら、毎回オーダーメイドの特注ケースを作っているようなものだ。この非効率さが、開発期間の長期化やコスト増大、さらには試験負担の重さへと直結していた。

さらに深刻なのが、月面到着後の「放出(デプロイ)」に伴うリスクである。過酷な振動に耐えて月まで運べたとしても、着陸後に蓋が開かない、あるいは放出機構が作動しないといったトラブルが起きれば、ミッションはそこで失敗に終わる。ダイモンはこの課題に対し、2025年に実施した自社の月面ミッション「Project YAOKI 1 (PY1)」で運用したペイロードボックスの運用知見を基盤に、より多様な荷物に対応できる「汎用的な箱」の開発に踏み出した。

目指すのは、インターフェースの共通化だ。どんな荷物であっても、この「箱」に入れてしまえば、着陸船への搭載から月面での保護、そして放出までが確実に行えるようになる。これにより、参入企業や研究機関は、煩雑な輸送メカニズムの設計から解放され、中身(観測機器や実験装置)の開発だけに集中できるようになる。

月が「特別な場所」でなくなる日

輸送ボックスの標準化がもたらすインパクトは、単なるコスト削減にとどまらない。不確実性の高い月面へのアクセスを、「一か八かの特別なミッション」から、高い再現性を備えた「通常の物流」へと転換させる点にこそ、本質的な意味がある。

海運におけるコンテナが果たした役割が、その好例だ。輸送の器(うつわ)が規格化されることで、中に入るモノの多様性は一気に広がった。これまで月面輸送では、着陸船ごとに異なる複雑な仕様に合わせた高度なインテグレーション技術が求められ、そのハードルの高さから、参入できるのは国家プロジェクトや一部の大企業に限られていた。しかし、「この箱に収まるサイズであれば送れる」という共通規格が確立されれば、煩雑な接続設計は不要となる。大学の研究室や地方の部品メーカー、さらにはバイオベンチャーといった新たなプレイヤーも、月面実証への扉を開きやすくなる。

ダイモンが目指しているのは、自社の探査車を運ぶための仕組みにとどまらない。自らが月面探査で直面した「輸送の苦労」を、誰もが使える共通のソリューションへと昇華させ、月面輸送の「インフラ」を築くことだ。観測、資源探査、建設、エネルギー開発──今後立ち上がるであろう月面産業にとって、最初にして最大の障壁となる「輸送」を、信頼性の高い規格品で解決する。

月へ荷物を送る。その行為が、「最先端の科学技術」から、送り状を貼って箱に詰めるだけの「手続き」へと変わったとき、人類の経済圏は、真の意味で地球の外側へと広がり始めるだろう。ダイモンの小さな箱は、その巨大な扉を開く鍵となるかもしれない。