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2026.02.13

暮らしと文化に及ぶ宇宙港の影響~【現場ルポ】宇宙港と歩む 串本町の未来(第4回)

日本初の民間ロケット発射場がある和歌山県串本町。その場所で生まれ育った現在大学2年生の清野健太郎さんによるコラムもいよいよ第4回目です。今回は、宇宙港が地元の暮らしや文化に及ぼした影響について教えて頂きます。

では、清野さん、よろしくお願いいたします。(リード文=SpaceStep編集部)

書き手 

和歌山大学 観光学部
清野 健太郎さん

和歌山県串本町出身。星空がキレイな山・海・川に囲まれた自然の中で育つ。和歌山県立串本古座高校在学中には「缶サットプロジェクトチーム」を立ち上げ、ロケット初号機「カイロス」打ち上げ時には高校公式YouTubeで生配信し、注目を集めた。現在は和歌山大学 観光学部で学びながら、串本町の広報活動やツアーガイドなどを通じ、宇宙と観光の可能性を探究している。(写真提供=清野 健太郎さん)

みなさん、こんにちは。和歌山大学観光学部の清野健太郎です。前回の記事では、観光の視点から「現在の串本町がいかに宇宙と関わっているのか」をご紹介しました。

今回は一歩踏み込んで、観光や仕事といった特別な枠組みだけでなく、日常生活にまで浸透し始めた宇宙の姿についてお話しします。あわせて、串本に新たに誕生した、宇宙をより身近に感じさせてくれる注目の施設もご紹介します。

第3回まで読んでくださった方なら、串本町がどのようなまちなのか、なんとなくイメージが湧いているのではないでしょうか(そうであってほしいという、僕の希望的観測も含めて!)。

本州最南端に位置する和歌山県串本町は、年間を通じて非常に温暖な地域です。緯度で言えば東京都の八丈島とほぼ同じ。南国を思わせる気候と、そこに暮らす人々の温かさが、まち全体に柔らかな空気を作り出しています。

自然豊かな串本町。是非現地でその魅力を見つけてほしいです

そんな穏やかなまちが今、先端技術の最前線に立っています。民間初のロケット発射場「スペースポート紀伊」が建設され、すでに2号機の打ち上げまで実施されました。そして今年2月、スペースワン社が矜持を懸けて挑む「3号機」の打ち上げが目前に迫っています。

まちが少しずつ心地よい緊張感に包まれ始める中、私たちの暮らしの中に「宇宙を感じる場所」はどれほど増えたのでしょうか。僕がこの年末年始、帰省した際に見えてきた「串本の宇宙」の今をお伝えします。

この年末年始、僕は串本町内のある観光施設で働かせていただいていました。1日あたり1,000人近いお客様が訪れる場所で、その目的は実に様々です。しかし、接客の中で「ロケットの打ち上げって、次はいつでしたっけ?」と声をかけてくださる方が、以前より明らかに増えているのを肌で感じました。

「今回は2月25日の午前11時からの予定ですよ」とお伝えすると、皆さんパッと表情を明るくして「じゃあ、またその頃に来ますね」とニコニコしながら返してくださる。そのやり取りが、何とも温かく印象的でした。さらに驚いたのは、こうした会話が僕のような若者世代だけでなく、地元のおじいさんやおばあさんの間でもごく自然に交わされていることです。

「ロケット」「カイロス」「スペースポート」。

かつては聞き馴染みのなかった、少し尖った響きの外来語たちが、今やこのまちでは天気の話をするのと同じくらい、ごく当たり前の日常会話として溶け込んでいるのです。この連載の初回で、僕は「宇宙という言葉は、かつて僕にとって“手の届かない夢”の象徴だった」と書きました。どこか遠い国の、賢い研究者たちだけが扱う難しい世界。そんなイメージを抱いていたからです。

それが今、南国の風が吹くこの穏やかなまちで、井戸端会議のテーマになるほどフランクな存在へと姿を変えている。この劇的な変化には、地元出身の僕自身、いい意味での戸惑いと、それ以上の喜びを隠せませんでした。


橋杭岩から見た打ち上げイメージ。スペースポート紀伊では、スペースワン株式会社運用のもと、
2020年代に年間20機の打ち上げが計画されている(写真=PRTIMES 串本町リリース)

そんな「言葉」として広がり始めた宇宙の熱量を、形にしたような場所が新たに誕生しました。それが、宇宙ふれあいホール「Sora-Miru(ソラミル)」です。

JR古座駅から歩いてすぐ、かつての古座分庁舎をリノベーションして生まれたこの施設は、まさにまちの人々と宇宙を繋ぐ窓口のような存在です。一歩足を踏み入れると、そこには最新技術とまちの温もりが同居する、不思議な空間が広がっています。

特に目を引くのが、3階にある「スペースシアター」です。ここでは8Kという圧倒的な高精細映像と臨場感あふれるサウンドで、ロケット打ち上げの瞬間を体感できます。実際の打ち上げを見守るような緊張感と、宇宙へ突き抜けるような高揚感。それを、かつて役場だったこの場所で体験できるということに、僕は深い感慨を覚えました。

また、館内には「宇宙をもっと身近に」というコンセプトを体現する仕掛けがたくさんあります。1階の「ロケットミュージアム」ではカイロスロケットの内部構造がわかる模型や、宇宙開発の歴史を学べるパネルがあり、「星空ライブラリー」では宇宙に関する様々な本が揃っています。さらに、人気漫画『宇宙兄弟』とのコラボレーションパネルもあり、串本のランドマークである橋杭岩を背景にキャラクターと記念写真が撮れるなど、ファンにも嬉しいスポットとなっています。


こちらは串本町の地元の製菓店「儀平」の「そらのかけはし」。
串本と「宇宙」や「空」のイメージを重ねたネーミングとされ、観光客向け土産としても人気があります

僕が訪れた際、特に印象的だったのは、2階にサテライトオフィス(ワークスペース)が併設されていることでした。観光客が宇宙を学び、地元の人が日常の仕事をし、そのすぐそばで子供たちがロケットの模型に目を輝かせている。

かつての僕にとって、宇宙は教科書の中の遠い世界でした。しかし、このSora-Miruで、宇宙兄弟のパネル越しに古座川を眺め、最新の8K映像でロケットの轟音を体感していると、「このまちの空の先は、本当に宇宙に繋がっているんだ」という実感が、静かに、でも確かに湧いてくるのです。

井戸端会議でロケットが語られ、かつての役場分庁舎が宇宙の玄関口へと姿を変える。3号機の打ち上げを2月に控え、串本町は今、単なる「ロケットが見えるまち」から、宇宙と共に生き、宇宙を日常の景色として楽しむ「宇宙のまち」へと、着実に歩みを進めているのです。

(第5回に続く)