
宇宙ビジネスの拡大を地域経済の視点から見ると、特に「スペースポート(宇宙港)」の役割は大きい。単なるロケット打ち上げ拠点ではなく、産業バリューチェーンを国内に循環させ、観光や教育を含む幅広い経済効果をもたらす装置となり得る。本連載第4回では、和歌山県や大分県の事例をもとに、スペースポートが地域と社会にもたらす可能性と課題を考える。(文=SpaceStep編集部)
教えてくれたのは

株式会社三菱UFJ銀行
サステナブルビジネス部 イノベーション室 室長
橋詰 卓実さん

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
コンサルティング事業本部 兼
イノベーション&インキュベーション部 副部長 プリンシパル
山本 雄一朗さん
スペースポートは単なる宇宙輸送の拠点にとどまらない。株式会社三菱UFJ銀行 橋詰 卓実さんは「スペースポートは次世代産業インフラとして、地域経済に大きな波及効果をもたらす」と強調する。
国内スペースポートの特徴と一覧(三菱UFJ銀行の資料より引用)
例えば、和歌山県串本町に2021年に建設された、スペースワン株式会社が運営する日本初の民間ロケット射場「スペースポート紀伊」。ここではロケット打ち上げ1本あたり約12億円の経済波及効果(除くロケット・衛星の売上)が試算されており、単発のイベントではなく継続的な地域活性の仕組みとして注目を集めている。

橋杭岩から見た打ち上げイメージ(串本町PRTIMESリリースより引用)
この12億円という数字の内訳は興味深い。まず射場の運営やロケット関連のサービスによる直接的な効果が約4.9億円、観光客の宿泊・飲食・小売といった非宇宙分野の消費が約4.1億円、さらに関連需要の拡大による間接的効果が約3.0億円にのぼる。つまり、宇宙ビジネスそのものに従事しない住民や企業にも裾野が広がり、地域全体を巻き込む経済循環を生み出しているのだ。
三菱UFJ銀行の資料より引用
橋詰さんは「10年間で累積すると最大3768億円規模に達する可能性がある」と語る。この試算には、打ち上げ回数の増加、関連産業の集積、地域ブランド力の向上といった複合的な要素が含まれる。実際、スペースポート紀伊では打ち上げイベントが話題となり、ふるさと納税の増加といった波及効果も現れている。直接的な雇用創出や企業誘致にとどまらず、地域全体の資金循環を変える装置として機能し始めているのだ。
観光資源としての効果も見逃せない。打ち上げ当日には全国から観光客が集まり、宿泊施設や飲食店が賑わう。ロケットの打ち上げを間近に体験することは他に代えがたい非日常体験であり、その体験価値がリピーターを生み、地域観光の柱になり得る。米国のフロリダ州では、射場が集積するケープカナベラルやケネディ宇宙センター見学を絡めてロケット打ち上げや宇宙関連のツアー・体験(含むSTEM教育)、さらに周辺地域のそれ以外の地域観光集客の連関がすでに定着しており、地元経済の重要な収益源となっている。州政府やNASAもこれらの経済インパクトを意識した予算投下を継続している。日本でも同様のモデルが成立する可能性があることを、串本町の事例は示している。
ロケット見学場の様子(2024年3月)(串本町PRTIMESリリースより引用)