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2026.01.27

世界最大級『IAC2025』現地で見えた日本の活路~【連載】世界基準で読む宇宙ビジネス

宇宙ビジネスの現在地を知るうえで、世界最大級の国際会議「IAC(International Astronautical Congress)」は欠かすことができません。2025年はオーストラリア・シドニーで開催され、私は現地で各国宇宙機関の戦略、企業の展示、研究者の議論を肌で感じてきました。本連載では、世界の動きをSpaceStep読者の皆さまに解説しながら、「日本はどうすべきか」という視点で読み解いていきます。第1回は世界最大級の宇宙関連国際会議「IAC2025」の現場から、日本の企業や自治体がどこに活路を見いだせるのかを考えていきます。(解説=株式会社2moon 伊巻和弥/文=SpaceStep編集部)

株式会社2moon
伊巻 和弥さん

新潟県上越市出身。宇宙業界で30年以上にわたり、有人宇宙飛行、人工衛星、および探査ミッションなど多彩なシステム設計・運用に従事。株式会社2moonを2023年に設立し、宇宙ビジネス参入支援、衛星打ち上げ支援、宇宙開発技術支援、地方創生・DX支援、企業コンサルティング、宇宙を活用したSTEM教育など幅広く展開。

これまで、米国の有人宇宙ミッションや国際宇宙ステーション(ISS)に関わるマニピュレータ開発・運用、月・火星探査プロジェクトの運用設計、そして衛星データを活用した地方自治体や産業向けの実証事業などを主導。深い技術知見と国際調整力、幅広いネットワークを背景に、40社以上のコンサルティング実績を持つ。

「IAC2025」で感じた「世界の速度」と日本の立ち位置

はじめまして。株式会社2moonの伊巻和弥です。私はこれまで、有人宇宙飛行、人工衛星、探査ミッションなどの開発・運用に30年以上携わってきました。現在は企業や自治体の宇宙ビジネス参入を支援しながら、世界の現場で得た最新情報を日本に伝える活動を続けています。今回『SpaceStep』でスタートする本連載では、宇宙ビジネスを「世界基準」で読み解き、日本の次の一手を一緒に考えていきたいと思います。

第1回のテーマは、2025年10月にオーストラリア・シドニーで開催された「IAC2025」です。IACは毎年秋に開催される1万人以上が訪れる世界最大級の国際宇宙会議で、宇宙機関のトップ、企業の幹部、研究者、宇宙飛行士などが一堂に会します。宇宙版の「ワールドカップ」とも言える場であり、世界の潮流を一度に把握できる貴重な機会です。

(資料提供=株式会社2moon)

今回、特に印象的だったのは「開かれたIAC」だったことです。シドニー中心部には巨大な宇宙飛行士オブジェが設置され、ウェルカムレセプションはストリートを丸ごと貸し切って実施。最終日は一般開放が行われ、子どもたちが宇宙飛行士のサインを求めて長い列を作っていました。宇宙を公共財として市民に近づけ、社会全体で支える産業にしていく──そんなオーストラリア政府の強い意志を感じました。

「IAC2025」は2025年9月29日~10月3日にオーストラリア・シドニーで開催された(写真=伊巻 和弥)

この姿勢は、私たち日本にとっても示唆に富んでいます。宇宙ビジネスは、もはや研究者や技術者だけの領域ではありません。世界では「市民を巻き込んだ産業」として育成する流れが加速しています。一般の人々の関心が高まり、政治家の理解が進み、予算が確保され、新たな企業が参入する。産業化の正しい順序がそのまま視覚化されているようでした。

また、IACは「情報の密度」が桁違いに高い場でもあります。各国宇宙機関による基調講演、企業の展示、研究者のプレゼンテーションなどが同時多発的に行われ、私は五感すべてを使って世界の動きを掴む感覚で会場を歩きました。特に印象的だったのは、各国が宇宙を国家戦略の中心に位置づけ、数年単位ではなく「数十年スパン」で未来像を描いていることです。

では、日本のビジネスパーソンがIACから何を学ぶべきか。私は大きく3点あると感じています。1つ目は「スケールの基準を世界に合わせること」です。日本では数十億円規模のプロジェクトも大きく見えますが、IACで示されるのは桁違いの投資とスピード感です。国家が支援し、民間が参入し、国際協力が前提となる──この当たり前を体感するだけでも視座が変わります。

2つ目は「国の戦略性と一貫性」です。オーストラリアのように宇宙庁設立から短期間で国家戦略を整備し、政府と産業界が一体となって成長を加速させる例を見ると、日本の政策運営が持つ課題も浮き彫りになります。

そして3つ目は「日本企業の勝ち筋を世界でどう作るか」を考えることです。IACは世界の“商談の場”であり、技術を売り込む企業、データビジネスを探す企業、投資家、研究機関が混ざって対話をしています。日本企業も世界で戦うには、この舞台に立つ必要があると強く感じました。

IAC2025の現場は、世界の速度と変化を肌で感じられる唯一無二の場でした。ここで見えた日本の立ち位置、そして活路のヒントについて、もう少し詳しくお伝えしていきましょう。

オーストラリア・米国・欧州──主要国の戦略から読み解く“日本のヒント”

「IAC2025」では、各国宇宙機関が最新の取り組みを発表し、国家戦略として宇宙をどう位置づけているのかを明確に示しました。ここからは、海外諸国の動向から、日本が学ぶべき点を整理してお伝えしたいと思います。

まず、今回の議長国、オーストラリアです。2018年に宇宙庁(Australian Space Agency)が設立されて以降、この国は宇宙を「国家産業」として急速に育てようとしています。これまでオーストラリアは、海外ロケットの追跡ステーションをホストするなど、どちらかといえば受動的な立場でした。しかし今は明確な成長路線に舵を切り、政府は5,000億円規模の予算枠を設けて産業育成を進めています。スタートアップ支援、衛星製造、月面ローバー開発など、多岐にわたる施策が動き出しているのが現状です。

先日、合意された「戦略的防衛調整枠組み(FSDC)」の中でも、「宇宙」が協力分野として明記されていますが、民間による産業レベルに安全保障分野も含め、今後の日豪協力は更なる深化が進みそうです。

(資料提供=株式会社2moon)

特に注目すべきは、アメリカとの協力関係です。オーストラリアはNASAと条約レベルの枠組みを結び、オーストラリア企業が米国現地法人を設立しなくてもNASAの主要プロジェクトに参画できるようになりました。これは世界でも非常に例の少ない特別な地位であり、アメリカへのアクセスを容易にする「近道」を手に入れたことを意味します。日本企業にとっても、将来的にオーストラリアと組むことでアメリカ市場へ参加しやすくなる可能性が広がっています。

(資料提供=株式会社2moon)

次にアメリカです。「IAC2025」においても最も注目を集めた国のひとつであり、月探査、民間宇宙ステーション、宇宙食のイノベーションなど、幅広い議論が見られました。とくに話題になったのが、月探査計画の継続です。政権交代の影響で中断も噂されていましたが、議会承認を経て計画は継続。背景には中国との月面開発競争があり、「いかに早く月面で存在感を示すか」が国家安全保障上の非常に重要な意味を持っています。更に、月面開発で重要となる電力供給について、原子力発電の利用や核融合発電の研究についても発言があり、また、健康や医療分野を含めた、「宇宙における人類の長期的な持続可能性」を最優先するとの発言もありました。

(資料提供=株式会社2moon)

(資料提供=株式会社2moon)

また、2030年に退役予定の国際宇宙ステーション(ISS)に代わる形で、民間が開発する宇宙ステーションが次々と計画されています。すでに5社が事業化に向けて動いており、日本企業も三菱商事や兼松などが出資・連携を始めています。日本の補給機HTV-Xを民間ステーションに接続し、商業利用する構想も進んでおり、ここには新たなビジネスチャンスが確実に生まれます。

(資料提供=株式会社2moon)

例えば、「宇宙食」の分野です。ISS時代は1.5年間の常温保存が必要でしたが、民間ステーション時代には、より美味しく、よりフレッシュな食が求められます。これにより急速冷凍技術や調理技術など、食品産業にも宇宙ビジネス参入の可能性が生まれています。ここでは、世界一と言われ世界遺産でもある「日本食(和食)」に大きなビジネスチャンスが生まれるのではないかと考えています。宇宙ビジネスは、もはや「宇宙技術者だけのものではない」ということを改めて示した分野でもあります。

そしてヨーロッパです。欧州宇宙機関(ESA)は「ストラテジー2040」を掲げ、環境保護、地球観測、持続可能な宇宙利用を最重要項目に位置づけています。特にコペルニクス衛星群から配信されるオープンデータは、世界中の企業に無償で提供され、衛星データ利活用ビジネスの起点として非常に有効です。実際、ヨーロッパではこのオープンデータを使ったコンテストやビジネス開発が活発で、IT企業の新規参入が続いています。

日本でもこのオープンデータを利用し、衛星データ利用ビジネスに参画している企業が数多くありますし、参画を伺っている企業も多いです。例えば、AIを使った画像解析や人流データ分析などを得意とする非宇宙企業は、まずは社内研究として無償衛星データを用いた解析にトライ、取り扱えることがわかると元々得意としているアセットを組み合わせ、独自のアイデアをエッセンスにビジネスプランを組み立てていきます。環境保護に繋がる良いアイデアなどあれば、ESA資金を獲得できる可能性もあります(EU圏内での企業が必要)。

(資料提供=株式会社2moon)

また、アリアン6ロケットの安定稼働や、再使用型ロケットの開発競争など、打上げ分野でも新たな挑戦が始まっています。ヨーロッパは「打上げの自立性」を強く志向しており、アメリカへの依存を減らす方向で産業設計を進めています。この姿勢は、日本が今後ロケット産業をどう再構築するかを考える際にも参考になります。

さらに、国を挙げた人材育成も特徴的です。ESAは教育プログラムを通じて、若い世代が宇宙に触れる機会を増やし、将来の技術者や研究者を育てようとしています。IACの会場にも学生が多く参加しており、将来の宇宙産業を支える層が厚く育っていることを実感しました。

現在、日本でも宇宙人材不足が大きな問題となっています。内閣府でも「宇宙スキル標準」などを通じて人材育成に力を入れつつありますが、政府と民間企業、そして大学等も一体となり、教育プログラムも取り込みながら進めていかなければならい問題だと感じています。

インド・カナダ・中国・日本──“次の主役”たちの動きと日本への示唆

「IAC2025」では、アメリカ・ヨーロッパ以外の国々も存在感を強く示していました。とくにインド、カナダ、中国、そして日本自身の動きは、今後10〜20年の宇宙産業構造を大きく左右すると感じています。

まずインドです。ここ数年で宇宙スタートアップは爆発的に増え、現在は300社を超える勢いです。政府は宇宙経済の世界シェアを「現在の約2%から10%へ」拡大する方針を掲げ、政策・資金・人材の三位一体で産業化を進めています。特に月探査では日本より一歩先を行き、2023年には世界で4番目となる月面着陸に成功(チャンドラヤーン3号)、2028年にはサンプルリターン(チャンドラヤーン4号)も計画。JAXAと共同で開発する⽉極域探査機(Lunar Polar Exploration: LUPEX)の取り組みも注目されており、インドは確実に宇宙大国へと歩みを進めています。

またLUPEXでの協力を機に、両国の交流も積極的に行われています。2025年4月には第3回日印宇宙対話が日本で開催され、双方の宇宙政策に関する情報交換のほか、安全保障、関係機関間協力、宇宙産業、測位衛星、宇宙状況把握及び宇宙空間に関する国際的なルールや規範等に関し、意見交換を行われました。ここでは両国合わせ約100名が参加し、宇宙関連企業間でも活発な交流がなされています。

(資料提供=株式会社2moon)

次にカナダです。人口規模は小さいものの、技術力と国際協力の姿勢は非常に高い評価を得ています。アルテミス計画に参加する宇宙飛行士や、山火事観測衛星など、防災・環境分野での実績は世界トップレベルです。また軍民両用技術(デュアルユース)を積極的に推進しており、宇宙空間サービスの分野では、企業との共同開発が特に盛んです。

日本とは、今までISSや国際宇宙チャーター(International Charter 'Space and Major Disasters')などの政府間協力が主軸でしたが、今年日本で開催されたアジア太平洋地域最大級の宇宙ビジネスに特化した国際カンファレンス「SPACETIDE2025」でも代表団が参加。カナダの宇宙計画と宇宙産業の可能性を紹介するとともに、日本の宇宙産業との交流を深め、着々と日本との将来の産業関係およびビジネス開発の可能性について準備を進めています。

(資料提供=株式会社2moon)

そして中国です。IACという場では環境保護やデブリ除去を強調する姿勢が見られましたが、その裏で宇宙利用の加速は止まりません。2007年の衛星破壊実験で生じた破片の多くはいまも軌道上に残っていますが、技術開発の速度は驚異的です。独自の宇宙ステーション「天宮」ではすでに複数の有人ミッションが続いており、国際協力の枠組みもBRICS諸国を中心に広がっています。また、政府支援もあり商業宇宙企業も500社を超えてきました。

IAC2025でも、数十社の商業宇宙企業が、主に衛星に関する技術で展示ブースを出しており、積極的に世界市場に売り込みをかけていました。なお、中国に関する宇宙ビジネス動向については次回のコラムで紐解いていく予定です。

(資料提供=株式会社2moon)

そして最後に日本です。IAC2025の会場では、JAXAは多くの国から高い信頼を寄せられていました。ロケット、衛星、有人技術といった幅広い領域で総合力を持ち、国際協力の実績も豊富です。しかし、その信頼の裏で「日本は次の一歩をどう踏み出すのか」という問いも突きつけられているように感じました。

(資料提供=株式会社2moon)

その一つが「自立性の確保」です。アメリカとの協力は極めて重要ですが、依存度が高すぎると技術やビジネスの主導権を握りにくくなります。宇宙戦略基金の活用など、日本独自の技術開発をどう支え続けるかが問われています。

また、日本が宇宙で勝ち筋を作るには「外需の獲得」が避けられません。国内市場だけでは事業が大きく育ちにくいため、アメリカ・オーストラリア・ヨーロッパ・インドなど、海外企業との連携は必須となります。特にオーストラリアとの協業は、NASAへのアクセス向上という観点でも、日本企業にとって大きな可能性があります。

さらに技術面では、月面着陸の「ピンポイント着陸」が次の競争軸になります。水資源が存在するとされる月南極の永久影領域は、着陸可能な平坦地が限られています。わずか100m程度のエリアを狙って安全に着陸する技術は、今後の月開発の生命線となります。この領域で日本が技術優位を築けるかどうかは重要な分岐点になるでしょう。

スペースデブリ対策も避けて通れません。日本企業が得意とする精密技術は、デブリ除去や軌道管理で活かせる場面が多く、国際的な協力枠組みが整えば日本の強みを発揮できる可能性があります。

IAC2025を通じて私が強く感じたのは、「日本はまだ十分に間に合う」ということです。世界の速度は確かに速いですが、日本には技術力、信頼、国際協力の実績という強みがあります。米中の「規模」に惑わされず、高信頼・小型・高機能のハード供給、自律制御技術、安全保障など、日本の得意とするこれらの領域を「外需獲得」「大胆な連携」「国家戦略との整合」という三つの軸で活かすことができれば、日本の宇宙ビジネスは再び世界の中心に返り咲けるはずです。

本連載では、世界の動きと日本の立ち位置を照らし合わせながら、読者の皆さんとともに「日本の次の一手」を考えていきたいと思います。どうか次回もお付き合いいただければ幸いです。

(第2回に続く)