SpaceStepで新たに始まる本連載は、宇宙業界で活躍する多様なプレイヤー(=「宇宙人」)との対話を通じて、宇宙ビジネスを“自分ごと”に変えるコラムです。聞き手を務めるのは、ITと福祉・教育を横断して社会課題に向き合ってきたハッピー・ファム合同会社代表、五嶋 耀祥(ひな)さん。プロローグでは、その原点と「地球丸ごとDX」への思いを語ります。(語り=五嶋 耀祥/文=SpaceStep編集部)

ハッピー・ファム合同会社 代表/社会起業家・ITコンサルタント 五嶋 耀祥(ひな)さん
北海道苫小牧市出身。苫小牧工業高等専門学校で情報工学と電子生産システム工学を学び、卒業後はシステムエンジニアとしてビッグデータ解析や業務システムの構築に従事。その後、大学事務職や子育てを経て、2015年にNPO北海道ネウボラを設立し地域支援を開始。2019年にハッピー・ファム合同会社を設立し、DX推進・IT教育・宇宙産業支援・女性や親子支援など多分野で活動。2021年には一般社団法人ファミリー支援INV協会を創設し代表理事を務める。ITと福祉、教育を横断するソーシャルビジネスの担い手として注目される。
はじめまして。宇宙ビジョンクリエーターの五嶋 耀祥(ひな)です。『SpaceStep』で連載を持てることをとても嬉しく思っています。これから始まる連載で、共創のパートナーとしての聞き手=ナビゲーターを務めます。まずはプロローグとして、私がどんな人間で、なぜ宇宙を語る場をつくろうとしているのか、少し遠回りに見えるかもしれない「人生の点」を、順にお話しさせてください。
私のルーツは北海道。苫小牧市で育ちましたが、実は3歳までは、むかわ(鵡川)町に住んでいました。家には図鑑や百科事典が並び、好奇心を刺激される環境でした。ちなみにノーベル化学賞受賞者の鈴木章さんと親戚関係にあります。
家庭環境としては、両親の離婚をきっかけに、母と弟と一緒に祖母の家へ移り、いわゆるひとり親家庭の子として育ちました。子どもの頃の私は、いわゆる「前に出たいタイプ」ではありませんでした。でも気づけば、委員長や代表などを任されることが多かったんです(笑)。「やる人がいないならやる」という気質が、当時から自然にあったのかもしれません。

今でこそ、宇宙ビジョンクリエーターを名乗っている私ですが、意外かもしれませんが、実は「理科が大嫌いになった時期」があります。正直に言うと、小学校の理科で45点を取ったことがきっかけで、いったん理科が大の苦手になりました。
ただ、気が付くと、科学や宇宙に自然と引き寄せられていた自分がいました。苫小牧には科学館があり、子どもでも足を運べる場所でした。私は図書館と科学館に通い、プラネタリウムを何度も観ました。点数ではない「理科の面白さ」に自然と惹かれていきました。
宇宙が一気に近づいたのは、小学校5〜6年生の頃。友達とチームで自由研究をしようとなり、惑星をテーマに、図書館の映像資料を見て内部構造や特徴をまとめ、発表したことがきっかけです。自分たちの手で「わかった気になる」のではなく、「わかるところまで分解してみる」。その体験が、今も私の思考の原型になっています。
さらに遡ると、宇宙への最初の衝撃は幼少の頃。当時、家には難しい百科事典や図鑑が多く並んでいて、それらをおもちゃ代わりに開いていました。そこでたまたま目に留まった「太陽が(遠い未来に)なくなる」というコラムを見て、幼心に言葉を失ったのを今でも鮮明に覚えています。宇宙は、ロマンである前に、「私たちの命があることは奇跡なのだ」と気づかせてくれたように思います。
ここまでのストーリーだけ聞くと、私が「理系一直線」の人に感じるかもしれませんね。けれど実は、私は漫画家や声優に憧れていた時期もあるんですよ。そんな私が、結果として高専に進んだのは、担任の先生の勧めが大きかった。結果として、高専で出会った「技術の基礎学力の大切さ」と「学び直しの喜び」が、後の私の仕事観を形づくることになりました。
高専に入ってからの私は、決して「優等生」ではありませんでした。プログラミングも数学も、最初から得意だったわけではなく、授業や実験についていくのに必死。卒業研究ではFPGAを扱い、英語ドキュメントに苦しみながらも、手を動かし続けて何とか形にしました。その体験が、今も私の思考の原型です。複雑なテーマほど、分解してわかるところまで進める。今の仕事も、この姿勢に支えられています。

社会人になってからも、私の学びは続きます。高専卒業後の最初の職場では、エネルギー業界で基幹システムのエラー対応やカスタマイズに触れ、北海道初の配送予測システムを独自に開発したこともありました。私にとっては、学校で学んでいたことと社会や企業の課題が結びついた初めての瞬間でもありました。
その後、高専の専攻科で学び直しを選び、情報・電気だけでなく機械や物質、環境まで分野横断で学びました。もしかすると「遠回りの勉強」と感じる方もいらっしゃると思いますが、私の中でこうしたプロセスのなかで「技術は、現場の言葉に翻訳されて初めて価値になる」という確信に変わっていきました。
専攻科を経て入ったインフラ系の企業では、24時間監視やサーバー管理など、止めてはいけないシステムの運用に関わりました。大手通信会社との協業で通信系の技術も学び、緊急通報のような領域に触れたことで、「システムは人の生活のすぐ隣にある」と体で理解しました。
2005年にはセンサーがなかったために実現できなかった灯油残量検知システム
ただ、人生は技術だけでは進みません。結婚・出産後、私はワンオペ育児の壁にぶつかり、非正規で働きながら、社会から切り離されたような孤独感を抱えました。今振り返ると、心身のバランスを崩し、私にとっての暗黒期だったと思います。
そんな暗闇の中で、私と子どもたちをつなぎ止めてくれたのが「宇宙」でした。小惑星探査機はやぶさの帰還のニュースを追い、子どもと一緒にキャンペーンへ応募して、はやぶさ2のカプセルに名前を載せてもらったり、大樹町の宇宙服の試着体験をしたり。宇宙に触れるたび、視界が開ける感覚があったんです。宇宙は孤独な日々の中に「社会との接点」をつくってくれました。

そして私は、自分の経験から「孤立しない子育て環境」の必要性を痛感し、フィンランドの子育て支援制度ネウボラをモデルにしたNPO活動を立ち上げました。NPO北海道ネウボラの設立は2015年。妊娠期から切れ目なく支える仕組みを、日本の地域に根づかせたいと思ったからです。
ネウボラの視察をした際の一枚
フィンランドの思想に触れて、私の中で一本の軸が生まれました。それは「合理的でシンプル」という姿勢。単なる効率化ではなく、多様性を認め合いながらも、誰もが生きやすい設計に統合していく考え方です。私はここで初めて、技術は「武器」ではなく、「みんなを楽にするための対話の道具」であるべきだ、と腹落ちしました。
NPOの活動を続ける中で、私は「継続性」を考えるようになりました。志だけでは続かない。だからこそ事業として、社会課題に向き合う器が必要でした。こうして私は、2019年にハッピー・ファム合同会社を設立します。JC札幌ソーシャルビジネスコンテストへの参加も経験し、活動を前に進める推進力を得ました。当社の事業はファミリー支援、ITコンサル、教育、そして宇宙ビジネス関連の研修や製品開発へと広がっていきます。

宇宙との接点が「趣味」から「仕事」へと変わっていったのは、高専OBネットワークへの参加や、JAXAマスク購入をきっかけに、宇宙業界とつながりが生まれたことが大きかったです。そこから、衛星データ活用システムの研究開発へ踏み出し、宇宙ビジネス導入研修や支援サービスの開発に挑戦しています。
私がいま掲げているビジョンは、「地球丸ごとDX」です。DXという言葉は、ときに「誰かを頑張らせるため」に使われてしまう。けれど私がやりたいのは逆で、みんなの心にゆとりをつくり、失敗した人が責められない仕組みへ変えていくことです。
2024年度内閣府特命担当大臣表彰を受賞した際の一枚
たとえば、北海道の冬の課題である除雪。いつ、どこを除雪すべきかは、長年、熟練者の勘や経験に依存してきました。そこに衛星データやITを組み合わせれば、積雪状況を把握し、最適なルートや優先順位を見える化できる。結果として減らせるのは、コストだけではありません。「判断のプレッシャー」そのものを減らし、現場の人を楽にできる。私はそこに、宇宙の価値があると思っています。
さらに言えば、除雪で解ける設計は、他のインフラにも横展開できる可能性がある。私は、宇宙を「特別な産業」としてではなく、社会の複雑さをほどくための選択肢として提示したいんです。実際、現場には「調べようとしても糸口がないほど複雑な業務」が積み重なり、長年の慣行の中で、無駄な業務が膨らんでいる現実があります。だからこそ私は、使う人目線で丁寧に設計し直し、誰もが安心して使えるシステムへ変えていきたい。
この連載で私が「宇宙人」と呼ぶのは、宇宙業界で活躍するさまざまなプロフェッショナルへの敬意です。宇宙には、研究者もいれば、エンジニアもいる。ビジネスパーソンも、教育者も、行政も、金融もいる。専門性の種類だけ、物語がある。私は、その一人ひとりの知見を「ビッグデータ」のように束ね、SpaceStep読者の皆さまが「自分の仕事と宇宙の接点」を見つける手がかりにしたいと願っています。
宇宙ビジネスは、ロケットや衛星といったハードだけの話ではありません。むしろ、宇宙から届くデータと、それを社会の課題へ翻訳する人の力が、地上の未来を変えていく。だからこそ私は、対話を重ねます。宇宙人と話し、皆さんとも話し、地球を少しでも「楽にする」道を一緒に探していきたいと思います。SpaceStep読者の皆さん、一緒に宇宙を楽しみましょう。