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  3. 日本は世界に押され気味?【連載】ゼロから学ぶ宇宙ビジネス(第3回)

宇宙産業がグローバルに拡大する一方、日本の存在感は相対的に低下しつつある。基幹技術では一定の強みを持つものの、最終製品やサービス市場での影響力は限定的だ。本連載第3回では、日本の宇宙政策の現状と課題、そして国内産業の自立に向けた動きを取り上げる。世界に押され気味とされる日本が、どこに活路を見出せるのかを探っていく。(文=SpaceStep編集部)

教えてくれたのは

株式会社三菱UFJ銀行
サステナブルビジネス部 イノベーション室 室長
橋詰 卓実さん

250917-1-037 (1)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
コンサルティング事業本部 兼
イノベーション&インキュベーション部  副部長 プリンシパル 
山本 雄一朗さん

政策の三本柱と国内バリューチェーン構築

日本政府は宇宙政策を三本柱で推進している。第一は2023年に閣議決定された「宇宙基本計画」であり、産業振興の全体方針を示している。国内市場規模を2020年の約4兆円から2030年代早期に倍増させることを目標に掲げ、国際市場で競争力を持つ企業を重点的に支援する姿勢を明確にしている。

第二は2024年3月に策定された「宇宙技術戦略」である。これは基本計画を実行するために必要な技術開発の体系化を定め、衛星や探査、安価かつ高頻度の宇宙輸送、さらには地球規模課題の解決を含む重点領域を掲げている。

第三は2024年6月に決定された「宇宙戦略基金」で、10年間で1兆円を重点開発領域に投資する仕組みを整えた。これにより、研究や技術の出口を産業につなげ、持続的に成長できる体制を整える狙いがある。

日本の宇宙政策の全体像(三菱UFJ銀行の資料より引用)

しかし政策の実効性を高めるためには、「国内バリューチェーンの構築が不可欠である」と株式会社三菱UFJ銀行 橋詰 卓実さんは強調する。現状、日本には商用ロケットが存在せず、小型衛星を打ち上げるスタートアップが増えているにもかかわらず、打ち上げは海外に依存している。その結果、今後10年間で約6,200億円もの資金が海外に流出すると試算されており、これはJAXAの年間予算の2.5〜3年分に相当する。

この問題を解決するため、MUFGは商業銀行として初めて商用ロケット開発を行うスペースワンに投資し、人材を派遣している。国内で衛星やロケットを製造・打ち上げられる体制を整えることが、宇宙産業を次世代インフラとして根付かせるための条件だ。さらに、こうした動きは観光や教育、地域経済にも波及効果をもたらす。和歌山県串本町のスペースポート紀伊は地域住民や子どもたちに夢を与える象徴的な存在となっているだけでなく、経済波及効果も期待される。

橋詰さんは「産業の血液循環をつくるのが金融の役割だ」と語る。MUFGは400兆円超のアセットを背景に、「世界が進むチカラになる」というMUFGのパーパスに基づき、研究資金から事業投資まで幅広い支援を提供し、産官学金を結ぶエコシステムの核となろうとしている。

グローバル競争のなかで低下する日本の存在感

グローバルな視点から見たとき、日本の宇宙産業は厳しい局面にある。三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 山本 雄一朗さんは「このままでは、現在置かれている自動車や半導体と同様、あるいはそれ以上の厳しさに直面する」と警鐘を鳴らす。

宇宙産業に対する各国の特徴とポジショニング(三菱UFJリサーチ&コンサルティング資料より引用)

日本は研究開発関連のロケットや宇宙産業向けの高性能素材、姿勢制御技術など、安全性や品質で評価される技術分野では強みを維持していると言える。しかし、世界市場で影響力を有するのは最終製品やサービスにあたるコンステレーション衛星や打ち上げ頻度の高いロケット、次なる国際宇宙ステーションプロジェクト等であり、そこでの存在感は相対的に低いのが現実だ。

宇宙産業は技術革新のスピードが速く、一度優位に立った企業が標準を握り、独占的な性質を持ちやすいのは想像に難くない。例えばグローバルでいうとロケットや宇宙ステーション、コンステレーション衛星やデブリ除去等、今を時めく領域に名乗りを上げる企業は数えるほどだろう。その中で日本が担うのは、日本・アジアの中で重要とされる部分の打上エコシステムを除くと研究レベルの技術や素材提供など「部品供給」に近い立ち位置などに留まってしまいかねない。

そのような日本の状況を踏まえても、宇宙空間そのものの争奪戦に留まらず「地上の経営課題を宇宙で解決する」という視点を追求していくことで、多様な企業に参入機会が広がっているのは事実だ。参入に向けた課題は、その接点をいかにして可視化し、実際の事業につなげていけるかである。

世界に遅れを取らないために

宇宙と接点を見出しながら、地上視点で日本が強みを発揮できる分野もある。例えば、防災やレジリエンスといった分野は日本ならではの重要領域である。地震や豪雨災害が頻発する国において、宇宙空間も活用した通信・測位インフラは、地上ネットワークが寸断された際の生命線となっていきうる。山本さんは「すべての企業に関係のある基盤として宇宙を位置づける必要がある」と強調する。効率化や自動化に向けた人材不足対策も、測位衛星の活用など宇宙技術が解決策を提示できる分野だ。

また、日本が強みを持つ基礎研究や安全性の高い技術は今後も重要な資産である。それをアップストリームに閉じ込めるのではなく、ダウンストリームの事業者や非宇宙領域の企業と結びつけることが必要だ。橋詰さんは「宇宙は閉ざされた領域ではなく、多様な産業と人材に門戸を開いた成長市場だ」と語る。政策の後押しと民間の挑戦が噛み合えば、日本が再び存在感を取り戻す可能性は十分にある。

グローバル市場で主導権を握るのは容易ではない。しかし、課題解決型のアプローチを通じて「日本だからこそ選ばれる」領域を育てていくことは可能だ。宇宙ビジネスはもはや遠い夢ではなく、私たちの社会課題に直結する現実のインフラである。その理解と実践を広げることが、次の10年における日本の立ち位置を決めるだろう。

次回「第4回:ロケット1本あたり12億円の地域効果⁉」へ続く