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2025.12.11

ゼロからの衛星づくり~「Emma」製造から打ち上げの軌跡(後編)

知識ゼロから始まった「コスモ女子」による人工衛星プロジェクト。専門知識の壁やコロナ禍の影響など、数々の困難を乗り越え、彼女たちの衛星「Emma」はついに打ち上げの時を迎えようとしていた。しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。アメリカ・フロリダで見届けた打ち上げの瞬間から、3カ月にわたる宇宙の旅、そして燃え尽きる最期の時まで。多くの人々の想いを乗せた小さな衛星の軌跡と、挑戦を成し遂げた彼女たちが見据える未来に迫る。
前編はこちら

お話を伺ったのは


コスモ女子 代表
塔本愛 さん

祈る想いで見届けたEmmaの旅立ち

製造にあたっての試験を経て2024年4月、満を持して完成したEmmaは、JAXAに引き渡され、ついに打ち上げの時を待つばかりとなった。

しかし、最後の最後まで試練は続いた。打ち上げを担うSpaceX社のロケットが、数か月前に打ち上げ失敗し、打ち上げ計画は一時凍結。打ち上げ日が確定しないままアメリカへ渡ることになったメンバーたちは、やきもきしながら続報を待った。

なんとか打ち上げ予定日に発射することとなり、事なきを得たのもつかの間。今度は打ち上げ1時間前に小雨が降りだした。ロケットの打ち上げは、3時間前までに雨が止んでいなければならないという厳しい規則がある。結果的に1日遅れとなったが、ついにその瞬間が訪れた。轟音と共に天を突くロケット。その姿を、メンバーたちは祈るような想いで見届けた。

フロリダの打ち上げ観測所にて。週に1~2回のペースでロケットが発射されており、現地住民にとって発射が日常化しているというのだから驚きだ

Emmaを乗せた補給船は、無事に国際宇宙ステーション(ISS)に到着。帰国していたコスモ女子メンバーは、JAXAの筑波宇宙センターにある管制室で、その瞬間を見守っていた。管制官からの「ゴー・ノーゴー コール(Go/No-Go Call」という最終確認を経て、スクリーンにはISSから小さな箱が宇宙空間へと放出される映像が映し出される。スクリーンに映し出された光景に、塔本さんは「あ、本当に宇宙に行ったんだ・・・」と思わず息を呑んだ。それは、これまでの苦労がすべて報われる万感の想いがこもった一言だった。 

JAXAつくば宇宙センターの管制室からのコール(写真左上、左の席に座っているのがコスモ女子メンバー

地球に向けて放出された衛星たち(他のキューブサットプロジェクトと同時に射出)

地上から見守った3カ月。多くの人が想いを馳せたEmmaの軌跡

Emmaが無事に軌道上へ旅立った直後、様子を見守っていた日本各地のアマチュア無線家たちから続々と吉報が舞い込んだ。SNS上に「受信できた!」という報告が次々と投稿されたのだ。自分たちの衛星がどこにいるか分からなかったコスモ女子メンバーにとって、それは何より嬉しい知らせだった。アマチュア無線家たちのSNS報告。地道な調整作業のあと、受信ができた時の気持ち良さ、そして宇宙空間と交信している実感が湧くのは、アマチュア無線の醍醐味だという

そこから、地上での長い観測の日々が始まった。Emmaが日本の上空を通過するのは1日に4、5回。そのタイミングを狙い、メンバーたちは交代で地上局に集まった。深夜3時に観測のために集まり、そのまま始発を待って仕事へ向かうこともあったという。彼女たちを突き動かしていたのは、宇宙にいるEmmaからの「便り」を自分たちの手で受け取るという、純粋な喜びだった。

Emmaの軌道要素を軌道計算ソフトに取り込み、自局の位置を設定後、リアルタイムで衛星の位置を追跡してアンテナを調整し、衛星と通信ができれば完了だ

しかし、当時の宇宙空間は太陽活動が活発な時期。太陽フレアの強い影響を受け、Emmaは予想よりも早く降下し始めた。それでも、同時期に放出された他の衛星が通信を途絶する中、Emmaは3カ月もの間、元気に信号を送り続けた。そして、ついにその役目を終え、大気圏に突入。流れ星のように燃え尽きて、その短い一生を終えたのだった。

挑戦が変えた、周りの目と自分たちの未来

「打ち上げ前、コスモ女子立ち上げ当初は、ゆるいコミュニティという見られ方がありました」と塔本さん。しかし、人工衛星の打ち上げという大きな成果は、周囲の見方を一変させた。「彼女たちは本気だ」と、その活動の真剣さが認められたのだ。TV出演や、NHK夜ドラ「いつか、無重力の宙(そら)で」の製造における取材協力を行うなど、認知が広まっている。それは、コミュニティにとって何よりの勲章だった。

(引用:NHK)元天文部の30代女子たちが「宇宙から地球を見る」という夢を叶えるため、超小型人工衛星を打ち上げることに挑戦する物語だ

そして、さらに大きな変化はメンバー自身の内にあった。この挑戦を通して、実際に宇宙関連企業への転職を決めたり、専業主婦から起業を果たしたりと、新たな一歩を踏み出すメンバーが現れたのだ。

塔本さんは、このプロジェクトを通して最も届けたいメッセージを語る。「私たちが伝えたかったのは、『挑戦すれば実現できる』ということ。そして、宇宙は決して遠い世界の話ではなく、『自分にもできるかもしれない』という可能性に気づいてもらいたかったんです」。その言葉は、まさに彼女たち自身が体現した真実だった。

コスモ女子の皆さん(右から三番目が塔本さん)

コスモ女子の挑戦は、まだ終わらない。「私たちの理想は、宇宙業界最大のコミュニティとなり、そこから活躍する人が次々と生まれていく状態を作ることです」と、塔本さんは未来のビジョンを力強く語る。人工衛星の打ち上げという偉業でさえ、その壮大な夢に向けた始まりの一歩に過ぎないのだ。彼女たちの物語は、これからも多くの人々に勇気と希望を与えながら、未来の宇宙(そら)へと続いていくだろう。