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2025.12.25

「観光」から考える宇宙と地域~【現場ルポ】宇宙港と歩む 串本町の未来(第2回)

和歌山県串本町出身、現在大学2年生の清野健太郎さんによるコラムも早いもので2回目となりました。地元に日本初の民間ロケット発射場「スペースポート紀伊」が誕生したことで、地元である清野さんはどのように考えたのでしょうか。今回は、日頃大学で「観光学」を学ぶ清野さんの視点で、スペースポートが地域にもたらす可能性について語ってくれました。では、清野さん、よろしくお願いいたします。(リード文=SpaceStep編集部)

書き手 和歌山大学 観光学部
清野 健太郎さん

和歌山県串本町出身。星空がキレイな山・海・川に囲まれた自然の中で育つ。和歌山県立串本古座高校在学中には「缶サットプロジェクトチーム」を立ち上げ、ロケット初号機「カイロス」打ち上げ時には高校公式YouTubeで生配信し、注目を集めた。現在は和歌山大学 観光学部で学びながら、串本町の広報活動やツアーガイドなどを通じ、宇宙と観光の可能性を探究している。(写真提供=清野 健太郎さん)

皆さん、こんにちは。

前回は、僕のふるさと・和歌山県串本町に誕生した、日本初の民間ロケット発射場「スペースポート紀伊」と、串本町の変化についてお話ししました。

今回は少し視点を変えて、僕が専攻している「観光」というレンズを通して、宇宙と地域の関係を考えてみたいと思います。

観光学を学ぶようになってから、観光とは「地域の内側と外側をつなぐ仕組み」であると感じるようになりました。外的な目線としては、観光客が訪れることで地域が観察され、魅力が再発見されることにつながります。内的な目線としては、観光客からの新しい風が吹き込み、同時に住民自身が自分たちの町を見つめ直すのです。観光は、単に“人を呼びこむ”だけではなく、“人と人とをつなぐ”ことなのだと感じています。

そんな中で、串本町にできたスペースポート紀伊は、まさに新しい「つながり」を生む要素だと考えています。

これまで串本町を訪れる観光客の多くは、橋杭岩や潮岬、世界最北限の群生サンゴ、ダイビングといった自然を基軸とした観光を目的としていました。しかし、ロケットという新しい要素が加わったことで、「科学」「宇宙」「挑戦」といった新たな文脈が地域に入り込みました。それは観光形態の多様化であり、「串本町」という地域におけるブランドの再構築でもあります。

たとえば、ロケットの打ち上げを見に来る人々。

その中には宇宙ファン、写真愛好家、教育目的の家族連れなど、これまで串本町とはあまり関係性がなかった層の観光客が多くいます。ロケットの打ち上げのみを捉えれば数分間の観光ですが、そのために町に泊まり、食べ、交流するという、「ロケット発射をきっかけとした滞在型観光」が始まっているのです。

これらの観光が盛り上がっている点は、「費用は抑えたい、でもロケットの発射は見に行きたい」というプッシュ要因と、「本州でのロケット発射」というプル要因がかみ合った結果、生じた好例だといえるのではないでしょうか。宇宙という非日常的な体験が、いままで関心を向けてこなかった地域への訪問動機となり、新たな観光行動を生んでいます。

一方で、いくつか浮き彫りになっている課題もあります。

まず、観光資源としての“宇宙”は非常に専門性が高く、誰にでも分かりやすく伝えるには工夫が必要です。単に「ロケットが飛ぶ町」としてプロモーションしていくのではなく、「なぜここで飛ぶのか」「どんな人たちが関わっているのか」といった背景を、観光の文脈でどう物語化するかが鍵になると考えています。

また、発射スケジュールの不確実性も課題です。決してロケットの発射は、観光のためにおこなわれているものではありません。上空の天候や技術的要因で延期されることも多く、観光の計画性に影響してくることは必至です。だからこそ、「ロケットが飛ばなくても楽しめる町づくり」が求められています。

その点、串本にはすでに豊かな観光資源があります。

海の圧倒的な透明度の高さ、虎の襖絵で知られる応挙芦雪館、地域の海洋生物とウミガメがみられる海中公園、紀伊大島のトルコ記念館・樫野埼灯台など、豊かな自然と深い歴史を持つ文化の両方がそろっています。これらを「宇宙」と組み合わせることで、より魅力的な物語を描けるのではないかと思います。

 観光×宇宙で地元に貢献したいと明るい未来を描く清野さん

たとえば、串本町の豊かな自然資源と、その空を越えて広がる宇宙の両方を体感できる観光モデルを形成することができれば、“地球と宇宙をつなぐゲートウェイ”としての存在感を強められるはずです。

新しい資源を生み出すことも重要ですが、持続可能性の観点から見た際、既存のものを活かしていくことも同じくらい重要です。

同じ海であっても、宇宙に関する視点が加わることで、発射場に寄り添う海として新しい意味を持ち始めます。地元の宿や飲食店も、ロケット関連メニューをはじめとする体験型商品を開発しており、町全体がひとつの“宇宙と共に歩むまち”として進化しつつあるのです。

一方で、地域住民との共生も大切です。

観光開発が進む中で、地域の暮らしが圧迫されたり、景観や環境に負担がかかるようでは本末転倒です。持続可能性の観点から宇宙という大きな夢を描くと同時に、地元の生活や自然環境を守るバランス感覚が欠かせないでしょう。観光は地域の観光資源のみならず、住民が生活するために必要不可欠な資源をも消費してしまう可能性もあります。観光がいかにポジティブな作用をもたらし続けられるのか、という視点で観光を捉えることも重要であると考えています。

最初にも書きましたが、僕は観光を「地域の内側と外側をつなぐ仕組み」であると考えています。

スペースポート紀伊がもたらした変化は、単純な経済効果ではありません。

宇宙という非日常を通して、人々が「自分たちの町ってこんなに可能性があるんだ」と再発見する過程こそが、スペースポート紀伊がもたらした本質的な価値ではないでしょうか。

ロケットの打ち上げを見に訪れた人が、帰り際に「またこの町に来たい」と思えることが、観光のもたらすポジティブな効果の一例であると考えています。

これからの串本町は、「宇宙の玄関口」であると同時に、「地域の魅力を再認識できる場所」として発展していくはずです。そして、僕自身もこの町の一員として、観光学を通じてその歩みを見つめ続けたいと考えています。

串本町における宇宙観光は、まだ始まったばかりの物語です。その序章に手を加えるのは、あなたを含む、この町に関わる全ての人々なのです。

(第3回に続く)