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2025.12.03

航空の限界を超えて宇宙へ~【連載】宇宙をみんなの遊び場に

皆さん、こんにちは、宇宙ビジネスナビゲーターの高山 久信です。前回はプロローグとして、私の生い立ちや宇宙ビジネスとの関わり、現在の仕事や思いについてご紹介しましたが、いよいよ今回から多様な業界からゲストをお招きし、皆さんと楽しく「宇宙ビジネス」について探求していきたいと思います。記念すべき第1回のゲストは、ANAグループで宇宙ビジネスに挑む全日空商事株式会社 宇宙ビジネス開発室長 鬼塚慎一郎さんです。2016年に始まったANAグループの宇宙への挑戦。なぜ宇宙に挑むのか、そして宇宙産業の未来をどう描いているのか。早速お話を伺っていきましょう。(ナビゲーター=高山久信/文=SpaceStep編集部)

今回のゲスト

全日空商事株式会社 宇宙ビジネス開発室長
鬼塚 慎一郎さん(写真右)

2002年全日空商事に入社。商社営業、財務、航空機ファイナンスなど多岐にわたる業務に従事したのち、2017年よりANAホールディングスでグループ経営戦略やM&A、空港コンセッション、イノベーション投資などを担当。2018年に宇宙事業化プロジェクトに参画し、人工衛星や関連インフラを軸に新規事業開発を推進するほか、スペースポートジャパン設立発起人理事、PDエアロスペース社の社外取締役も務めるなど、宇宙産業の発展に幅広く貢献している。2025年4月より現職。

ナビゲーター

株式会社minsora 代表取締役 CEO/宇宙ビジネスナビゲーター
高山 久信さん

1954年、大分県豊後大野市生まれ。高校卒業後、三菱電機に入社し、約40年にわたり人工衛星、ロケットや国際宇宙ステーション関連など、日本の宇宙開発利用に携わる。その後、三菱プレシジョンや宇宙システム開発利用推進機構などで宇宙関連事業に従事。2019年に株式会社minsoraを創業し、地域発の宇宙ビジネスや衛星データ利活用、教育・研修事業等を展開。地方から「宇宙を身近に、地域発のビジネスを創る」活動を続け、現在は、日本ロケット協会理事や九州衛星利活用の会副会長として、産業振興に尽力している。

ANAグループが宇宙に挑んだ原点

高山 栄えある第1回のゲストは、全日空商事で宇宙ビジネスを統括されている鬼塚 慎一郎さんです。よろしくお願いします。

鬼塚 よろしくお願いします。まさか自分が第1回とは(笑)。でも、このように宇宙ビジネスについて語る機会をいただけるのは、大変光栄です。

高山 鬼塚さんとは2016年、内閣府が主催した宇宙ビジネスコンテストが最初の出会いでしたね。当時、私は財団で宇宙利用推進を担い、また宇宙開発戦略推進事務局の宇宙分野への新規参入を推進する取組みをサポートして、全国各地での宇宙関連イベントに携わり、地域での宇宙ビジネスの可能性を広める活動をしていました。

鬼塚 そうでしたね。私はその時、ANAホールディングス(持株会社)の「グループ経営戦略室」にいました。航空事業だけでなく、グループの将来を見据えた新規事業を検討する部署で、新しい領域への投資や挑戦を考える役割でした。

高山 そのなかでANAグループさんが宇宙へ向かったのは、どのような理由があったのですか。

鬼塚 発想の起点は、ANAグループが抱えていた「構造的な限界」でした。航空ビジネスは、人や貨物を運ぶことで収益を上げるモデルです。しかし、航空機には輸送量という物理的な限界があります。座席数以上に人を乗せることはできませんし、貨物にも制限がある。つまり、質量に依存したビジネスモデルなのです。

高山 運べる量が増えない限り、収益の天井は変わらないということですね。

鬼塚 そうです。付加価値を高める、コストを下げる、その両方に取り組んできましたが、限界があります。ならば、「質量に依存しない収益源」を持つべきだと考えました。その可能性として浮かび上がったのが宇宙と衛星データ活用だったのです。

高山 航空機は、高度1万メートルを飛ぶ宇宙に最も近い移動体ですね。「質量に依存しない収益源」という視点は非常にユニークです。

鬼塚 航空機の位置データ、観測データ、衛星通信……。空を飛ぶ航空機は、宇宙に接続するポテンシャルを持っていると考えました。加えて、ANAグループは「大型アセットを運航し、管理する」ことに長けています。このノウハウは、人工衛星や宇宙関連の大型プロジェクトにも応用できるのではないかと。

高山 航空と宇宙はつながっている。ANAグループさんだからこそできる宇宙への拡張ですね。

鬼塚 実際に、航空機を使ってロケットを空中発射するVirgin Orbit(ヴァージン・オービット)の誘致プロジェクトにも取り組みました。飛行機の翼にロケットを装着し、高高度から人工衛星を打ち上げる。天候にも左右されにくく、離島などでも運用できる可能性があると考えていました。

高山 ヴァージン・オービットは、大分空港を宇宙港として利用するとしていたため、私も大分県での宇宙ビジネスへの機運醸成に向けたセミナーや宇宙講座の提供などに関わらせていただきました。現在も、大分県では宇宙ビジネス創出に向けて挑戦的な取り組みを進めています。

鬼塚 残念ながらヴァージン・オービットの事業停止により空中発射への取組みは、中断となりましたが、ANAグループが「宇宙を本気で事業にする」という覚悟を固めるきっかけとなりました。

高山 その後、ANAグループさんの宇宙事業については、全日空商事が主体となり、2025年4月に「宇宙ビジネス開発室」を設立されましたね。

鬼塚 はい。ビジネスとして実行するためには、商社機能を持つ事業会社が適任でした。事業内容は多岐にわたるのですが、人工衛星を中心とした事業開発が代表的な取り組みの一つです。特に低軌道の衛星は、経済耐用年数が4〜5年と短く、リプレース需要が継続的に発生する市場です。ロケット開発などよりもマネタイズが早いだろうという点も、人工衛星領域に注力した理由です。

高山 航空で培った「ファイナンス力」・「サプライチェーン管理能力」・「安全運航の思想」。この3つは宇宙ビジネスでも非常に価値がありますね。

鬼塚 宇宙ビジネスにおいて重要なのは、「特別な技術を持つこと」ではなく、「事業として成立させる力」です。ANAグループはそこに強みが発揮できると考えています。

まだ「産業」ではない――今乗り越えるべき壁とは

高山 宇宙ビジネスは「伸びしろ」があるのは間違いないですが、私は「まだ産業と呼べない」と感じています。理由はシンプルで、宇宙インフラが確立されておらず、産業として、自立した収益構造を持っておらず、国の予算やベンチャーファンドに依存している面が多いからです。

鬼塚 その通りだと思います。宇宙はロマンがありますが、産業として成立させるには「ビジネスとして回る仕組み」が必要です。特に日本は宇宙事業としての法整備や商習慣が整っていません。私たちがヴァージン・オービットを日本に誘致しようとした際も、制度面の壁は大きかったです。

高山 航空機からロケットを発射するために、法制度や手続きの整備が必要だったということですね。

鬼塚 はい。発射地点の法律、飛行許可、衛星運用に関わる国際ルールまで、複数の省庁にまたがる調整が必要でした。航空は航空法、宇宙は宇宙活動法。法律体系も異なる。最初に直面したのは、技術より「法制度」の壁でした。

高山 法制度が整っていないというのは、日本では宇宙を「事業」として扱った経験値がまだ少ないということもあるかもしれないですね。「どの省庁の、どの許可で進めるか」から考えないといけない。そもそもどこに聞いたらよいかわからない、という壁もあるでしょう。こうした点はビジネスを進めるうえで大きな負荷になります。

鬼塚 資金面も大きな課題です。日本の宇宙分野はまだ国の予算に頼らざるを得ないケースがほとんどで、自前で稼いで投資できる構造になっていない。つまり、「産業の定義」に達していません。

高山 収益を上げ、事業として回っている宇宙企業は、日本にはまだほとんど存在していません。

鬼塚 宇宙ビジネスを本当に産業化したいのであれば、ファイナンスが不可欠です。航空産業では、大型アセット(航空機)を運用するために、さまざまな金融スキームを活用して資金を調達します。こうした発想を宇宙にも持ち込むべきだと考えています。

高山 宇宙への投資にも、航空会社で培った資金調達のノウハウが活きる、と。

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