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2025.11.26

宇宙の“交通整理”を支えるJAXA発の超小型ミラー 〜町工場の精密技術が衛星の安全を守る

 

(引用元:PR TIMES

増え続ける人工衛星と宇宙ごみ(スペースデブリ)。この宇宙の“交通渋滞”が深刻化する中、衛星同士の衝突を防ぐための正確な位置把握技術が、これまで以上に重要になっている。その鍵を握るのが、地上からのレーザー光を正確に反射する「リフレクター」だ。この宇宙の安全を支える重要な部品が、JAXAの技術を元に製品化された。手掛けるのは、愛知県で精密機械加工を手掛ける石敏鐵工。日本のものづくり技術が、宇宙の安全保障に新たな光を当てる。

ミリ単位で位置を特定、SLR技術に不可欠な「反射器」とは

私たちの暮らしを支える人工衛星は、常にデブリとの衝突リスクに晒されている。この危険を回避するためには、衛星が今どこを飛んでいるのか、その軌道を極めて正確に把握し続ける必要がある。この高精度な測位を実現する技術が「衛星レーザー測距(SLR)」だ。

SLRとは、地上の観測局から衛星に向けてレーザー光を発射し、衛星に搭載された反射器(リフレクター)で反射した光が、再び地上に戻ってくるまでの時間を計測することで、衛星との距離を割り出す仕組みである。リフレクターは、地上から届くわずかなレーザー光を無駄なく捉え、発射元に向けて正確に送り返す役割を持つ特殊なミラーであり、SLRシステムに不可欠な心臓部ともいえる部品だ。


(引用元:PR TIMES

今回、石敏鐵工株式会社が発売したのは、このSLR用の「小型リフレクター」と「超小型リフレクター」だ。この製品は、JAXAが開発した高性能リフレクター「Mt.FUJI」の技術ライセンスに基づき製造されている。「Mt.FUJI」の最大の特徴は、マイナス100℃からプラス100℃以上という宇宙の過酷な温度変化や、強力な放射線、ロケット打ち上げ時の激しい衝撃や振動に耐え抜き、長期間にわたって高い反射性能を維持できる点にある。石敏鐵工は、このJAXAの最先端技術を元に、近年需要が急増している小型衛星や超小型衛星にも搭載可能な、軽量かつコンパクトな製品として市場に送り出す。

JAXAの知見が町工場へ。宇宙産業の裾野を広げる技術移転の好例

この製品化が持つ重要な意義。それは、宇宙開発の技術が専門の研究機関から地方の製造業へと受け継がれ、新たな価値を生み出している点にある。

製品を手掛ける石敏鐵工は、愛知県碧南市に拠点を置く精密機械加工の専門企業だ。その事業内容には、「航空宇宙関連部品製造」と並んで「瓦金型製造」も名を連ねるなど、日本の地域産業を支えてきた「町工場」としての側面も持つ。そんな企業が、JAXAという日本の宇宙開発の中枢が持つ最先端の知見を正式なライセンス契約のもとで引き継ぎ、自社の製造技術と融合させることで、世界レベルの宇宙用部品を製品化した。これは宇宙開発という巨大な産業が、もはや一部の巨大企業や研究機関だけのものではなく、高い技術力を持つ中小企業にも開かれていることを示す象徴的な事例だ。

JAXA発の信頼性の高い技術が、民間企業を通じて広く市場に供給されることで、多くの衛星開発企業が高性能な部品をより利用しやすくなる。これにより、日本の宇宙産業全体の技術レベルの底上げや、サプライチェーンの強靭化にも繋がるだろう。

代表取締役の石川 実良 氏が率いる同社は、2025年7月30日より開催された国際宇宙ビジネス展「SPEXA」で本製品を初公開し、本格的な販売を開始した。日本のものづくり現場で長年培われてきた精密加工技術が、今、宇宙の安全を守るための重要なピースとなる。この取り組みは、宇宙産業の裾野を広げ、日本の製造業に新たな可能性を示す好例として大きな注目を集めるだろう。