
(引用元:PR TIMES)
厚い雲に覆われていようと、漆黒の闇に包まれていようと、その“眼”は地上のすべてを鮮明に捉える。福岡の宇宙ベンチャーQPS研究所が開発した小型SAR衛星「クシナダ-Ⅰ」が、このほど初の画像取得(ファーストライト)に成功した。公開されたのは、夜のニューヨークから日本の田園風景まで、高精細に描き出された驚くべき地球の姿だ。同社が目指す衛星コンステレーション(多数の衛星の連携運用)構築に向けたこの確かな一歩は、日本の宇宙ビジネスが新たなステージへと進んだことを示している。
2025年8月5日に打ち上げられた株式会社QPS研究所の小型SAR衛星12号機「クシナダ-Ⅰ」。約1カ月にわたる初期調整を終え、その高性能な“眼”が初めて開かれた。SAR(合成開口レーダー)とは、衛星から地上に向けて電波を発射し、その反射波を捉えて地形を画像化する技術だ。カメラと違い、太陽光を必要とせず、雲や噴煙も透過するため、昼夜・天候を問わず観測できるのが最大の強みである。
今回公開されたのは、分解能46cmという世界トップレベルの「高精細モード」で撮影された画像だ。これは、地上の46cm四方のものを1つの点として識別できる能力を意味し、地上にある自動車の車種や建物の細かな形状まで判別できるほどの精度である。
その実力は、公開された3枚の画像からも見て取れる。新潟県越後平野の画像では、広大な水田の区画や、その中を流れる信濃川の様子がくっきりと捉えられており、農業分野での活用が期待される。

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また、夜間に撮影されたニューヨーク・マンハッタンの画像では、セントラルパークを囲む高層ビル群や、イーストリバーに架かる歴史的な橋の鋼鉄構造までが鮮明に映し出されている。天候に左右されず、都市インフラの状況をリアルタイムで把握できるSAR衛星の有用性が示された形だ。
今回の「クシナダ-Ⅰ」の成功は、QPS研究所が目指す壮大な構想の重要なマイルストーンとなる。その構想とは、多数のSAR衛星を連携させて運用する「衛星コンステレーション」の構築だ。コンステレーションが実現すれば、地球上のあらゆる場所を極めて短い間隔で観測できるようになる。
代表取締役社長CEOの大西 俊輔 氏は、「何機目になってもファーストライトを見る瞬間はワクワクします。私たちが目指す衛星コンステレーションの構築に着実に近づいていることを大変嬉しく思います」と、今回の成功への喜びと今後の展望を語る。コンステレーションが実現すれば、1機の衛星では数日に一度しか観測できない場所も、複数の衛星が連携することによって極めて短い間隔での観測が可能になる。
この高頻度観測がもたらす価値は計り知れない。例えば、大規模な自然災害が発生した際、夜間や悪天候でヘリコプターが飛べない状況でも、被災地の状況を即座に把握し、救助活動や復旧計画の策定に役立てることができる。また、日々のインフラ監視や農作物の生育状況の把握、さらには違法漁船の監視まで、その応用範囲は社会のあらゆる側面に広がる。大西氏は「弊社サービスが社会課題の解決の一端を担えるよう邁進してまいります」と、その社会的意義を強く意識している。
QPS研究所の挑戦は、九州大学発の技術を核に、北部九州を中心とした25社以上のパートナー企業と共に進められている。日本のものづくり技術の結晶ともいえるこの国産SAR衛星が、宇宙から私たちの暮らしを支えるインフラとなる。その未来に向けた確かな一歩がまた一つ、力強く刻まれた。