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2025.11.26

宇宙半導体を“誤動作”から守る新素材、日本の化学技術がISSで実証へ

 

(引用元:PR TIMES

宇宙空間を飛び交う目に見えない放射線、「宇宙線」。それは、人工衛星に搭載される半導体に深刻な誤動作(ソフトエラー)を引き起こす厄介な存在だ。この宇宙開発における長年の課題に対し、日本の化学メーカー、株式会社レゾナックが「半導体を包む樹脂」という全く新しいアプローチで挑む。宇宙線を吸収する特殊な半導体封止材を開発し、その効果を国際宇宙ステーション(ISS)で実証する実験が2025年秋にも開始される。この挑戦が成功すれば、宇宙で使われる半導体の常識が変わるかもしれない。

高性能化を阻む壁「ソフトエラー」、宇宙用半導体が抱えるジレンマ

近年の宇宙ビジネスの拡大は著しく、人工衛星の打ち上げ数は過去10年で約11倍に増加した。それに伴い、衛星に搭載される半導体(プロセッサ)への要求も高度化している。月着陸実証機「SLIM」のような自律航行、衛星インターネットサービス「スターリンク」のような高速通信、さらには衛星上にデータセンターを構築する構想まで、宇宙で処理すべきデータ量は爆発的に増え続けている。

しかし、ここには大きなジレンマが存在する。宇宙空間は、地上とは比較にならないほど強力な宇宙線が飛び交っており、これが半導体に衝突すると、一時的にデータが書き換わってしまう「ソフトエラー」という誤動作を引き起こす。このリスクがあるため、宇宙用半導体は信頼性を最優先し、あえて演算能力を抑えた設計にせざるを得なかったのだ。高性能化のニーズと、安定運用の必要性。この二律背反の課題が、宇宙開発の進化を阻む一つの壁となっていた。

この課題に対し、レゾナックが開発したのが、ソフトエラーの主要因である中性子を吸収する特殊な材料を配合した半導体封止材だ。半導体封止材とは、半導体チップを外部の衝撃や湿気から物理的に保護するための樹脂のこと。この「保護材」自体にエラーを防ぐ機能を持たせるという発想の転換が、今回の技術の核心だ。地上での実験では、この新素材がソフトエラーの発生率を約20%低減させることに成功している。


(引用元:PR TIMES

化学の力で社会を変える、社員の情熱から生まれた宇宙への挑戦

地上実験での有望な結果を受け、レゾナックは次なるステップとして、実際の宇宙環境での実証に踏み切る。2025年秋から開始予定のこの実験では、本封止材を使用した半導体チップを搭載した評価装置をISSの材料暴露実験装置(MISSE)に搭載。米国の民間宇宙企業アクシオム・スペースの協力を得て、宇宙線に晒された状態で半導体を実際に動作させ、ソフトエラーの低減効果を長期間にわたり評価する。地上では再現不可能な多様な宇宙線の影響を直接検証することで、次世代の材料開発に不可欠なデータを取得することが狙いだ。


(引用元:PR TIMES

この実験が成功し、封止材によるエラー低減効果が証明されれば、宇宙用半導体の世界に大きな変革をもたらす可能性がある。最大のメリットは、地上の民生品として広く使われている高性能な半導体を、大きな設計変更なしに宇宙へ転用できる道が開けることだ。これにより、開発コストの大幅な削減と、宇宙用半導体の飛躍的な性能向上が期待できる。さらに、封止材というシンプルな部品で対策できるため、周辺回路の設計コストを抑えられる点も大きなメリットだといえる。

この先進的なプロジェクトが、レゾナック社内の有志によるコミュニティ「REBLUC」から生まれたという点も興味深い。「化学の力で社会を変える」という会社のパーパス(存在意義)のもと、社員が自発的に集まり、宇宙関連材料を通じた社会貢献を目指して活動を推進してきたという。

社員一人ひとりの情熱が、宇宙という壮大な舞台での挑戦へと結実した今回の実験。その成果は、未来の人工衛星や宇宙データセンター、さらには月面基地で使われる半導体の礎となるだろう。