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2025.11.26

月面探査の“眼”を創る異色のタッグ、トップアスリートを支える技術が宇宙服開発に挑む理由

 

(引用元:PR TIMES

50年以上にわたり人類が遠ざかっていた月面に、再び足跡を刻む「アルテミス計画」。この歴史的なミッションにおいて、宇宙飛行士の“眼”を守る重要なパーツを、世界的なアイウェアブランドのオークリーが手掛けることが発表された。民間宇宙企業のアクシオム・スペースと提携し、次世代宇宙服「AxEMU」に搭載されるバイザーシステムを共同開発するのだ。スキーの雪山から自転車のダウンヒルまで、地上でアスリートの視界を守り続けてきた技術は、なぜ宇宙という最も過酷な環境で求められたのか。その背景には、両社が共有する革新への情熱があった。

光と影が牙をむく月面 〜宇宙飛行士を守る「2層構造の盾」

月面は、地球上とは比較にならないほど視覚的に過酷な環境だ。大気がないため太陽光は容赦なく照りつけ、一方で影はどこまでも深く、物体の輪郭を捉えることすら難しい。さらに、有害な放射線や微小な隕石など、目に見えない脅威も存在する。宇宙飛行士が安全かつ効率的に探査活動を行うためには、これらの脅威から目を守り、クリアな視界を確保する高性能なバイザーが不可欠となる。

この難題に応えるため、オークリーとアクシオム・スペースが開発したのが、革新的な2層構造のバイザーシステムだ。宇宙服のヘルメットに内蔵されたこのシステムは、必要に応じてシームレスにスライドし、状況に応じた保護レベルを調整できる。外側のバイザーには、強烈な太陽光を反射するためのゴールドコーティングが施され、内側のバイザーにも多層コーティングが施されることで、有害な放射線から宇宙飛行士の目を確実に守る。この技術は、オークリーが長年培ってきた高解像度光学技術(HDO)の集大成だ。

実際に宇宙を経験したアクシオム・スペースの宇宙飛行士、若田 光一 氏は「宇宙では太陽の光が非常に強烈で、まるで目を突き刺すように感じます」とその過酷さを語る。オークリーが開発するバイザーは、こうした極限状況下でも視界のかすみを低減し、月面の塵(レゴリス)から保護する耐傷性も備える。それは単なるサングラスではなく、宇宙飛行士の生命とミッションの成否を左右する、まさに「視覚の盾」なのだ。

異分野の専門性が融合し、宇宙服開発を加速させる

なぜ宇宙服という最先端技術の塊に、スポーツアイウェアのブランドが参画したのか。アクシオム・スペースがオークリーをパートナーに選んだ理由は、同社が50年にわたり「過酷な環境に挑むアスリート」のパフォーマンスを支え続けてきた実績と専門性にある。

オークリーの先進製品開発部門 シニアバイスプレジデント ライアン・セイラー 氏は「次に月面を歩く宇宙飛行士は、次世代のオークリーによる高解像度光学技術(HDO)を装着することになります。これは、決して軽んじることのできない責任です」と、この歴史的な共同開発への覚悟を語る。

このパートナーシップは、民間主導で加速する現代の宇宙開発を象徴する動きでもある。アクシオム・スペースの船外活動担当エグゼクティブバイスプレジデント ラッセル・ラルストン 氏は「このユニークなパートナーシップは、世界中の革新的な企業と連携し、宇宙服開発を進化させていくという我々の取り組みを体現しています」と述べ、異分野の知見を積極的に取り入れる姿勢を強調した。

かつて国家プロジェクトの専売特許だった宇宙開発は、今や多様なバックグラウンドを持つ民間企業が、それぞれの強みを持ち寄って新たな価値を創造する時代へと突入した。オークリーが50年間かけて地上で磨き上げた革新の歴史が、今、人類の活動領域を宇宙へと広げるための新たな礎となる。この異色のタッグが生み出すバイザーは、月面、そしてさらにその先の宇宙を目指す次世代の探査を、文字通り「明るく照らす」ことになるだろう。