
(引用元:PR TIMES)
スマートフォンが手放せない現代でも、山間部や災害現場など、携帯電話の電波が届かない場所は数多く存在する。そうした環境では地図アプリの精度が著しく低下し、業務の大きな障壁となってきた。この課題を、日本の宇宙技術で解決する新たな取り組みが本格化する。日本のほぼ真上(準天頂)の軌道を周回し、高精度な位置情報を提供する国産の準天頂衛星「みちびき」の信号を活用し、通信圏外でも高精度な位置情報を記録するシステムの実証事業だ。手掛けるのは、位置情報ソリューションを開発する株式会社moegi。このほど福島県いわき市の助成事業に採択され、地域連携のもとで開発が加速する。
なぜ、携帯電話の電波が届かないとスマートフォンの位置情報は不正確になるのか。それは、多くのスマートフォンがGPSなどの衛星信号を直接受信するだけでなく、携帯電話の通信網から送られてくる「位置補正データ」を併用することで、測位の精度を高めているためだ。通信圏外ではこの補正データが受け取れず、誤差が数メートルから数十メートルにまで拡大してしまうことが、インフラ調査や災害対応といった精密な位置情報が求められる現場での大きな課題となっていた。
この課題を解決するため、株式会社moegiが開発を進めるのが、日本の準天頂衛星「みちびき」と自社の位置情報管理アプリ「CALINT」を連携させる新たなシステムだ。「みちびき」は、GPSなどが持つ測位誤差を補正するための情報(補強情報)を、衛星から直接送信する「サブメータ級測位補強サービス(SLAS)」を日本全国に提供している。これにより、携帯通信網がなくても高精度な測位が可能になる。
今回の実証事業では、このSLAS信号を受信するための専用の小型ハードウェアを開発。SONY製のマイコン「Spresense」を用いて作られるこの受信機が「みちびき」からの信号を捉え、取得した高精度な位置情報をBluetooth経由でスマートフォンにリアルタイムで送信する。
これにより、ユーザーは通信環境に一切依存することなく、スマートフォンアプリ「CALINT Mobile」上で、動画や写真と共に正確な位置情報を記録・管理できるようになる。この革新的な実証事業は、福島県いわき市の「産産・産学連携共同研究活動奨励事業」に採択され、地域の企業や研究機関との連携を深めながら、社会実装に向けた開発を加速させていく。
この技術が社会実装されることで、これまで通信環境の未整備がボトルネックとなっていた多くの分野で、業務の効率化と安全性の向上が期待できる。
例えば、大規模な自然災害が発生した直後の被災地調査だ。通信インフラが寸断された状況でも、調査員はドローンや自身のスマートフォンで撮影した映像に正確な位置情報を紐づけることができる。これにより、被害状況の迅速かつ正確な把握が可能となり、救助活動や復旧計画の策定に大きく貢献する。同様に、老朽化が進む橋やトンネルといったインフラ点検においても、山間部などの電波が届きにくい場所での作業効率が飛躍的に向上するだろう。
また、農業分野での活用も有望だ。広大な農地を持つ農家が、作物の生育状況を記録する際に正確な位置情報を付与できれば、肥料や農薬の散布をピンポイントで最適化する「精密農業」の実現に繋がる。これは生産性の向上だけでなく、環境負荷の低減にも貢献する重要な取り組みだ。
moegiが提供する「CALINT Mobile」は、もともと動画・地図・位置情報を統合して記録できる点に強みを持つアプリだ。今回の技術連携は、その核となる位置情報の信頼性をいかなる環境でも担保することを意味する。地域の企業と共に研究会を組織し、その代表機関として本事業を率いる同社は、活動拠点の一つである福島県いわき市で地域に根差した産学官連携を推進している。
この取り組みは単なる一つの技術開発に留まらず、宇宙技術という先端テクノロジーを日本の地方が抱える具体的な社会課題の解決に結びつけるモデルケースとして、その意義は大きい。日本の空から常に降り注ぐ「宇宙の目」が、私たちの足元にある課題を解決する力強いツールとなる日は着実に近づいている。