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2026.05.26

部品調達の「時間革命」が宇宙開発を加速する 【連載】非宇宙産業から宇宙に挑む!

宇宙とは無縁に見えた業界や企業が、自らの強みを武器に宇宙ビジネスへ踏み出す姿を描く本連載。製造、IT、素材、サービスなど多様な分野の挑戦を通じて、宇宙産業が一部の特別な世界ではなく、誰にとっても可能性のある市場であることを伝えていく。連載第1回は、製造業の部品調達における「時間」の課題を解決するDXプラットフォーム「meviy(メビー)」を展開する株式会社ミスミにスポットを当てる。

宇宙ビジネスを支えているのはロケットや衛星だけではない。設計、試作、部品調達、サプライチェーンといった足元のものづくりもまた、宇宙開発のスピードを左右する重要な要素である。圧倒的な短納期を武器に、ミスミはいかにして宇宙のものづくりを支えようとしているのか。その戦略と、同社IDビジネス・ハブ社長代行 柳沢 将人さんが語る熱い思いに迫る。(文=JMPプロデューサー 長谷川 浩和)

お話を伺ったのは


株式会社ミスミ
IDビジネス・ハブ社長代行
柳沢 将人さん

株式会社インクスに入社後、株式会社アマダマシンツールを経て2016年に株式会社ミスミへ入社、ミスミの新規事業である「meviy」の事業開発に参画。meviyの開発、サービス立ち上げに従事。2018年より事業部長に就任、事業責任者として販売・開発部門を担当。2023年より企業体執行役員に就任、欧米事業統括としてグローバルでの事業成長を牽引。

技術はある。課題は「スケール」だった

製造業のデジタル化を牽引してきたミスミ。その新たな挑戦の舞台の一つが、宇宙産業である。IDビジネス・ハブ社長代行を務める柳沢将人さんは、これまで一貫して日本のものづくりの革新に向き合ってきた。

「最初はインクスという会社で働き、その後、工作機械メーカーで新商品開発からリリースまでを経験しました。そこで感じたのは、日本には技術があり、課題を解決する力もある。しかし、それをビジネスとして成立させ、スケールさせていくのは簡単ではないということでした」(柳沢さん)

その課題意識を抱えていた柳沢さんが出会ったのが、ミスミの新規事業「meviy」だった。

「これだけ顧客がいるミスミという会社でこのチャレンジをすることが、その答えになるのではないかと思いました」(柳沢さん)

1963年に設立されたミスミグループは、2025年度売上4,413億円、社員数11,064名を有するグローバル企業である。世界107拠点、顧客数32万社超というネットワークを持ち、製造業における「社会インフラ」としての役割を担ってきた。同社の強みは、圧倒的な「品ぞろえ」と「確実短納期」にある。柳沢さんは、その強みを守り続ける責任についてこう語る。

「この強みの維持には文字通り命を懸けています。お客様からは、『電気・ガス・水道・ミスミ』と製造業のインフラとしての評価をいただいており、その信頼を裏切らないことが我々の使命です」(柳沢さん)

1977年に工業製品をカタログ化し、型番でスペックを指定すればいつでも確実に部品が届くという仕組みを構築したミスミは、日本の製造業の発展を陰から支え続けてきた企業である。しかし、長年製造業を支えてきたからこそ見えてきた根深い課題があった。それが、部品調達における「時間の三重苦」である。設計や製造のデジタル化が進む一方で、調達の領域だけは紙図面やメールを用いた非効率なプロセスが残っていた。

例えば1,500点の部品からなる装置を1台作る場合、図面を作成し、サプライヤーとやり取りをし、見積もりを待つという工程だけで膨大な時間が失われている。

「作図工程だけで約750時間。さらに、加工会社への見積もり依頼、発注後の納品待ちといった時間も含めると、トータルで約1,000時間を使っているのです」(柳沢さん)

積み上がる待ち時間が、産業全体の損失になる

ミスミの試算では、部品点数1,500点の設備を1社が年間1台製造すると仮定した場合、製造業全体で年間3億8,000万時間に相当する時間が費やされ、間接コストは年間2兆円以上にのぼるという。この課題を根本から解決するために生み出されたのが、機械部品調達AIプラットフォーム「meviy」である。meviyの特徴は、顧客側の革新である「AI自動見積もり」と、生産側の革新である「デジタルものづくり」を同時に実現している点にある。

設計データ(3Dデータ)をWeb上にアップロードすることでAIが形状を解析し、あとは条件を設定するだけで、その場で価格と納期が確認できる。柳沢さんは、公差まで設定できる点にmeviyの独自性があると語る。

「材質やメッキ、そして公差を設定する作業が、Webブラウザ上で完結するのです。3Dデータをアップロードし、公差まで設定したうえで、そのまま機械部品が買えるサービスは私が知る限り世界でもmeviyだけです」(柳沢さん)

ミスミが宇宙産業に目を向けた背景には、製造業で培ってきた「時間価値」を、これまでとは異なる成長領域でも発揮できるのではないかという考えがあった。柳沢さんは、限られた人員と時間で開発に挑む宇宙関連企業やスタートアップこそ、meviyの価値を強く必要としている存在だと考えたという。

従来であれば図面作成、見積もり依頼、サプライヤーとのやり取りに時間を要していた工程が、meviyでは3Dデータをアップロードして条件を設定するだけで、瞬時に価格と出荷日の確認まで進められる。さらに、対象部品によっては最短1日目出荷にも対応する。こうした革新的な時間創出のシステムを持つミスミだからこそ、限られた時間とリソースで戦う宇宙関連企業やスタートアップの開発現場を支えることができるというわけだ。

これまでの常識が通用しない宇宙産業への挑戦

一般産業向けに大きな成果を上げてきたmeviyだが、宇宙領域への参入は決して平坦な道のりではなかった。ミスミはこれまで、ファクトリーオートメーション(FA)や生産設備、装置の部品を中心にビジネスを展開してきた。しかし、新たな成長産業への早期参入を目指し、限られたリソースと時間の中で戦う宇宙スタートアップの開発を支援すべく、宇宙産業へのフォーカスを強めていった。ミスミは2022年4月、アクセルスペースとの宇宙機製造アライアンスを締結した。しかし当初は、宇宙産業特有の要求に十分応えきれず、「できません」と返す場面も少なくなかったという。

「アライアンス締結当初、多くのご要望をいただいたのですが、実態は『できません』とお返しすることの連続。理想と現実のギャップを痛感するスタートでした」(柳沢さん)

宇宙産業における部品調達には、一般産業向けとは異なる難しさがある。

「本当にこれまでの常識が常識ではないのです。例えば我々がこのくらいの材質とメッキを揃えていればいいだろうと思っていたものが全く違っていたりする。品質保証の考え方なども変わってきますから、我々自身の宇宙ビジネスへの理解や、お客様に対するこれまでの前提も、臨機応変に変えていかなければならないと日々感じています」(柳沢さん)

宇宙関連の開発では、これまで一般産業向けで前提としてきた材質や表面処理とは異なる要求に直面する。アロジン処理相当や不動態化処理といった、宇宙産業向けの特殊な表面処理への対応もその一つだ。また、航空宇宙機器特有の軽量化を目的とした複雑な削り出し加工など、要求される技術のハードルは極めて高い。

宇宙の特殊性を、仕組みで乗り越える

しかし、困難に直面しながらも、ミスミはその壁を乗り越えるための学習と進化を続けている。特殊な要求であったとしても、それを一度プラットフォームの機能として取り込んでしまえば、ミスミの持つ最大の強みである「確実短納期」の仕組みに乗せることができるからだ。また、米国でスタートアップ向けに加工部品やアセンブリ品を提供してきたFictiv社をグループに迎えたことも、宇宙領域への対応力を高める一手となっている。日本の顧客に対してミスミが受注・提案し、Fictivのケイパビリティも活用しながら、より複雑な部品へ対応していく構想だ。

「形状の難易度が高い案件や、特殊なメッキ処理が求められるケースもありますが、こうした技術的なハードルを乗り越えれば、最終的には当社の強みである確実な短納期と高品質な提供へと落とし込めるのかなと感じています」(柳沢さん)

宇宙産業だからといって、完全に別次元の孤立したサービスが必要になるわけではない。

「航空宇宙分野だからといって、特殊な加工業者としての位置づけにとどまるわけではなく、むしろ横断的なプラットフォームとして価値を提供できる可能性が見えてきたと思います」(柳沢さん)

厳しい要求水準をシステムとして標準化し、広く多くの企業へ提供できるようになること。これこそが、meviyが宇宙領域で発揮できる最大の価値であり、高い要求水準に応え続けることで、日本の宇宙ビジネス全体の競争力を底上げする力となるのである。

自動見積もりによる速さがmeviyの強みである一方、対応できる製品範囲には限界もある。そこでミスミは、パートナー企業と顧客をつなぐ「meviyマーケットプレイス」も展開している。自動見積もりでは対応が難しい部品であっても、パートナー企業とのマッチングを通じて調達の選択肢を広げる。宇宙産業のように特殊な要求が多い領域では、この「入口の広さ」も大きな意味を持つ。

同じ苦労を、みんなが繰り返さなくていい未来へ

現在、多くの宇宙関連企業は、特殊な部品を手配するために専用の加工業者を探し回り、多大な時間を費やしている。部品調達におけるこうした「当たり前」を覆すことこそが、ミスミのプラットフォームとしての使命だ。

「『宇宙関連の加工部品は専門の加工業者でなければ対応できない』という固定観念がまだ根強く残っています。しかし、我々がプラットフォームとしてのケイパビリティ(対応力)を高め続ければ、宇宙関連の加工部品であっても、『ミスミで手軽に手配する』という選択肢を広げていけるはずです」(柳沢さん)

ものづくりのハードルを下げるために、ミスミは現場からのフィードバックを強く求めている。

「だからこそ、『ミスミにこれをもっとやってほしい』とか、『ミスミがこれをできるようになるともっと楽になるのでお願いしたい』、というような現場の声をぜひいただきたいなと思っています」(柳沢さん)

これから宇宙産業に参入しようとする企業にとって、部品調達のルートを開拓することは大きな障壁となる。柳沢さんは、自社がその苦労を引き受ける意義を語る。

「これから宇宙産業に入る方々は、サプライチェーンをつくる時に同じ苦労をするわけです。だったら、うちが一社苦労して広く提供できるようにしてしまえば、少なくとも同じ苦労をみんながする必要はないですよね」(柳沢さん)

ミスミには、社員個人の成長が会社の成長につながり、さらにものづくり産業や社会全体の成長へと広がっていく「成長連鎖経営」という考え方がある。柳沢さんは、その中で大切にしているキーワードとして「正しく挑戦」を挙げる。宇宙産業への取り組みもまた、単なる新規市場開拓ではなく、ものづくり全体の可能性を広げる挑戦なのである。限られたリソースで戦う開発者たちを、図面作成や納期管理、サプライヤー探しといった負担から解放し、本質的な開発業務に集中してもらうこと。それが、meviyが目指す究極の支援の形である。

宇宙の未来を、ものづくりの足元から支えたい

宇宙産業の未来について、柳沢さんは強い期待を寄せている。

「将来のポテンシャルはすごいものがあるとやっぱり思います。国が支援をするということもありますし、より防衛や経済の観点で宇宙が大事になっていくことは間違いないので、ひとりのビジネスパーソンとしても、日本として盛り上がってほしいなと心から思います」(柳沢さん)

ミスミが掲げる「ものづくりに創造と笑顔を」というミッションの通り、前向きに挑戦し続ける人々を後押ししたいという。

「かつては、どの現場にもミスミのカタログが置かれていました。いま、その役割を担うわかりやすいものはないですが、やっぱり航空宇宙のお客さんのところへ行った際には、必ずmeviyが立ち上がっているような未来を目指したいですね。設計して、meviyを立ち上げ、まずデータを投げ込む――その一連の流れを当たり前にすることを目指したいです」(柳沢さん)

宇宙ビジネスに携わる面白さについて、柳沢さんは「本当にロマンじゃないですか」と語った。すぐに大きくなる産業ではない。それでも、未来を目指して挑む人たちがいる。「我々も陰ながら一生懸命応援したい」。その言葉には、部品調達という実務の先に、日本のものづくりの未来を見つめるまなざしがあった。

まずは治具、試作機の一部、内部パーツといった開発現場で、meviyが当たり前のように立ち上がる世界へ。設計者がサプライヤー探しや納期調整に追われるのではなく、本来向き合うべき開発に集中できる環境をつくること。それが、ミスミが宇宙産業で果たそうとしている役割である。非宇宙産業から踏み出したミスミの挑戦は、日本の宇宙産業を足元から支える確かな推進力となっていくはずだ。

取材を終えて

取材の冒頭、私がSpaceStepに懸ける思いをお伝えすると、柳沢さんは「一層やる気が出ました」と力強く応えてくださいました。その一言に、製造業の「時間の三重苦」に向き合い続けてきた柳沢さんだからこその共鳴があったように感じました。そして同時に、SpaceStepが掲げる「宇宙ビジネスを身近にする」というテーマの意義を、改めて実感しました。

地上の製造業と宇宙産業のものづくりは、極限環境への対応や品質保証の考え方など、異なる点も少なくありません。一方で、限られた時間と人員の中で開発を進め、サプライチェーンを構築し、試作サイクルをいかに早めるかという課題には、共通する部分も多くあります。だからこそ、業界間にある情報や意識のギャップを埋めていくことが、日本の宇宙産業をより強くする力になるのではないかと感じました。

ミスミのようなプラットフォーム企業が持つ強みを、宇宙産業に関わる皆さんにも広く知っていただきたい。そして同じように、これまで宇宙とは距離があると思われてきた企業が、自社の技術やサービスを武器に宇宙産業へ踏み出していく。そんな挑戦が増えていけば、日本のものづくりも、宇宙ビジネスも、きっともっと面白くなるはずです。